第六話「初陣」②
「そうか……。なら、白兵戦武器なら文句はないんだろ? 私の愛用の軍刀をデータ化してあるから、これを使わせるように交渉してくれ」
「ほほぅ! ジャパニーズブレード! いわゆる日本刀じゃないですか……知ってますよ! 時代劇って、チャンバラアクションムービーではお約束ですからね! しかも、これ……めちゃくちゃ詳細なリアルデータじゃないですか! これだけ詳細なデータがあるなら3Dプリンタで現物再現だって余裕じゃないですかね?」
……なにせ、これは私、愛用の逸品だからなぁ。
1500年前に作られし古代日本刀……まさに、背負った歴史が違うッ!
「うむ、なかなかの業物だぞ。と言っても、所詮はレプリカだし、こんなモノを振り回して、実戦で戦ったことなど一度もないのだがね」
銘は「兼定」……それも「之定」と言われる二代目「和泉守兼定」の残した古代刀。
レプリカと言えど、素材や作りなど相当に拘って再現注文したので、古代文化美術館や古代文明研究家からレプリカデータを譲って欲しいと嘆願された事だってある程には現物に忠実に再現されている。
「さすがに、これはオーケーが出ましたね! ちょっと頭硬いAIみたいですが、観賞用にVRデータを先方にもコピーすることを条件に認めてくれました。じゃあ、次は防具ですね! もうどれでも選り取り見取りで良いそうです!」
アドミィがそう言うと、目の前のアイテムリストに、ガチガチの金属鎧やら、水着のような鎧だのがズラッと並ぶ。
銃火器は駄目でも、別に防具には制限をかけるつもりも無いようで、軍用の重装甲服やら、パワードアーマーまでもあるようだが……。
その辺りは、陸戦隊では誰も使わない不遇防具として有名なんだよなぁ……。
「防具? そんなものは要らん。当たらなければどうという事もないからな。そうだな……地上降下歩兵御用達の防刃ALジャケット辺りで十分だろう。なぁに、あれは帝国軍陸戦隊の隊服でもあるからな。結局、慣れ親しんだものが一番ってことだ」
「……了解です。どうせ、そんなところだろうと思ってましたよ。さすがロズ様。んじゃ、転送しますねー」
アドミィの投げやりな返事と共にセーラー服の上に迷彩柄のジャケットが着せられる。
足元はミニスカートのままで、まさに紙装甲だが、ブーツくらいは野戦靴にしてもらうか。
「うん、こんなもので十分だな! 足はまるでノーガードだが、どのみち足に食らうようではその時点で死んだも同然だからな」
確かに頼りないことこの上ないのだが、こちらの姿ならばミススカートだって十分イケる。
「了解、了解でーす。あ、アスカ陛下はどうします? この方、地上戦闘の開祖なんて言われてますが、割と偏った人なんで、あんまり真に受けない方がいいですよ。第三帝国陸戦隊とか言って、あの人達って命を軽んじてる頭おかしい人の集まりなんで、真似してペラペラアーマーなんて着たら、あっさり死ぬかもしれませんよ? 私としては、ヘビィボウガンのようなの遠距離系武器と、軍用ヘビーアーマーの組み合わせとか良いと思いますよ。まさに歩く戦車っ! 戦いなんて、火力と装甲でしょ!」
……あ? 火力はともかく、動きを阻害するだの、重くて動きにくい重装甲装備なんて、実戦では論外だと思うんだがなぁ。
ちなみに、防弾ヘルメットや照準補正バイザーだのも熟練の古参兵は使いたがらない。
どのみち、レールライフル辺りでヘッドショットを食らったら、即死は免れないので、いいとこ軽合金製ヘッドギアとかALスクリーン付きのブーニーハットやら、それくらいで十分だ。
「そ、そうだな……。こ、このめちゃくちゃ可愛らしい猫耳ローブなんて、良いと思うのだが……。だ、だが……陛下と呼ばれるからには、渋くて威厳のある服装をするべき……なのだろうな……」
そう言いながら、猫耳ローブに視線釘付けな様子のアスカ様。
……斜め上の選択だったが、意外と女の子らしいところがあるらしい。
まぁ、実年齢は七歳と本来は子供も子供なのだからな。
そんな子供を皇帝に仕立て上げるなど、確かに裏で国を牛耳るつもりだと言われても文句は言えん。
それに、この娘もわがままなど一度も言ったこともないのだろう。
そう言う事なら、好きにさせるとするか。
