母の死 ヴァイオレットSide
ポップの畑が馬車の窓から見える。早春からの種まきを終えた畑から、緑の芽が伸びてきていて、広大なポップ畑は発芽で胸躍りそうな躍動感に溢れている。
それなのに、私の母は死んだ。奇妙な死だ。不審な死だ。
――お母様が亡くなるはずがない。
私は馬車の中で涙が溢れて止まらなくなり、泣きじゃくった。お母様を墓地に埋葬するお葬式からの帰りで、馬車の中には若い侍女のアデルとシャーロットおばさまが乗っていた。父の悲嘆っぷりも相当なもので、目に見えて憔悴していた。父は前の馬車に乗っている。
墓地にいた、私より少し上の男の子の事を思い出した。彼もお葬式のようで、真っ青な顔で歯を食いしばって誰かが埋葬されるのを見ていた。くしゃくしゃの髪が太陽に輝き、男の子の表情と違ってそこだけ光り輝いて見えたので、記憶に残った。その子の碧い瞳から静かに涙が溢れていた。そこに、おしのびでアルフレッド王子がやってきていると人々が話しているのを聞いた。アルフレッド王子は栗色の髪をしていて、やはり私より少し上の男の子で精悍な印象だった。陛下の甥だと聞いた。彼は金髪の男の子を時々優しく抱き締めていた。
「ヴァイオレット、お母様はあなたのそばにいますよ。空の上から見ています」
馬車の窓の外を見ながら涙をこぼしている私に、シャーロットおばさまが私を抱きしめにようにして、綺麗なハンカチで涙を拭いてくれた。
「頭の中で声が聞こえるかしら?」
おばさまは奇妙な事を聞いた、と思った。
「え?お母様の声が?」
私は考え込んだ。
「聞こえないわ。誰の声も聞こえない」
私は涙を堪えて考え込んで答えた。侍女のアデルは妙な質問をすると言った顔でシャーロットおばさまの顔を一瞬チラリと見た。私は少し冷静になって、人は死んだら大切な人の頭の中で声を伝えてくるのだろうかと思った。
頭の中はしんと静まり返っている。一度止まりかけた涙は、ますます止まらなくなって私は泣き崩れた。
十歳の春、最愛の母が亡くなった。バリドン公爵家に継母ルイーズが来るのは少し後だ。
「ポップは苦いわ」
シャーロットおばさまは春の早春に蒔かれた種から出たポップの新緑を馬車の窓から苦々しげに見つめていた。