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第2話 祝福

人生の意味とは何だろうか。

僕にとってそれは妹とお風呂に入る事だった。最早叶わぬ夢と化したそれは、人生の無意味さを知らしめるものとなった。


晴れ渡った空にかかる白い雲を見上げる朝。5歳にして僕は悟った。こうやって何もかもを失っていくのが人生なのだと。


妹にとって僕はもう、必要ない存在なのだ。一緒にお風呂に入りたくもない存在になってしまったのだ。なら何のために、僕は生きるというのだろうか。


「兄様、おはようございます」

ふらふらと庭に出て、空を眺めていた僕のとなりに妹が座った。


「あぁ、おはよう」

「元気ないですよ?兄様らしくありません」


本当のことを伝えてしまえば、きっと妹は傷ついてしまう。

「何でもないよ。たまには空を眺めてぼうっとするのも良いかなって。それだけだよ」

「そうですか」

しばらく、僕らは子供らしくなく、2人並んで空を眺めていた。


「そういえば兄様。今日のお昼は一緒にいきましょうね」

「え、何の話だっけ?」

「祝福式です。ほら、この村で生まれた私と兄様とルウ。ひとりひとりに神様の祝福がいただけるって」

「あぁ、僕たちの中に眠る才能を見出してくれるってやつか」


どんな才能が眠っていても、僕はもう、妹とお風呂に入れないっていうのに。


「ねぇ兄様、私の祝福ってなんだと思います?」

「うーん、天使、とかじゃないかな」

「天使なんていう祝福、聞いたこと無いですよ。ほら、お父さんはナース服だったし、お母さんなんて血管フェチでしょう」

「ふたりともささやかな祝福だったから苦労したって言ってたなぁ」

「でも、やっぱりレアな祝福がいいですね。あ、ルウが来たみたい」


遠くの方にぴょこぴょこと跳ねるアホ毛が見える。こいつが僕から妹とのお風呂タイムを奪った元凶だ。

「やっほー」


感情のこもっていない棒読みの声で、トテトテと走りながらこっちに向かってくる。

「シノ、なんか元気ない?」

「そうなの。朝から元気なくって。でもね、絶対シノは今日すっごい祝福がもらえると思うの。ルウもそう思うでしょ」

「すーぱーべりーぐっどなヤツ」


祝福なんて、どうでもいいやと思っていた時期が僕にもありました。

王都からやってきた祝福師に最初に診てもらったのはルウだった。

「ルウ、君の祝福は......おしりペチペチだ」

「はわっ」

「鍛えれば強くなるレアな祝福だよ」

「おしりペチペチ......」

ルウは少し残念そうな顔だった。


「次は、シエルだね」

「よ、よろしくお願いします!」

「うむ。私の目をじっと見つめて...」

シエルが祝福師の目を見つめると、目の色がどんどん変化していく。


「こ、これは視たことのない祝福だ......。マシーン。それがシエル、君の祝福のようだ」

「マシーンってどんな祝福なんですか?」

「私にもさっぱりだ。レアな祝福には違いないんだけど。王都の図書館に行けばなにか分かるかもしれないが貴族専用でね。言葉の意味としては機械、というのが当てはまるんだが」

「マシーンかぁ。まぁレアな祝福には違いないみたいだし、きっと良い祝福だね」

あっけらかんとシエルは言い切った。何も考えていないような明るさに、周囲の大人たちまで安心させられる。


「次は、シノだね」

「よろしくお願いします」

「よし、同じように僕の目をしっかり見るんだ」

「はい」


僕がじっと祝福師の目の奥を覗き込んだとき、大地が震えた。


「ぐ、偶然か?」

「いや、これは何かとんでもないレア祝福の可能性がある」

周りの大人たちの声が僕の耳に入ってくる。僕は、さらに深く集中して祝福師の目の奥を覗き込んだ。


若干の静寂の後、祝福師は目を瞑って意を決したように言った。

「シノ、君の祝福は、シスコンだ」


「シ、シスコンだと。あの犯罪者アマデウスの祝福じゃないか」

「シノ、とんでもない祝福を引き当てちまったな」

「祝福に人生を狂わされなければいいが......」

村の大人たちが不安を口にした。


そして、当の僕は。

「シスコンってなんですか?」

「シスコン。シスターコンプレックス。妹、もしくは姉が大好きすぎるかなりレアな祝福だ。かの大犯罪者アマデウスも同じ祝福を持っていた事で悪名高い祝福だけれどね」

「でも、妹が大好きすぎるって当然ですよね」

「既にガンギマリって感じだね。将来が不安だ」

祝福師は申し訳無さそうに僕の父親の方を見る。


「もし、祝福に支配されそうになった時は、分かっていますね」

「......はい。その時は」

父親は神妙そうな顔で頷いた。


夜。例年通りささやかなパーティが開かれた。

「おしりペチペチに、激レア祝福に加えてシスコンか。今年はとんでもない祝福になりましたね、長」

「あぁ。ルウの心配はしなくて良さそうじゃが、シノとシエルは。うちの村であれほどレアな祝福は育てられん」

「うちにお金があれば、王都で教育を受けさせてあげられるんですけれど」

「放っておくより仕方あるまい。あの子達を信じるのじゃ、ジン。お前の子らだ。お前があの子らの未来を信じてやるんじゃ。他の誰が何を言おうとお前の子じゃ。そう不安になるな」

「長......。ありがとうございます。この御恩は、いずれ王都産の黒タイツで」

「構わんよ。この村の黒タイツも、儂は好きじゃ」


大人たちの神妙な話し合いをよそに、僕らは久々の豪華な肉を食らっていた。

「ルウ、この肉でおしりペチペチしてやろうか」

「っ...。このシスコン犯罪者」

「やめなよ、ふたりとも。他人の祝福を笑ったりしちゃだめだって祝福師さんも言ってたでしょ」


シエルが可愛い声で僕とルウをたしなめた。僕もルウもシエルにはめっぽう弱い。なぜかはわからないが昔からそうだった。

「それにしても、マシーンってどんな祝福なんだろうなぁ」

「私もシノも、世界を変えるような祝福かもしれないね」

「おしりペチペチ......」

ルウだけが落胆した声で呟いた。


「そんなに落ち込まないでよ、ルウ。努力すれば強くなる良い祝福だねって言われてたじゃない」

「うん。分かってる」

心配いらない、ルウは強い子だ。


これから、僕は僕の祝福を考えていかなければならないのだ。この悪名高い祝福に狂わされないために。

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