第四話「救われぬ救われるべき者達へ救済を」⑦
「そうだな。その辺の事情は今も昔も変わっていない。まぁ、社会復帰リハビリの一環と言うことで、ちょっとした依怙贔屓ではあるんだが。抜け殻のようになっていた者達が目を輝かせて、美味い天然食材を作って、同じような境遇の仲間たちと同じ釜の飯を食って、楽しく笑って、惑星地上で穏やかな日々を過ごす……確かにあれは悪くない生活だぞ」
なお、社会復帰リハビリ施設と言うのは、理想的な自然環境が整った農業惑星に設置されることも多く、社会復帰リハビリの一環として、近場で天然食材生産業務に就業してもらうと言うのは、割とどこでもやっていた。
確かに、依怙贔屓と言われることもあるのだが、地球人類の本来の生存環境……地球に限りなく近づけた惑星地上環境で、故事で言うところの晴耕雨読……そんなのんびりとした生活送ることは、精神的な安定にも繋がるようで、精神医学的にも極めて効果的だと認められているのだ。
実際、私も恒星間遠征帰りのリハビリとして年単位で農業生産業務に従事したことがあるのだが……。
確かにあの生活は悪くはなかった。
「でも、いいんですか! そんな高待遇……ほ、本気にしちゃいますよ! もし、そうなら……むしろ、超楽しみなんですけど! どうせなら、天然果物とか作ってるとこがいいなぁ……」
「そいや、カヤ姉はフルーツフレーバー大好きだったよな。もっとも、天然物の果物なんて、うちじゃ手が出なかったから、合成フルーツ止まりだったけどな」
「そういや、そうだったね。でも、楽しみだなぁ……ふふっ」
うん、いい傾向じゃないか。
今日よりも明日がいい。
明日はより楽しく幸せになる……それでこそ、人は明日を生きられるのだから。
「そうだな……。確かに帝国は独裁国家なんだが、昔から一般市民を蔑ろにするような国ではないからな。そこら辺は130年程度では変わりようがない。どうだ、レオ少年……姉君はこう言っているが、側で肉親を支えると言うのは生きる理由にはならんか? 色々厳しい現実が待っているかもしれんが、生きていくというのはそんなものだと思うがな……」
そう言うと、レオ少年も少し考えながら、カヤセと私を交互に見つめると、決心したようにうなずいた。
「お気遣い、ありがとうございます。解りました……姉貴を一人にはさせられねぇし、アンタの言いたいことも解る……。うん、俺も姉貴と一緒に現実世界に戻ることにするよ。まったく、アンタ滅茶苦茶偉い人なのに、なんともお人好しなんだな!」
「ああ、帝国こそ常々お人好しであるべき……我が国はそんな国是の国でもあるからな。であるからこそ、その中枢たる我々もお人好しでいるべきだ。故にそれは褒め言葉と思っておくさ。いずれにせよ、意思確認の言質は取れた。では、アドミィ……すでに向こう側の準備は出来ているから、速やかにこの二人を現実回帰させてやってくれ」
「了解しましたーっ! うんうん、常々お人好しであるべきってのは実に良いですね。我々もまた人を助ける事をその存在意義としていますからね。そう言う意味では我々は似た者同士……これだから、帝国の人々ってのは大好きなんですよ。さて、向こうでは受け入れ準備も完了……意識転送用の超空間広帯域大容量回線の確保も完了です。……「モラトリウム・サード」の管制AIからも、専用情報ラインを確保した上での優先転送許可が出てるので、問題はありません。では、早速……お帰りはこちらでーす! よい旅をっ!」
唐突に現れたアドミィが謎のダンスを踊ると、レオとカヤセのすぐ隣に光の柱が天頂へと立ち上がる。
「ええっ! もうなんですか! アドミィちゃん、仕事早すぎでしょっ!」
「ああ、要するに君達の意思確認待ちだったのだよ。向こう側では医療関係者に国民管理局……数多くの人々が過去のテロ犠牲者を救いたいと言う一心で動いてくれたんだ。そして、誰もが君達を救えることを喜びとして、素晴らしい仕事ぶりを見せてくれた。後はもうそのサークルに入るだけでいい」
そう告げると二人共、互いに手をつなぎながら、光の柱の中に入っていく。
「では、これからの君達の人生が良き人生となることを心から祈るッ!」
