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初恋の君はわたくしの双子の兄にご執心のようです。   作者: 高峰 玲


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〈十七〉水島庄








 右大臣家の荘園に水島庄(みずしまのしょう)と呼ばれる地がある。瀬戸内海にある水島という島の名からの、ひねりのない名称なのだが、この水島庄の荘官南部(みなべの)四郎成也(しろうなりや)こそが近頃めきめきと頭角を現してきた海賊彌勒王(みろくおう)である。

 彌勒王が指揮する海賊の出現により、朝廷は遂に瀬戸内に討伐の軍を差し向けたのだが、他にも彌勒王の台頭を快く思っていない勢力があった。

 阿修羅王(あしゅらおう)のひとり、修王(すおう)の一族だ。彼等は内海を航行する商船からの上納を生業の手段としていたが、それは他者からの襲撃を阻むことを意味しており、公然の秘密のようなものとして持ちつ持たれつ(ギブ&テイク)の関係として上手く機能していた。それを彌勒王の船が場を荒らし、秘密の関係を疑心暗鬼にまみれた恐怖へと導いたのだ。面白かろうはずもない。


 島に上陸した美夕姫(みゆき)小雪(こゆき)左源太(さげんた)司王(つかさおう)由岐丸(ゆきまる)(はやぶさ)の四人から隔離された。

「わたくしたちを兄弟から引き離して、どうするつもりなのです?」

 水美(みなみ)に問えば、さも当然という顔で

「伯父上の屋敷に連れていくだけだが?」

と返された。

「伯父……彌勒王の、屋敷?」

「寝殿の西の対はわたしに与えられている」

 どうやら彌勒王の屋敷は都風に寝殿造りのようだ。

「ふ、このような鄙に寝殿造りとはのう。ものずきにも程があるよな」

 自嘲のつぶやきに

「なぜです?」

 心配気な美夕姫の表情に気づき、水美は無理矢理に強気な笑顔を見せる。

「そういえば、おまえの兄の左源太という男、前に見たことがある。修王の船の者だな」

「そうらしゅうございますね」

 平板に応えつつ、美夕姫は顔をそむける。下手に顔色を読まれては今後の支障になりかねない。相容れぬ仲の義兄が後ろ暗い集団に属していることを嫌厭しているとでも思ってくれれば、余計な詮索もされまい。