「そうだな……。気に入ったのがあれば、それで良いと思う。それに無理に背伸びなどしなくてもいい。確かに皇帝に威厳は必要だが……その成りではどうやっても威厳など出しようがないからな」
「う、うるさいな! そのうち、背も高く色々立派になるのだから、バカにするでないぞ!」
……そうは言っているが。
ユーリィクローンと言うものは、基本的に遺伝子テロメアに問題を抱えているケースが多く、ある日を境に急速に老化が進みがちなのだ。
必然、突発性老化の予防のために成長抑制措置が入るので、ユーリィクローンは子供同然の姿のまま、一生を終えるケースも少なくない。
その事を告げるべきか迷うが……まぁ、ここは何も告げるべきではないだろう。
過去のユーリィクローン達の記録データに触れれば、その程度……自然と理解できる。
それまで、細やかな夢を見る権利くらい与えてやりたいものだ。
「どうだ! 好きなように選んだぞ! うむ! まさにファンタジーの魔法少女と言った趣であるな!」
猫耳フード付きローブに、ハート型の水晶が先に付いた棒切れを手に見るからにご機嫌そのものと言った様子のアスカ様。
確かに、仰るとおり魔法少女と言うやつなのだが……。
いささか緊張感に欠けるような……まぁ、いいか。
だが、その目元を覆うボサボサ頭そのものと言った髪型はいただけんな。
「アドミィ……続けてオーダー。アスカ陛下の髪型を可愛く整えてやれ。そんなムク犬みたいな髪型じゃなくて、最高に可愛らしく……だ! お前の全力を見せてみろ」
「意外ですね……。ロズウェル卿がこんな可愛らしい服装で良しとするなんて……。そのクッソ地味で可愛らしさのかけらもない迷彩服をゴリ推しするのかと思ってましたよ」
「……お前は私を何だと思っているのだ? 私も、可愛らしい教え子を教育するというのも悪くないと思ってな。なぁに、皇帝が自ら戦うような事はありえないのだから、装備など見た目重視だって、一向に構わん」
「……あ、あの……。わ、私も共に戦わせて欲しいのだが……」
「いえいえ、荒事は配下に任せて、後ろで配下の勝利を信じて応援でもしていてくれれば良いのですよ……。それが戦場での皇帝の振る舞いと言うべきものですから」
「わ、私だって、戦えると言っているではないか! それに魔法プラグインだって、一応持っているからな! 魔法と杖術を組み合わせる……魔法少女だって、そうやって戦っていたぞ?」
いや、良いから、後ろで黙って見てればいい……そう言ったつもりなんだがな。
皇帝たるものが自ら武器を取るとか、そんなものは負け戦の極地と言わざるを得ない。
皇帝が戦えなくとも誰も困らないのだから、そこは黙って従って欲しい。
「アドミィ、オーダー! これより、アスカ陛下を守る護衛任務を与える。敵に指一本触れさせる事も許さん! アスカ様……戦については、我々にすべてお任せください!」
「そうですね! 確かにアスカ陛下はなかなかの猛者のようですが、それは最後の切り札としませんか? 我々としてもキングが強いなら、安心して戦えますからね! なぁに、この私は戦闘だって、ビューティフォー! 向かう所敵無しでございますよ! フッフフーン!」
うん、アドミィ……ナイス説得。
最後の切り札と言われて、まんざらでもなかったようで、アスカ様も静かにうなずく。
「ああ、よ、よしなに。では、私は二人を応援し、勝利を願う……そう言う役どころでいよう。まぁ、そう言うものだと言われてしまってはなぁ……」
「了解でーすっ! では陛下……失礼します! そぉれ、二身合体ですよっ!」
そう言って、アドミィが10cm程度まで小さくなると、やたら軽い動きでアスカ陛下の肩に飛び乗る。
「うわっ……たっ! な、なんだ、アドミィ卿はそんな風に小さくもなれるのか……」
「ふふん、VR世界でのアバターなんて自由自在ですからね! まぁ、イザとなれば巨大化だって出来ますし、アスカ陛下は未来の皇帝陛下……実に良いですね! ぜひ、この私……外宇宙帰りの超絶ハイスペックAI! アドミィの名を覚えていただき、今後とも重用よろしくでっす!」
何いってんだ、コイツ。
思いっきり、媚びるとか……どうなんだそれ?