そう言って、思わず敬礼。
……思わず苦笑していると、二人も合わせてくれて、見様見真似の敬礼を返してくれる。
「……ロズウェルさん、大変お世話になりました……。ありがとうございました! ……このご恩はいつか必ず、お返しします」
「現実世界で……また会いましょうね!」
二人が手を振りながら、そう言い残すと、その姿が光に飲まれて消えていく。
なんというか、絵面としては、成仏でもさせられているような感じでもあるのだが。
現実世界からは、ちゃんと二人の意識転送が成功し、仮装義体への意識定着の上で、救済措置を行う旨の報告が来ていた。
……後のことは専門家にお任せでいいだろう。
まぁ、二人には少しでも幸せになって欲しいものだ。
何と言うか……あの時の犠牲者の数からすれば、ほんの細やかではあるのだが。
長年の心の凝りがまた一つ消えた……そんな気にもさせられる。
何よりも、正しい行い……良いことをした後と言うのは実に気持ちのいいものだ。
割と最近まで、いっそ死にたいとか思っていたが、誰かのために生きるのも悪くない……そう思い始めていた。
「……っと! ロズウェル様……緊急報告です。どうも、今のって選定イベントだったみたいで、ロズウェル様の候補者としてのポイントが増えたとか、そんな通知が来てるんですが……」
「な、なんだって? そりゃ、どう言うことだ!」
「……いやはや、えらく手が込んでましたが。今の一連のロズ様の行動……皇帝ならこうするべきって、見本みたいな行動だったみたいで……。監督AIからは「まさに奇跡を見た思いであり、さすがロズウェル卿ッ!」と絶賛するコメントが来てますよ! まぁ、当然のことですよね! この私も鼻タッカダカでございます!」
「いやいやいや、私は選定者であって、候補者じゃないだろ! それにあの二人がイベント要員だったなんて、さすがにふざけ過ぎだろっ!」
「ですが、結果的にあの二人は救われた……これは確かな事実のようですし、確率的にも奇跡的だったのは私も認めるところです。どう言う経緯があったのかは私も解りかねますが……。ロズ様の行いは誰がどう見ても正しい行いであり、その結果、評価されるのは当然だと思いますよ」
「だが……! これでは私があの二人を利用したようなものではないか!」
「でもですねぇ……救われなかった過去の犠牲者に生きる理由と希望を与えて、自らの権力を最大限に振るって全力で救済するとか、正しい権力の使い方の見本って話じゃないですか? さすが、ロズ様ですね! おっと、私もうっかりさすロズッ! なんともお後がよろしいようでッ!」
もはや、二の句が告げられない。
だが、確かに考えてみれば、彼らは本来、意識がない抜け殻同然の存在だったのが、私の浴びせた殺気で完全に目覚めた……そんな様子だった。
恐らくあれは、あわよくば目覚めさせて欲しい程度の感覚で、この世界に配置されていて、偶然私に叩き起こされることになった。
そう言う状況だったのだ。
要するに、救われぬ者を救う者がいないかどうかを試されていた……そう言う事だ。
……だが、そうだった!
確かに、選定の儀とは、そう言うものなのだ。
偶然を装いながら、各地で様々な状況が発生し、その際どう行動するか。
それの積み重ねで、評価が上がっていく。
実際、私もかつてこんなシチェーションを用意して、皇帝候補達を試したりもしたものだ。
ま、まぁ……過去の犠牲者のリサイクルのような悪趣味な真似は流石にしなかったのだが……。
かつて、種明かしをした時の候補者のなんとも言えない表情の理由もわかったような気がした。
もっとも、評価が高いものは必然的に候補者として選定に残っていくし、その行動は他の候補者たちにも共有される事で、自然と行動基準が与えられることにもなるのだ。
それは選定者とて例外ではない……どうも、私は今回の候補者の好例とされてしまったようだった。
……不本意ながら、確かに今の行いは銀河帝国皇帝の取りうる選択肢としては、最上級の選択だったと言う事は、私自身も認めるところだった。
ええい! このままでは不味いッ!
