第十話「第三次世界大戦」③
「さぁ、どうするね? 残り時間はもう一分もない……このまま黙って引き下がって敗者の烙印を押されるか。或いは、横紙破りを承知の上で我々に攻撃命令を下し、奴らに一矢報いるか……どちらを選ぶんだい?」
まぁ、どちらにせよ……この司令官は終わってる。
トノバ中将……タカ派の最先鋒として有名で、木星人など鎧袖一触とかほざいてた物事が見えていない大バカ野郎だった。
こうなったからには必然的に、艦隊戦の敗北の責任を取らされて失脚し更迭されるのは間違いない……。
はっきり行って、威勢だけで無能……それくらいには何もかも雑魚い指揮で、勝ち目のない戦いを挑んで、無為に配下を死なせた……まぁ、軽くA級戦犯と言えるだろう。
アマテラスもむしろ、失敗することが解りきっていて、タカ派の声のデカいやつに艦隊を預けて、失敗したら責任を取ってご退場いただく……そんな所だったのかも知れない。
もっとも、すでにアマテラスから総撤退命令が出ている以上、ここで横紙破りで攻撃命令を出したとしても、結局抗命の誹りは免れないだろう。
さすがに、軽々しく決断できないようで、通信回線の向こう側のトノバ司令は沈黙を続けていた。
「おいおい、このまま黙ったままだと、私も敵を見逃すしかなくなってしまうぞ。どのみち、このままだとアンタを待ってるのは、敗軍の指揮官と言う不名誉極まりない立場だろうからね……。ならば一発逆転に望みを賭けて、アタシらに残り全額ベットするのも手じゃないかな? さぁ、残り時間は30秒を切ったぞ……すまないが、上にお伺いを立てる時間も部下と相談する時間も与えられないぞ」
実際、難しい決断を要求しているとは思う。
だが、決断するのは私じゃないし、こうやって上申し決断を投げたからには、何が起きようとも私には一切の責任はない……軍組織としては至って当たり前の話だった。
「……い、いいだろう! この私がすべての責任を取る! そうだ! これは司令官命令であるっ! 解ったら、直ちに撃て! 奴らをここから生かして帰すなっ! 確実に……滅ぼせっ!」
思わずほくそ笑む。
こう言うバカで直情的な指揮官なんて、ちょっと煽ってやれば簡単だった。
いずれにせよ、言質は取れた。
「命令受領した……では、現場のことはこちらに任せておけ。お前たち聞いていたな! 上のゴーサインが出たぞっ! いっちょ派手にやってやれ! 弾種はブリューナク! 目標『Feard Oracles』! 一発かまして身軽になったら、各機全速離脱で構わんぞっ!」
「4番機了解……さっさとトンズラって訳ですかい。まぁ、ドックファイトになったら、さすがにちょっとキツそうな連中が相手ですし、ライジング・サンはあくまで対艦攻撃機……妥当な判断ですね」
「2番機了解! 目標『Feard Oracles』! で、狙いはどこにします? 今の間だけは、どこだって選り取り見取りですからなぁ」
「あんな解りやすくデカいプロペラントタンクが見えてるんだから、それで決まりだ……! 目標、一際デカいヤツッ! そいつ目掛けて全機集中攻撃だ……飽和攻撃で一撃で決めろっ!」
「「「「了解っ!」」」」
光学迷彩と電磁迷彩を施したステルス核融合弾……8機分合計16発。
如何に人類統合体の先進宇宙戦艦が周囲を固めていても、初撃を防ぐ事はできないのは確実だった。
全機体のブリューナクの射出を確認。
「ブリューナク……正常に目標を追尾中! さすが隊長の設計した最新ステルス兵器……向こうに感づかれた様子もない……これは……いけますな!」
モニターでも全ての弾頭が正常にカタログスペックを発揮して、敵に勘付かれた様子もなく、音もなく急上昇していく様子が見える。
未だ敵の反撃はなし……どうやら、完全に奇襲に成功したようだった。
「全弾ブースター一段目……燃焼完了! さすがに感づかれたようですな……迎撃機が動き出しましたぜ!」
「馬鹿め! もう遅いっ! ……3、2、1……弾着、今ッ!」
ナビゲートAIでもあるイロハを黙らせているので、自分でカウントダウンした。
やっぱ、こう言うのがないと燃えないだろ?
そもそも、アイツが稼働していたら、全機体まとめて武装ロックくらい容易いことだからなぁ……。
まぁ、こう言うこともあろうかと思って、自作のAI拘束プログラムを組んで、こっそり仕込んでいたんだけどな……まぁ、悪く思わないで欲しいね……。
そして、その一撃は『Feard Oracles』の急所を確実に撃ち抜いた!
