表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋の君はわたくしの双子の兄にご執心のようです。   作者: 高峰 玲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/39

〈十九〉白菊


あ!

暴力シーンがあります。ご注意ください!










 しばらくの後、銅鑼の音はぷっつりと絶え、島には静けさのみが残った。おそらくは、ものの善悪──親などが何を基準に叱り、どこまでが許されるか──を本能的に覚えた幼子にまで、その銅鑼の意味は浸透している、そんな感触が感じられた。閉鎖された社会集団独特の団結力は、鉄の結束である。

 不気味なまでの沈黙に美夕姫(みゆき)たちが策を論じ、行動する前に、押し込められた一室に向かってくる足音が聞こえてきた。規則正しいそれは、水美(みなみ)のものだ。


「水美、いまの銅鑼はいったい何の合図なの?」


 美夕姫が訊くが応えは得られず、水美は先程よりもさらに厳重に局を戸締まりしてゆく。

 開く扉はすべて閉ざし、御簾を下ろし、六人を囲うように几帳と障子を動かす。


「次にわたしが来るまで、ここを出てはならぬぞ」


 言い残し、薄暗がりに放置していった。

 どうにも暗く、気が滅入るので小雪(こゆき)が一つだけ紙燭を点ける。室内は何だか過密で、ますます息が詰まる。


「さて、この状況を何と判断する?」

 腕組みをして切り出した左源太はなんだか楽しそうに見えた。

「船が着いたな、おそらく敵でも味方でもなく、さりとて彌勒王(みろくおう)が無視できない相手だ」

「なぜそう思われる?」

 淡々と語る司王(つかさおう)由岐丸(ゆきまる)が訊くと、推察が披露された。

「彌勒王の配下が帰ったにしては無事を喜び獲物にわく様子が見受けられない。襲撃者であれば、迎え撃つ用意をしないのはおかしい。となれば、それ以外にこの島へ訪うのは何者か?」

「荘園の持ち主?」

「そんなところだろう」

「それで、島人ではない我らがここにいてはまずいと隠したのか」

 どう見ても、この六人は島の住民には見えないという自覚が由岐丸にはある。いや、左源太は船の者に見えるかもしれない。だがこんなところに、姫や女房や貴族っぽい若君やら従者がいる説明がつかない。


 彌勒王の存在(この島の副業)は、主家には秘密であり、島民の生活を潤すのが目的というのは想像に容易い。それは由岐丸の父や司王、関東の阿王(あおう)にも共通する動機だからだ。しかし、動機は同じでも彌勒王と彼らとでは、先に見ているものが違う。

 貧しき暮らしを、せめて衣食、いや、せめて食だけでも足るものとしたい。そして叶うならば、そのように思い動く存在があることを知らしめたいのだ。けっして成り代わり覇を(てら)うためではない。


「なんで今頃ここへ来たのだ? この島で米は都へ納めるような量は採れぬだろうに。干し魚も島人が食うだけで足りぬはずだ。そもそも、この庄には荘園としての旨味というものがない」

 実は由岐丸は元国司の嫡男である。多少なりと地方の国から都へ、物流として何が送られどんな価値がつき、それが国元にどう返ってくるのか、だいたいはわかっている。

「島民を養うだけで潤わぬ領地など、よくまあ所持する貴族(いえ)があったものだ」

 慈善事業のように自給自足の生活をさせてくれるその家の名を、美夕姫は聞いた。

「「…………」」

 小雪も聞いた。確かに、聞いた。なのに、思い出せない!

 うん、駆け落ちの話だったのは覚えている。だが、そこから在原(ありわら)(なにがし)の話を連想し、美しくも切ない、しかし負け惜しみとも解釈される歌を思い、それから……?


