アデルの初恋 侍女アデルSide
バリドン公爵邸の庭に青紫のユキワリソウが咲いているのが見える。紅葉したベニバスモモのピンクの花が見える。チェリープラムだ。
春の日差しが柔らかく差し込む階上の一室は、いかにも貴族らしい調度品で整えられていて、贅沢だ。私はベッドにいる。
私の初めての恋人は貴族のノエルだ。男爵だという。
私はバリドン公爵家の長女ウァイオレットお嬢様の侍女のアデルだ。つい最近彼の恋人になった。数ヶ月に渡って口説かれたのだ。とても素敵な男性だ。結婚の約束なしに体を許してはいけないのは知っている。でも、彼は私と結婚してくれると言ってくれたのだ。
私は何もかもが初めての経験だった。彼が私に色んなことをゆっくりと教え込んだ。彼は私を褒めてくれた。
彼は偶然にも、いつもお嬢様が留守の時に私を呼び出した。だから私は彼のところに行くことができた。バリドン公爵家の隣の敷地にいつの間にかノエルが越してきていて、私は勝手口からこの数ヶ月出入りしていた。
「ノエル、大好きよ」
「アデル、最高だよ。僕も大好きだ」
彼の唇が私の唇に重なり、私たちは口付けをした。
心地よい温かさを彼の腕の中で感じた。
「ねぇ、お嬢様は次はいつレキュールの地に行くの?君も一緒について行くんでしょう?」
ノエルが腕枕をしたまま私に聞いた。
「ノエルったら、会えないからって拗ねないで」
私は彼のほっぺを軽く笑いながらつついた。彼は思わず苦笑した。
「そうだね。君に会えないとすごく寂しい」
彼は私に向かって真剣な表情で言った。エメラルドの瞳がとても綺麗だ。私はノエルの前髪をそっとかき上げて上げながら、ささやいた。
「今は、レキュール辺境伯自らこちらにきているのよ。だから、お嬢様とはお屋敷や王立修道院でお会いして計画について話しているわ」
私の言葉で彼はそっと微笑んだ。
「そうか。ならば、アデルと毎日会えるね。嬉しい」
ノエルは私をぎゅっと抱きしめてくれた。とても幸せだ。侍女の身分でノエルのような立派な方に愛されるのは、とてつもない幸運だと自覚している。
私は全てをノエルに委ねて、幸せな温かさに包まれていた。
私は、ノエルがいつもお嬢様のことを聞くのは、私が自由になる時間を確認しているからだと思っていた。
ノエルの煌めく瞳の中に私が映っている瞬間は、生涯最高の瞬間になる。私はそう確信していた。