当然ながら、宇宙空間なので爆音なんてしない。
拡大映像上では、『Feard Oracles』の推進エンジン部と増設プロペラントタンク群がまとめて炎に包まれて、大爆発を起こすのが見えた。
そして、その爆散円は曳航していた巨大宇宙戦艦や左右や後ろを固めていた小型艦をも巻き込み、いずれも多大なる損害を被ったようだった。
「よし! あれは仕留めた! いやっほぉおおおっ!」
思わず歓声を上げてしまう。
けど、これはまさに逆襲の嚆矢! 地球人類を舐めるな! って奴だ。
「すげぇ! 木星人の宇宙戦艦もまとめて煙を吹いて、次々高度を下げていってる! くっくっく! ザマァ見ろってんだ!」
宇宙艦隊が総力を挙げても、傷一つ付けられなかった人類統合体の宇宙戦艦が……沈もうとしていた。
奴らにとっては、これはこの戦いの最大被害となったであろう。
「もう終わったと思って、完全に油断してたな……。遠足は帰るまでが遠足って習わなかったのかねぇ……」
「へへっ! こんなチャンス二度とねぇだろうし、もし見逃せとか言われたら、抗命覚悟で勝手に撃つか……くらい思ってましたぜ! さすが隊長! ナイス決断!」
通信回線はたちまち部下達の歓声で埋まる。
なにせ、危うく何もせず撤退となるところで、部下達のフラストレーションも限界だったみたいだからな。
もちろん、それは私だって一緒だ。
待望の実戦だったのに、このまま何の手柄もたてられずとか……そんなの納得なんて出来るわけがない!
だからこそ、一計を案じさせてもらったのだ。
さすがに、なかなか派手にぶっ壊れてるみたいだが、所詮は民生用の人工衛星に過ぎないのだから、この調子ならほっといても空中分解を起こして、地上で派手な流星雨が見れるくらいで済みそうだった。
いずれにせよ……この勝利はとてつもなく大きいだろう!
「全機、送り狼が来るぞ! フル加速で大気圏降下軌道へ移れ! ……そうだな。予定通り周回軌道を取って、大気圏をぐるっと回って、日本の厚木基地あたりを目指そう! 長居は無用……直ちに退けっ!」
すでに空間レーダーには、生き残った迎撃機が多数接近中なのが確認されている。
空荷の爆撃機なんぞ、見逃してくれたって良いだろうに……。
もっとも、完全勝利を阻んだ私達をなんとしても生かして帰さない……敵もそんな気迫に満ちているようだった。
だが、一歩遅かった。
こちらも始めから撃ったら、即座に逃げの一手……そして、大気圏降下する空荷の爆撃機を追うとなると、敵の方がリスクが大きい……。
もっとも、大気圏降下中の方向転換なんぞ、ムチャも良いところ。
降下軌道の位置関係的には、そのまままっすぐ日本……それも厚木基地を目指すのは妥当な線だった。
「まぁ、これで私達はちょっとした英雄ってところだろうな。何せ奴らに一矢報いて負けをひっくり返したんだからな」
「確かにそうですなぁ。俺ぁ隊長ならやってくれるって信じてましたぜ」
「俺もですよ。隊長、現在日本列島上空を通過中です。隊長は日本人でしたよね。厚木基地へ帰還するなら、そのまま故郷に凱旋ってのもいいんじゃないですか? 俺、日本で観光とか憧れだったんですよ」
「そうだねぇ。多分、長期休暇のひとつくらい貰えるだろうから、久々に諏訪に里帰りして、入院中のお婆ちゃんのお見舞いに行って、ついでに甲府に寄って、お兄ちゃんの顔でも見て行こうかな。まぁ、ついででいいならフジヤマシティで、観光ガイド役くらいやってやるさ」
「フジヤマシティで、隊長が……いいっすな。けど、そう言うことなら、俺らがってのは野暮ですな。じゃあねぇなあ……野郎相手に本場の日本酒でも飲みにいくか」
「厚木ならいい店知ってますから、あとでご案内しますよ。でも、隊長……一杯位は俺達付き合って、酌でもしてくださいよ」
「私はアルコールに弱いって知ってるだろ。まぁ、酌くらいはしてやらなくもないなっ!」
「言ってみるもんですね。どうせなら日本の浴衣ってのを着て、それでってのはどうでしょう?」
「そりゃいいな! 隊長、ぜひっ!」