「ともかく」


 何か思いついたのか、上機嫌に口角を上げて由岐丸は言った。

「あの女は出るなと言った。それゆえ、ここから出はしないが、見るなとは聞いておらぬからなぁ」

 屁理屈のこね方が従兄に似ているので、美夕姫は少なからず少年の将来を案じたが、そのやる事は黙って見守った。

「この辺りか?」

 屋敷の向きと部屋の向きを考え、これから人が通る道筋に当たりをつけて妻戸を細くこじ開ける。こちらが見ているとはわからないよう、絶妙に幅を調整できたところへ、ざわざわと大人数が移動する物音が聞こえてきた。


「うん?」


 すぐに違和感があった。

 荘園の持ち主による徴収にしては送られてきた人員の数が多い。それに──隙間に目をあてていた左源太と由岐丸が揃ってうなずく。


 ──これらの者どもは、みな簡素ながらも腹巻をつけている。つまりは(つわもの)のたぐいだ。


「追捕使、か?」


 左源太のつぶやきに、由岐丸と体を入れ替えた司王が外を窺う。おそらくは貴人の足として引き出された馬が港から運んできたのが、この一団の責任者だ。敢えて武人との交流は避けていた司王だが、ぱっと見で誰かくらいは察することは可能だ。


「あれが大将か? さすがに関白左大臣の子息に討伐はさせぬか。それと……」


 彼らしくもなく言いよどむ。

 ただひとり、騎馬にて通り過ぎた人影は近衛府の大将その人のように見えた。そして、その馬の轡を取って歩いていたのは──。


 ──美夕姫よ、おまえの小次郎(こじろう)は可愛いことに侍従であったよなあ?


 少しの皮肉を加えた軽口が、司王にはたたけない。

 左右ともに、衛府の役職は持て余された乱暴者の(くびき)として貴族の体裁を取り繕う目的に使われてしまっており、武闘派脳筋にしか見えぬ左大臣家の次男坊は似合わぬ侍従職をあてがわれて出仕したのだ。


「わたくしに、何か?」

 物言いたげに凝視する従兄に視線を返す美夕姫に、自分が見たものを伝えるべきか、司王はためらった。彼にしてみれば、惚れたのはれたのという男女の心の機微など、どこかで勝手にやってくれていればいい問題であり、目の前でいじいじうじうじ悩まれるなど、鬱陶しいだけだ。見間違いということもある。

「いや、べつに」

 司王は思考を切り替える。いま、考えるべきは従妹の恋愛問題ではなく、瀬戸内に追捕使が放たれたことなのだ。できるだけ早く水島から抜け出し、修王にこれを知らせ、対策を練らなければならない。