もっとも、確かに皇帝が即位する前から仕えていた側近ともとなると、帝国のAI社会でもそりゃもうビックネームとして扱われるのは必然だった。
AI同士の格を決めるのは、ティアクラスと稼働年数が高いウェイトを占めるものではあるのだが。
何よりも過去どんな人物と従属契約を交わしたかと言うのも重要らしい。
要は、社会的な地位の高い人物に仕えたことがあると言う経歴があるだけで、その格は相当なものと見なされる事になるし、時にはティアクラスや稼働年数の差すらも覆すこともあり、アドミィがアスカ様に媚びを売るのももっともな話だと言えるだろう。
この様子だと、アドミィもちゃっかりアスカ陛下即位後の自分の居場所を考えているようだが、私もアスカ様が皇帝になる以外の未来はあり得ないと思っているのだから、人のことは言えない。
それに、小動物を肩に乗せた猫耳少女……これもお約束ではあるからな。
うっとうしかった前髪も少しカットして、両サイドをピンドメして、目元を出して、髪型も丹念に櫛を通し清楚なロングにしたことで、すっかり可愛らしくなった。
おまけに、猫耳ローブの袖や裾は、もうフリフリだらけで、まさに可愛らしいの一言だ。
うん! 悪くないなっ!
自分がこんな格好をするなんて、さすがに冗談としか思えないが。
連れが可愛らしいのは話は別だ……というか、何だこの湧き上がる未知の感情は!
胸が高鳴り、顔が熱くなるのが解るッ!
この娘を何が何でも守る……彼女のために死んでも一向に構わん!
……まさか! これが愛なのか!
うむ! これまでになく、やる気が湧いてきた。
今なら、まるで負ける気がしないな!
「ふふ、見てください。あの強面鉄面皮のロズウェル卿がアスカ様に見惚れてますよ? まぁ、この私……アドミィは一般的に可愛いとされる女子のデータを豊富に取り揃えている上に、美的ハイセンスだってプラグイン実装済み! 素材の魅力を120%引き出すほどの性能はありますからね! どうです? 素晴らしいでしょう!」
確かに、アドミィは女子の服装選択……コーディネイトと呼ばれるものについては、かなりのこだわりを持っているらしい。
AI連中ってのは、人間のデータも豊富に持っているので、最新の最大公約数的な流行デザインとかも簡単に出してくるのだが。
女性のファッションやコーディネイトについて、深いこだわりを持っている個体というのが少なからず存在する。
……もっとも、連中の好きにやらせると、キレイやカッコいいよりも可愛らしいに偏りがちではあるのだがな。
……あまり、思い出したくないが。
外宇宙航行中の一時解凍レクリエーション週間に、アドミィの好きにやらせたら、めちゃくちゃ可愛らしいアイドルのようなVR衣装を着せられて、全隊員に公開されてしまって、揃った野太い声で大絶賛された事もあった。
まぁ……自分のVRイメージを見て、これが私か! と嬉しくなってしまったのも事実なのだが……。
リアルでは間違ってもやりたくないし、そのギャップの激しさに自分でも落ち込んだくらいだった。
ああ、私はそんな可愛らしく着飾るような気質ではないのだ。
なにせ、式典用の礼服でのスカート姿の自分ですら、思い切り違和感を感じるのだからな。
……要するに……だ。
年を考えろという話だっ! やっぱり、老害だよなぁ……。
とも思う……なんとも悲しい話だがね。
「う、うむ……。これは思ったよりも可愛らしいな。だが、いいのか? 私如きがこんな可愛らしい姿で……」
「いや、全く問題ない! むしろ、皇帝になってもそう言う格好をすると言うのも全然ありだぞ? 皇帝とは皆に愛される存在でもあるのだからな! さて、では準備できたならこのまま行くぞ!」
「ま、待ってくれ! 心の準備が……それにやっぱり、こんな格好では……それに武器もちゃんとしたものを……だなっ!」
「ここまで来て、四の五の言うな! それ、突撃ィッ!」
アスカ様の手を取りながら、虹色の渦に突入!
そして、一瞬の酩酊感とともに、開けた場所に出た。