気が早いことに、皆も帰還後の祝勝会の話を始めている。
話の流れでどうも、私は浴衣を着て部下達に酌をして回る事になりそうだった。
けどまぁ、危ない橋に付き合わせてしまったのも事実なので、それくらいやってもいいかなって思う。
いずれにせよ私達が手塩にかけたライジング・サンも、ブリューナクも想定通りの性能を発揮した。
いずれも新規開発の新兵器で、ライジング・サンは単独での大気圏降下も可能とするこれまでの宇宙戦闘機とはワケが違う高性能機体だ。
天頂側からなら電磁、目視のいずれでも発見が困難な新型空間迷彩ステルスパネルに覆われ、新開発のラムロケットエンジンにより、ほぼ真空に等しい静止衛星軌道上ならマッハ20もの超高速を実現している。
そして、対艦誘導弾ブリューナクは同様のステルスパネルを採用した見えないミサイルだ。
核融合弾頭の使用も可能で人類統合体の宇宙戦艦にも十分通用すると言われており、決戦兵器として期待されていた。
運用としては、地球衛星軌道上で大型宇宙戦艦に忍び寄り、一撃必殺の核融合弾を叩き込み、その後は一目散に逃げて、大気圏へ突入し敵の追撃を振り切る……そんな想定だった。
もっとも私達が乗っているのはいわゆる実験機で、兵器としては未完成も良いところで、今回の戦いに間に合わせるためにVR試験の段階だったのを生産実験として10機だけロールアウトしたのを実戦投入……。
要は誰もがそれなりに無茶をした……。
もっとも今回の実績で、コイツが奴らに十分対抗出来るって実戦実証されたってのは、デカい。
開発に携わったアタシの権限だってもっと増えることになるだろう。
そうなれば、きっとお兄ちゃんだって……!
「た、隊長っ! 敵の迎撃機……一斉に急加速して接近中です! クソッ! ロックオンレーザーアラートだって?! じょ、冗談じゃねぇ……どんだけ離れてると思ってんだよっ!」
2番機のパイロットの悲鳴のような声で、私も現実に引き戻される。
「な、なんて速度なんだ! まさか追いつかれるなんて! ま、不味いっ! 2番機……ブレイク! ブレイク! 3番機と4番機は私に続き、ブースターを捨てて上昇し、インメルマンターンでUターン! 奴らを迎え撃ち僚機の離脱を援護しろ! 2号機はロックオンを振り切れないのか! ブースターやウェポンベイなんてさっさと捨てて、とにかくロックオンを外すんだ! いそげっ!」
私の頭上にいた2号機に、迎撃機の放つ照準レーザーが集中しているようだった。
この段階で振り切れないとなると、確実にやられる!
「もういいっ! 脱出しろっ!」
さすがに衛星軌道上でマッハ20とか出てる中の緊急脱出なんて、限りなく自殺も同然なんだが……イジェクト式のコクピットブロックを採用してるから、その程度ならなんとかなる!
「だ、駄目です! もう間に合いません! レーザー集中で機体外装温度が急上昇中! ブ、ブースターの誘爆警報っ! ……う、うわぁああああっ!」
後方カメラには、爆炎だけが映っており、2番機のステータスには「Lost」の一文字が冷たく表示されていた……。
2番機のパイロットは、隊の副長でもあった。
義理堅くて、腕利きで優秀な軍人だった。
けれど、一瞬で死んでしまった。
悲鳴をあげたかっけど、既のところでそれは抑えた。
冷静に状況を判断する。
ライジング・サン自体が速度性能とステルス性能に全振りしている以上、本格的な迎撃機あたりに追われると脆いということは解りきっていたのだけど……。
まだ軽く500kmは離れていたのに、そんな遠くからステルス機に正確にレーザー追尾を仕掛けてくるなんて!
どんな出力で、どれだけ高性能な光学照準積んでるんだよ! それはっ!
「くそっ! ただでは帰さないってか……3番、4番……すまんね! 悪いが地獄行きの片道切符に付き合ってもらうぞ! 覚悟を決めてくれっ!」
敵機総数はこちらの軽く10倍はいる。
殿として、遅滞戦闘を挑むとなると生還はまず望めないだろう。
だが、ここは味方を逃がすために敢えて、それをする局面!
