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初恋の君はわたくしの双子の兄にご執心のようです。   作者: 高峰 玲


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〈二十三〉前夜




 彌勒王(みろくおう)の海賊船への攻撃は繰り返された。そればかりではなく、伊吹丸が夜半の海に消えてからはクマや三吉(さんきち)といった水夫たちもいつの間にか姿が見えなくなり、彌勒王の不興の一因となった。


 そしてついに、彼は決断した。


 ただひとりの血縁となる姪を呼び寄せ、彌勒王は言った。

水美(みなみ)よ、若いそなたには酷な話となるが心して聞け」

「伯父上、みなまで申されますな。覚悟など、とうにできております」

 平然と水美は応えた。彌勒王は、この娘がこれほどまでに静かな物言いをしたのを初めて見たような気がした。

「水美」

「伯父上、長きにわたり慈しみ、お育ていただきかたじけなき思いでいっぱいでございます。この機を以て、これまでのご恩をお返しできましたらと……」

 さすがにその先を続けられず、水美は手をつき深々と頭を下げた。

 しばらくして面を上げると、いつもどおり口角が上がった凛々しい表情を湛えていたが、膝の上で固く握られている拳が震えているのを彌勒王は見逃さなかった。

「では」

 愛想もなく軽く会釈して水美は彌勒王の前を辞した。


「……不憫な娘よ」


 つぶやく彌勒王の目に光るものがある。

「お館さま」

 背後からの声に、あわてて目を擦る。

「な、なんじゃ、白菊(しらぎく)。何か用か?」

 努めて平静を装い振り返ったが、そこに白菊と共に美夕姫(みゆき)が立っているのを見て驚いた。

「そなた……」

「あなたは……!」

 何ともいえぬ腹立たしい思いで、美夕姫は言葉が続けられない。それでも何とか、しぼりだす。


「いったい、水美の生命(いのち)を何と心得ているのですか! あなたにとって姪とはいえ中納言家の血をひく姫なのですよ。ふさわしい庇護を受け、かしずかれ、花のように大切に守られ過ごせようものを」


 この際、自分の身の程の()(よう)を美夕姫は無視している。


「……うるさいわ!」


 低く男は唸った。

「わしは忙しいのじゃ。白菊、この口やかましい娘を連れて行け」

 白菊は何か言いたげな顔をしたが、下知に従って美夕姫を促し、西の対へと戻ってゆく。

 遠ざかる足音を聞きつつ、また彌勒王は涙ぐむ。深いため息をつくと、鼻水をすすり上げた。




「白菊、美夕姫も、どこへ行っていた?」

 やるせない気持ちで戻ると、水美が居間に座っていた。ふたりが気まずそうに視線をそらす。

「まあいい。座れ、美夕姫。白菊、その箱を取ってくれ」

 美夕姫が水美の前に落ち着くと、白菊から受け取った箱を水美はその前に置いた。

「これは?」

 美しい模様に飾られたそれは文箱より少し大きい。箱に掛けられていた紐を解き、水美は向きを変えて美夕姫の方へと押し出した。


「あ……」


 蓋を取って中を検め、美夕姫は異形の美貌と対面した。


「これは、司王(つかさおう)の」

「やはりそうであったか」


 思わずつぶやいた言葉への水美の声にはっとする。

「えっ? いえっ、これは……っ」

 少女とも見まごう、不可思議な微笑の面……見分ける術など知らないが、確率としていまここに、これが存在するのであれば、羅王(らおう)であろう。

「隠さずともよい。あの男が、羅王なのだな?」

「どうしてそれを?」

 にやり、と野趣を帯びた笑みで水美は応える。

「見くびってくれるなよ、美夕姫よ。島に着いたときに気がついた。左源太(さげんた)修王(すおう)の船の男だ。どこの港だったか、目覚ましく采配する姿を見たことがある。由岐丸(ゆきまる)はあの様子から修王の子と思われるし、となれば司王が羅王と察せられるのは必定だな。阿王(あおう)は小山の如き坂東武者と聞くからな」