「いつ?」

「早いほうが。いまならば追捕使のほうを警戒しているから、却ってやりやすいか?」

「伊吹丸は」

「無理ならば小舟を奪ってでも」

「だが美夕姫どのは」


 男どもが小声でぼそぼそ相談していると、唐突に引き戸が開かれた。珍しいことに、足音すらたてず、この女丈夫は静かに部屋に戻ってきたのだ。

「みなみ?」

 美夕姫が声をかけたが、それに気づく様子もなく水美は膝を抱えて座り込んだ。

「もう、外へ出ても良いのか?」

「いや、だめだ!」

 由岐丸が訊くと厳しく水美は言った。が、すぐに言い直した。

「あ、いや、出ても良い。ただし、すぐに小屋へ戻れ。誰か」

 呼ばわると見覚えのある賊がやってきて畏まる。

「男どもを小屋へ連れて行け」

 急かされるよりも先に四人は座を立ち、局から出ていく。


「何だか急に元気がなくなったみたいね。水美、いったいどうしたの?」


 四人から水美の意識を逸らそうと、美夕姫が話しかけると、

「どうもせぬわ、うるさい!」

 つっぱねてそっぽを向く。だが、すぐに反省したように言った。

「……すまぬ。おまえにあたった。悪かった」

「あたる? 何があったの?」

 ここで漸く、美夕姫は水美の異常に気づいた。顔色が悪く、小刻みに震えている。

「あなた顔色が……」

「お熱があるのでは?」

 小雪が額に伸ばした手をそっと払って水美は言った。

「熱はない。ただ……ただ、その……」

 とても小さな声で、つっかえつっかえ、伝える。

「も、裳着は、こっ婚……姻っ前に済ませていると……言って、いたがっき、き、急に婚っ姻せ、せねばならぬときはぁ~ど、どうすれば、あーよいのだ?」

「はあ?」

「婚姻?」

 美夕姫と小雪は同時に尋ねた。水美はがっくりとうなだれる。

「あなたが、するの?」

 声もなくうなずく。

「お、お相手は? どうしてまた、急に?」

「相手は、領家の子息だ。三年前にも一度来たが、もう避けられぬ……」

 そのとき、また急に妻戸が大きく開けられ、彌勒王が局に入ってきた。と見るやいなやの早技で美夕姫は袖几帳をする。

「どうじゃ、水美。決心はついたか?」

 長居をするつもりはないらしく、立ったまま問いかける。

「伯父上……」

 顔を上げはしたものの、表情は冴えないままだ。

「……そうじゃ!」

 だしぬけに、彌勒王はぽんと手を打った。

「その娘を身代わりにいたそう」

「「ええっ?」」

 驚きのあまり、美夕姫は袖几帳をしていた手を床に着いてしまった。小雪と共に抗議の目を向けると、露わになった美貌をとくと眺め、男は言った。

「ふむ、さすがは都の女子(おなご)じゃ。これならば裏の三軒隣の後家の色気には及ばずとも、若さと顔で申し分あるまい」

 そこで美夕姫は察した。これは婚姻などではない。都から訪れた身分の高い男をもてなすための夜伽を、彌勒王はさせようとしているのだ!


「なぜ水美やわたくしが、あなたの庄の領家の子息の伽なぞせねばならぬのです。もてなしたいのなら、あなたが腹踊りでも尻踊りでも、好きに披露すればいいでしょう」


「ぐっ、綺麗な顔をしてきついことを言う娘じゃ。水美よ、そなたが嫌じゃというのであれば、その娘に代わりをさせる他はない。よいな」


「お断りいたしますわ。わたくしには、心に決めたおかたがおりますもの」


「ええい、強情な」


 ちなみに三年前に夜伽を務めた彌勒王の屋敷の裏に住む後家さんはその後、再婚し子宝にも恵まれていた。夫ある身にそれはさせられぬ、と妙な倫理観を彌勒王は持っている。


「水美!」


 あなたには何か言うことはないのかと美夕姫が促すが、水美は膝を抱えこんだまま固く目を閉じていた。


 “心に決めたおかた”──それはいったい何なのだ、そんなものを、美夕姫はいつ、どうやって見つけ、心に入れたのだ?


「水美さまっ」

 すがるように小雪が言った。

「美夕姫さまは亡き大納言さまの姫君、それを、名も知らぬ家の若造の慰み者になど! お願いにございます、水美さま」

 はっとしたように水美は顔を上げて美夕姫を見たが、そのまま立ち上がって局を出ていってしまった。


「これ、女房よ」

 小雪に向かい彌勒王は指示した。

「夜までにこの娘の身なりを、もそっと華やかにいたせ。髪なども、よく梳いてな」

「嫌です」

 きっ、と小雪は男を睨みつけた。

「わたしは美夕姫さまの女房です。あなたの指図には従えません」

 いきなり、男の平手が少女の頬を打った。


「何をするの!」


 小雪をかばい、往復で再び打とうとした彌勒王の手を的確に美夕姫が払いのけると、彌勒王は今度は美夕姫を打とうとした。


「お館さま! お()めなされませ」

 

 その声に、男の手が止まる。見れば年の頃二十五、六の日に焼けた大柄な女が立っていた。一目みたらわかる。おそらく、女船に乗る賊のひとりだ。

白菊(しらぎく)か」

 彌勒王が体裁を整える。

「お話は水美さまから伺いました。姫のお仕度は、わたしがいたしましょう」

「そ、そうか」

 白菊が笑って請け負うと、彌勒王はそそくさと局を後にした。

 女は屈託のない笑顔をふたりに向ける。

「白菊と申します。すべて、わたしにお任せください」

 声を落として付け加える。

「わたしは、あなたがたの味方です。もちろん、水美さまも」












〈十九〉白菊──しらぎく──

 






我が家の台所に南瓜があったので、ネットで煮汁を調べて炊いてみたのですが…………一言でいうと「しょんない」=美味しくない仕上がりになりました(;_;) なんというか、煮汁のダシが全然しみてない?そして、またまたネットで“南瓜 煮物 不味い”で検索して、リカバリーできるとの情報を得て、冬からずっと出番を待っていたレトルトのぜんざい(お餅のほうが早く消費された為、残っていた)と大さじ1杯のだしつゆを使いレンチンマジックをかけたところ、みごと、いとこ煮にリメイクされました。


美夕姫と司王を書いてると、どうしても連想しちゃうんですよね〜いとこ煮(^q^)







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