隊長として……それは義務のようなものだった。
「願ってもねぇ! お付き合いしますぜ……アマカゼ隊長殿!」
「……まぁ、貧乏くじって感じですけど、それも悪かないですね! なんでしたら、俺達に足止めを命じて、お先に引き上げるってのもありですよ。可憐なる乙女の為の盾となる。なかなか悪くない役どころです」
「お前そこは命に変えても隊長をお守りしますって言っとけよ。まぁ、俺はそのつもりなんで、お任せあれ」
頼もしい部下達の返しに思わず、嬉しくなってしまう。
ここはひとつ、私も本気を出すとする。
深度演算ブースターを起動し、耐G抗生剤と強心剤を投与、コネクタ容量のリミッターオフ。
機体も増速ブースターをパージして、ウェポンベイや空力翼も捨てて、レーザーカノン一門だけの高機動近接モードでのドックファイトを開始するっ!
敵機の編隊に突っ込んで、旋回式の薙ぎ払いレーザーを放つと、たちまちのうちに2-3機がまとめて、火を吹いてまっ逆さまに墜落していく。
よしっ! 旋回式レーザーカノンの自動照準は完璧に機能しているし、一撃で敵機の装甲を撃ち抜く威力はあるようだ。
高速爆撃機に近接格闘戦をこなせる機動力……なんて無茶な要求だったけど。
逃げ切れない場合や対空奇襲と言った想定もあり得るからね。
コスト高にも目を瞑って、出来る限り最高性能を目指しただけの話だ。
何より、敵も鈍重な爆撃機と侮っていた様で、不意をつくことに成功していた。
「これなら行ける! なるほど、精密照準中は動けない……それが弱点ってことか。だが、機動兵器が戦闘中に止まってどうするっ! 貴様ら木星人にモノホンの宇宙戦闘機乗りってのを見せてやるっ!」
けれど、私の頭上に差し掛かっていた敵機の群れは、一斉に蜘蛛の子を散らすように広がると、戦場から離脱中の仲間たちを追撃すべく、加速を開始する。
「ハッ! やらせるかよっ! お前らもこの私に……地獄に付き合えよっ!」
絶叫しつつ、敵機の編隊を追撃し、その真っ只中に突撃!
その後に3番機と4番機も続き、あっという間に乱戦となる。
熾烈な戦いが……開始された。
……ふと気がつくと辺りが静まり返っていた。
どうやら、いつの間にか気を失っていたようで、慌てて身体を起こす。
「くそっ! なにが……!」
「ハルカさん、お目覚めのようで……ご機嫌いかがでしょうか」
拘束していたはずのイロハもすでに自力で復旧したらしく、不貞腐れたような声色で声をかけてくれていた。
どうやら、イロハの自動操縦モードに切り替わっていたようで、そのおかげで私も地球衛星軌道をめぐるデブリのひとつにならずに済んだようだった。
「す、すまない……状況を教えてくれるかい? 何が……おきた?」
イロハから返答はなかったのだけど、返事の代わりに流れるように、直近の戦闘ログが並べられていく。
あれから……迎撃機との乱戦になって、3番機と4番機は揃って撃墜され、離脱した仲間達も頭を抑えられたまま、一方的にレーザーで撃たれて、全機未帰還……となったようだった。
ちなみに、私の乗機は乱戦になった直後くらいにエンジンに被弾し、片肺状態で派手にスピンした結果、過重Gで私自身がブラックアウト……そのまま軌道を外れ漂流状態になっていた事で撃墜済みと判断されて捨て置かれたようだった。
状態としては、どうもブラックアウトからの心停止……要するに一瞬ながら死んでたらしい。
なにせ、瞬間最大Gは凡そ30Gが計測されており……。
さすがにいくら耐G抗生剤を使用していてもひとたまりもなかったらしい。
マッハ20の超高速空戦機動のフルスロットル中に、エンジン被弾。
本来ならば、一瞬で機体爆散していてもおかしくなかったんだけど。
一応、覚えている限りでは、メインエンジンへのレーザー照射警報と同時に燃料カットの操作を行った事は覚えている。
どうも、片方だけエンジンが停止し、その直後くらいに意識が途切れたようだった。
せめて、イロハのサポートがあれば、スピンするほど機体姿勢を崩すこともなかったんだろうけど、それは無い物ねだりであり、自力で出来る限り頑張ったんだが、結局駄目だった……そう言うことだった。
もっとも、その直後に緊急事態と判断したイロハが強引に拘束プログラムを解除……懸命に機体制御と心肺蘇生措置を行ってくれた事で命拾い出来たようだった。
VRゲームとかでは、無敗のトップゲーマーとか言われて、図に乗ってたけど……勇んで挑んだ初の実戦の結果はなんとも無様なものだった。
そして……周囲にはもう敵も味方も何もいなかった。