 その様を目の前に、公卿の家の姫君がこうも()()()()仕掛けを弄しているとは、この女賊はつゆも疑わないのだろうと小雪は思った。

「知っているのはわたしだけだ」

 それはどういう意味なのか、美夕姫が怪訝な顔になると安心させるように水美は笑った。

「心配するな、誰にも言いはしない」

 親に内緒で拾われ、匿われている子犬の気分で、美夕姫の内心は複雑だったが、不意に先を行く水美が歩みを止めたため、ぶつからないようにたたらを踏んだ。

「水美どの?」

 見上げると、女賊は何かを言いかけたが、考えを深めるためかすぐに口を閉ざした。ややあって、少しかすれ気味の声を出す。

「……弟の名は」

「由岐丸ですわ?」

「そ、うか、そうだな。左源太に由岐丸だったな」

 ひとりで納得し、うなずく。そして、妙に明るい顔つきでまた歩き出した。

「どうしたんでしょう?」

「さあ?」

 主従の囁きを気にする様子もない。


「あの、もし。西の対にお上がりになるのでは?」

 西の総門から入り、中門をも通り抜けようとした水美に小雪が声をかける。

「それは伯父上に挨拶してからだ」

 わずかに振り返っただけで水美は足を止めない。

「挨拶って、わたしたちも?」

 賊の首魁なんぞに美夕姫の姿を見せないでほしいという小雪の願いは叶うはずもなく、正殿の階の脇に膝をつき、水美が呼びかける。

「伯父上、水美です。ただいま戻りました」

 御簾の内から駆け寄る足音が近づき、すぐに彌勒王は姿を現した。

「水美よ、無事か、怪我などはないかの?」

 白髪まじりの小柄な男だ。美夕姫の家の(じい)に似た荒事に縁のない穏やかな家司に見える。

「もちろん、わたしも船の皆も、息災ですよ伯父上」

 気遣う優しい言葉に、賊とはいえ身内、しっかりとした絆めいたものがほの見える。

「そうか。ところで水美、その女子(おなご)どもは何じゃ。また身代を取る人質に鬼熊(おにくま)が無体をしようとでもいたしたか」

 競り市に出す馬か牛を値踏みする目を向けられ、人の善さそうな見てくれをしていても、そこにいるのは海賊なのだとふたりに認識させる。

「いえ」

 真顔で水美は応えた。

「このふたりは、わたしの傍に置きます。なかなかに気も強く、いずれは女船にも乗りましょう」

 つまり、解放するつもりはないということだ。

「うむ」

 彌勒王も同意している。

「では……」

 水美は立ち上がって西の対屋へと足を向ける。それについて歩きなから、さり気なく美夕姫は周囲の様子を窺い見ることを忘れなかった。


 こざっぱりとした水美の居間に通されると、手桶に水を貰えた。身を拭い、小雪はまず美夕姫の(ひとえ)と袴を着替えさせ、袿を掛ける。七条にいた頃に近い、姫らしい普段着(ルームウェア)だ。

「……くつろいでいるようには見えるが、何だか前がしっかり留まってなくて、頼りなさそうな格好だな」

「そうかしら?」

 水干は動きがもたつかず重宝なものだが、五衣(いつつぎぬ)姿も(かさね)を工夫する楽しみがあり、目にも嬉しい装いだと感じている美夕姫は同意しなかった。まあ、五衣どころか、いまは袿を一枚羽織っているだけだが。

「わたしはそんなのは着たことがないからよくわからんが、押さえてないと(はだ)けそうで、手が不便だ」


「「着たことがない?」」


 これには美夕姫も小雪も驚き、声を揃えてしまった。

 現物はある。なにしろ、水美の行李からの借り物を美夕姫は着ているのだから。


「だって、水美どの、裳着(もぎ)のお式のときに着ているでしょう?」

「モギとは何だ? 何か()()のか?」


「「もぐ?」」


 美夕姫は小雪と顔を見合わせる。

「まさか……? 水美どの、あなた、いまおいくつなの?」

「年か? 二十三だが何だ? そのモギとやらと何か関係あるのか?」

「あ……」

 脱力した美夕姫に、見かねた小雪が説明を試みた。

「あのですねぇ、十二を過ぎたくらいの女の子が──べつに十二を過ぎてなくてもいいんですが──ともかく! それなりのおうちの、大きくなった女の子が初めて裳をつけるときにする儀式を裳着というのです」

「おお、そうか」

「そうかって、あなた! 水美さま! 美夕姫さまが十五のお年で裳着をされたのでさえ遅かったのに、あなた、二十三って、左源太さまと同じ年なのに裳着がお済みじゃないなんて、非常識にもほどがありますっ」

 つい、小雪は水美“さま”と呼んでしまったのだが、美夕姫はとがめなかった。

「何と残念な。全部、揃っておりますのよ? 綺麗にお色味を合わせて折々の襲にできる衣に唐衣、裳も袴も!」

 小雪はそれほど装束にうるさい女房ではない。しかし、熱がこもると心の底から「姫らしくなくてごめんなさい」と言いたくなるほど厳しくなる。そんなときは、美夕姫は彼女が満足するまで衣装を替え髪をいじらせ、ともかく“姫”に徹する。だが、それが使えない水美の場合は──。


「そういえばっ」


 唐突だろうとわざとらしかろうと、美夕姫は言った。

「わたくしの兄たちは、いったいどうなるのです? 乗っていた船の者たちも」

「安心しろ、殺しはしない」

 応えに間があかないのは、すでに決定しているからなのか何も考えていないからなのか。

「では?」

「そうだな、塩田の潮汲みか柴刈りかな」


「「何その雑用!」」


 せめて漁師の手伝いならば左源太にはできそうだが……優雅に束帯をまとい昇殿していた司王が額に汗して海水の桶を運んだり鎌を手に山林をうろつく姿など……想像するだに恐ろしすぎる。

「本来は身代を取るまで監禁しておくのだが、身代は取らないからな」

「それはどういうこと?」

「身代はもう手に入っている。つまり、あの船だ」

 それは事実上、美夕姫たちがもう水島から出ることはないということだった。




 三日後──。

 水美は見回りのため、馬で出ていた。

 まだ若い馬が急くので、少し駆けさせると、いつの間にか山に紛れ込んでいた。視界が限られたため馬を歩かせると、規則的に落葉を掻き分けているような音がする。

 伊吹丸の水夫どもは塩田に行かせたので、この辺りで柴刈りをしているのは島の子供か美夕姫の()()のはずだ。子供ならばねぎらいの言葉を、左源太らならばからかってやろうかと、水美は音のする方へと馬を進ませた。