「知っていて……」

 水美は敵対関係にある者と知りながら、知らぬふりをしていてくれたのだ。

「水美……」

 何かがこみあげ、美夕姫から言葉を奪う。

「それを、司王に渡しておいてくれ。奴には大切なものなのであろう?」

「なぜ、自分で渡さないの?」

「え?」

 まっすぐに水美を見つめ、美夕姫は重ねて訊いた。

「なぜ?」

 すると、水美は自分でも不思議そうな顔で

「さあ? なぜかな?」

 と言った。

 それからすぐに、水美は具足などを着けて行ってしまった。港では出帆の合図の銅鑼が鳴っていた。




 昼過ぎ──水島に残っているのは女子供や老人ばかりであった。むろん、その中には美夕姫と小雪、司王たちも含まれている。

 そして、驚いたことに島には女船が残されていた。彌勒王は女賊らを戦力として連れて行かなかったのだ、水美以外には。


「水美さまおひとりでは船霊さまがお怒りになります。どうか、わたしも一緒に!」


 白菊が嘆願したが、水美が許さなかった。水美には考えるところがあり、それを実行させるために白菊を島に残したのだ。

 美夕姫が白菊からそれを訊き出したのは、日没近くなってからだった。

「それは本当なの? 白菊」

 美夕姫は己が耳を疑った。目を伏せ、力なく女はうなずいた。

「水美ったら、何てこと……」

 無力さを噛みしめながら美夕姫が床を叩いたところへ、銅鑼の音が聞こえてくる。同時に白菊が元気づいた。

「お帰りになった! さぞやお腹も空いておられよう……ご飯の支度をせねば」

 弾むような足取りで白菊は厨へと急ぐ。

 やがて、水美は戻った。

 かすり傷ひとつ負ってはいないが、たいそう疲れた様子だ。


「……三隻沈められた。火攻めだ。向こうは一隻だけ」


 それでも、自分の副将たる白菊に現状を知らせるのを聞き、美夕姫が目で問うと安心させるように笑った。

「心配するな。沈めたのは国司の船だ。おまえの小次郎は、おそらく矢傷ひとつ負っていないはずだ」

 美夕姫をからかう余裕にも、安堵の息をつく。が、そのうちに箸を使いながら水美がそっと眠気を払うのが目についた。

「水美、疲れているのでしょう?」

「ん〜なに?」

「眠いのでしょう? お休みなさいな?」

「あ〜うん、まだいい……それより、おまえの笛、聴きた、い……」

 美夕姫が高麗笛を吹きはじめて程なく、水美は寝息を立てていた。

 らしからぬあどけなさに微笑して袿を一枚かけてやっているところへ彌勒王の配下がやってきて

「水美さまあ」

 寝た子を起こす大音声をがなり立てる。

「静かに! 疲れて休んでるのよ」

 小声で睨むが、遅かった。

「ん、だれ? なんのよう?」

 水美は目を覚ましてしまった。

「水美さま、お頭が来てくれと」

「伯父上が? わかった、すぐ行く」

 大きく伸びをして水美は起き上がる。

「水美」

 見上げる美夕姫の髪をそっと撫でた。

「案ずるな」

 何だか後朝の別れのような甘やかさに、思わず頬を染めた美夕姫主従。

「水美さま、湯漬けのおかわりを」

 熱々を運んできた白菊にも

「後でな」

 そっけなく断りをいれ、水美は本殿へ行ってしまう。

 しばらくして帰ってきた水美は、すっかり冷めた椀を食べやすいからとそのまま啜り、ついでのように言った。


「ここで夜を過ごすのも今夜が最後かも知れん」


「「「ええっ!」」」

 そう長くはもたない抵抗だと、わかってはいたが確かめずにはいられない。

「「「それはどういう?」」」

 美夕姫と小雪、白菊の声が重なる。

 ゆっくりと湯漬けの残りを掻き込み、水美は続ける。


「おそらく、明日が最後の戦になろう」

「「「っ!」」」

「と、伯父上が言うた」


「水美さまっ」


 いち早く膝を乗り出し、白菊が言った。

「明日こそは、わたしもお供させてください!」

 だが、水美は首を縦には振らなかった。

「水美さま!」

「ならぬ! 頼みとできるのはそなただけなのだ。白菊、わかってくれ」

「水、美さま……」

 白菊の頬を伝い、涙がこぼれ落ちる。

「頼む、白菊……!」

 水美の目にもまた、涙があふれていた。しかし、彼女はその氾濫を懸命に堪える。

 美夕姫は小雪と共に、ただ見守っていた。











〈二十三〉前夜──ぜんや──

 




自分的に未曾有の残暑に見舞われた令和6年9月も終わりすでに10月……秋、ですよね?


私が子供の頃、夏はこんなに暑くなかった。

夏休みの絵日記に30℃を超す日は珍しく、25℃以下だと学校のプールには入れず……なのに何ですか、今年は!

平均気温が35℃ぐらい?◯十年前より10℃上がってませんか?

だとすると、千年前の平安時代の夏は……何℃?

現代の私たちからすると寒いくらいだったのでは?と、つい思ってしまいます。

(それなりに暑くて、袴で胸元を隠して薄物一枚羽織ってた(平安貴族の女性)みたいですが←結構、大胆(笑))





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