これで、敵にも私の存在は知られただろうし、恐らく候補者達の中には私を全力で潰すべき存在として認識した者達もいるだろう。
……でも、考えてみれば、それで何の問題があるのだ?
私に耳目とヘイトを集中させた上で、理想的な候補者を見つけ出せば、むしろ良い弾除けになれるだろう。
その上で、その候補者を徹底的に教育し、次世代皇帝に仕立て上げる……こちとら何代にも渡って、幾度となく皇帝候補を見出し、未熟な皇帝達を一人前に育て上げてきたのだ。
「うん、アドミィ! 私の行動方針が決まったぞ!」
「……何やら長考してると思ったらいきなりですね。では、聞かせてもらいましょう。ロズ様をサポートするにあたって、それは極めて重要な情報です! あ、是非とも情報共有プリーズッ! そして言わせてください、さすロズと!」
……アドミィ……なんだか、どんどんノリがおかしくなってないか?
だがまぁいい……辛気臭い事務的なサポートAIよりも、こう言うガチャガチャした奴が相方と言うのも悪くない。
なにせ、私も色々お硬かったり、真面目すぎるとか言われたりもしていたからな……。
老害呼ばわりされない為にも少しくらい緩くいい加減でも良いのかもしれん。
「そうだな……直ちに生きの良い候補者を見出さねばならんな! それも出来れば可愛い……ギュッと抱きしめたくなるような小さい子がいいな!」
……少し羽目を外してみようと思ったら、我ながら何を言ってるのだと思いたくなるような事を口走っていた。
うん? まぁ、多分コレは心の叫びというヤツなのかもしれない。
と言うか、私が見出した候補者自体も女子率高かったような……。
これまで育て上げて、出会いと別れを繰り返していた者達を思い起こす……。
ん? ……顔と名前を覚えている連中、全員女子じゃないか?
まぁ……私も女子の端くれである以上、確かに可愛いものは好きだ。
男のような格好をしてみたり、スカート姿を拒否したりしていても、なんだかんだで可愛いものは大好きだ。
……それの何処が悪いのだ! むしろ、一向に構わんッ!
「ロズ様の意外な一面を見せていただき、このアドミィも嬉しく思いますっ! 実にいいではないですか! プリティーかつ、可愛い皇帝候補! まぁ、このプリティニャンコなマイアバターを見て解るかもしれませんが、不詳このアドミィも可愛いは正義派でございます!」
「……解るか? そうだな……ここは自らの好みに忠実に、そう言う路線で候補者を選定してやってもいいだろうッ!」
……なんだか、無駄にやる気が出て来たっ!
だがまぁ、問題はここが候補者すら居ないような思いっきり蚊帳の外と言うことなのだが……。
いや、本気でなんとかしないとこの調子だと、私が皇帝に祭り上げられてしまいかねない。
……そんなのは願い下げだった。
「早急に……問答無用で皇帝候補を引っ張り出さねばならん! ええい、誰か使えそうな奴は居ないのか!」
「そうですねぇ……。やっぱり、そうなりますよね? とは言え……こんな所に候補者なんていそうもないですし……」
この様子だと、候補者の可能性の高い奴なら近くに居そうなのだが。
あそこまで巧妙に過ぎる隠蔽スキル持ちともなると、こちらから探し出すのは至難の業だろう。
「そうだな……。早々、都合よくドロップ・アウトしたはぐれ候補者なんて、現れたりはしないだろうしな……」
「ああ、やっぱり、そう言うのを狙うんですか?」
「……当たり前だ。そんな仲良しクラブで出来レースを開催してるような奴らなんぞ、始めから眼中無い。いいか? この選定の儀とは、出る杭を打つのではなく、出る杭にこそ価値を認める……そう言うものなのだ。協調性だの同調圧力だの、そんなものは求めておらん」
「……それって結構、ハードル高くないですか? 思った以上に、面倒なんですね」
だからと言って、適当なやつで妥協などそれこそ、以ての外だ。
皇帝の重責に耐えうる程となると、それこそ1000人に一人でも怪しいくらいなのだ。
……そんな事を考えていると、不意に誰かの視線を感じた。