 小さな藪を抜けると男がひとり。

 水美の出現を驚く様子もなく、見向きもせずに落葉を掻き散らす男に、水美は話しかけた。

「おまえは確か、司王とかいったな」

「そうだが?」

 ぶっきらぼうに応えた司王は馬に背筋を嗅がれそうになって、ようやく顔を上げた。


「き、ょう……」


 この男らしくもなく、驚愕に目が見開かれる。


「きょう?」


 水美が繰り返すと、はっとしたように司王は自分の左手を見て口をつけた。手許から意識をそらしてしまったため、鎌で切ったのだ。

「これで結わえておけ」

 とっさに髪をくくり上げていた布を解き、水美はそれを司王に投げ渡す。

 水美の長い髪が自由に風に広がるのを司王は惚けたように見ていたが、

「おい、血を止めぬのか」

指摘され、ようやっと指先に布を巻きつける。

「柴刈りにはもう慣れたか?」

「ああ」

 元より司王には愛想がない。それでも応えただけ、対応としてはまともなほうである。

「おい、司王」

 水美が出てきた藪から左源太が出てきた。

「おまえは!」

 顔色を変えた左源太が鎌を構えると同時に水美は馬の腹を軽く蹴った。高くいなないて、馬は駆け出す。

「あ……」

「しまった」

 水美が去った方を見て司王がつぶやくと左源太が言った。

「え?」

 司王が振り返ると背負子を投げ出して左源太は舌打ちした。

「あの女、水美を人質にすればよかった。いまなら二対一、絶好の機会だった」

「水美、を?」

「ああ」

(コレ)でか?」

「…………うう」

 武器と呼ぶには貧相すぎる。

「美夕姫さまと小雪の行方ぐらいは聞き出せたはずだ」

 左源太の言葉を聞きながら、司王は再び水美が駆け去った方を見ていた。




「あら、お帰りなさい」

 屋敷に戻った水美に美夕姫が声をかけると、いきなりその腕を掴んで座り込み、水美は言った。

「おまえの兄はちょっとおかしいのではないか?」

「えっ? 兄? 兄、というと」

「司王だ、司王」

 急に兄と言われ実兄を思い、従兄の名を出されて美夕姫は落ち着く。

「まあ、それはどうして?」

 逆に水美は少し興奮しているようなので美夕姫が尋ねると、その頬がかっと紅潮した。

「人をきょうと呼んだり、うつけのようにぼーっと見ていたり、アレはそういう(ヤバい)奴なのか?」

「きょう?」

 美夕姫がつぶやくと、水美はずいと膝を進める。

「何か知っているのか? なぜ奴はわたしを見てそう言ったのだ?」

 矢継ぎ早の質問に美夕姫までもが混乱しそうになる。とりあえず、間をとる。

「その前に、着替えをしては? お話はそれから」

「う、ん」

 渋々ながらうなずく水美に、着替えの装束を差し出す小雪。この主従の連携は強硬なのである。










〈十七〉水島庄──みずしまのしょう──

 





今回は公開日までに2回の週末があるので、リライトなんて余裕のよっちゃん♪と思っていたら……最初の日曜日(その時点で打ち込んでいたのは章タイトルだけ)に思いっきり計画の変更を余儀なくさせられてしまいました。

気がつくとスマホの機種変更を決定した私がいました。

最近の機種変更というのはアレですね、ショップに行かなくても宅配でブツを受け取りセルフで回線切替の連絡をしてデータを移行し、宅配で古い端末をお返しする……アフターコロナだからですかねぇ(^_^;)

データ移行もケーブルが要らないんですよ。WiFi環境下で新旧の端末を並べて置いておくだけ!

(残念ながらサルベージしきれなくて購入した電子書籍が消えてしまったアプリもありましたが……)

何とか、こちらに接続して続きを書くことができていますが……文字入力がぎこちないです。順序がすぐにおかしくなる(ありがとう→りがとあ、とか)今回は誤字脱字が多いかもしれませんm(_ _)m




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