〈十五〉舟人(後編)
お待たせ致しましたm(_ _)m
「年が明ければわたしも十五だ。冗談にはさせないつもりだが」
由岐丸は本気で言っているようだった。それに気づき、美夕姫は強い言葉での否定ができなくなってしまう。
「あなたはわたしをまだ子供だと思っているようだが、それはどうかな?」
少年らしさしか感じさせぬ顔に雄の笑みを見せ、由岐丸は座を外れた。
「……どういう意味でしょうか?」
自分よりは彼の人となりを知る左源太に訊く。
「まさか、夜這いを……?」
小雪のつぶやきに、左源太は首を振った。
「いや、そういうことをするお子ではない」
むしろ、下心たっぷりににじり寄る婦女子は幼かろうと熟していようと、上手く遠ざけている。
ほっとしたものの、それでも小雪は不安げに主を見る。視線に気づき、美夕姫は微笑んだ。
「もう少し休みなさい、小雪。気分がまともなうちに眠っておくといい」
「では、俺はこれで」
甲板へと登る階段まで、美夕姫は左源太を送りに立った。
「先程の戯言など、由岐丸さまが忘れてくださっているといいのですが」
「無理だと思うが」
にべもなく言い放つ左源太。
「仮に、一時は忘れていても、あなたを見たとたんにまたそれを思うだろう」
「なぜ?」
「は! 知らんのか? 御身の美しさを」
「わたしが、美しい? そんなはずはないでしょう! わたしはあなたのような男性がおなごに“美しい”と言う理由を知っている。それをまともに聞き、信じてはならぬことも」
「それはそれでいい。だが、建どの、いや、美夕姫さま、あえて俺は言おう。俺はあなたほど美しい女人を見たことがない。男なら誰でもそう思うだろう」
「やめてください」
とうとう、ここにいるのが美夕姫であることを、この賊ばらは隠さなくなってしまった。
「何がおっしゃりたいのです? 左源太さま」
美夕姫よりも固く冷えた声が厳しく問うた。すぐ後ろに小雪が来ていた。
「いや、俺はただ……由岐丸どのの想いを、大切にしていただきたいと……」
いつにない女房の強気にたじたじとなった左源太が何とか口にすると、きっぱりと小雪はつっぱねた。
「それは無理というものですわ」
「えっ?」
左源太よりも美夕姫のほうが驚いた。声は発しなかったが──。
「美夕姫さまには、京に恋人がおありですもの」
「小雪!」
さらに続けようとする小雪の口を、どうにか塞ぎ美夕姫は言った。
「わたくしには、由岐丸さまのお心を受けることはできませぬ。非情なことを申しますが、自分の心に背くふるまいはいたしたくありません」
そうして小雪の手を引いて足早に几帳の内へと戻る。
「女人というのは、どうもわからん……」
顎をかきつつ、左源太はつぶやいた。
夜半。
伊吹丸に正体不明の船がぶつかってきた。
「彌勒王の手の者ぞ!」
誰かの声を聞くなり板の間に寝転がっていた面々が得物を手に甲板へと駆けあがってゆく。
「こ、こんな夜中に……」
小雪が美夕姫にしがみついた。
上からはどたばた走り回る足音やら、武器がかち合う音、叫び声やらうめき声がひっきりなしに聞こえてくる。
「様子を見てくるわ」
小雪に袿をかぶせると小次郎の太刀を握りしめ、美夕姫は階段へと向かう。
先程聞こえた彌勒王とは、確か修王と敵対している海賊である。伊吹丸も海賊船ではあるが、いまは働きを目的とする航海ではないため武装は最低限だった。
階段をなだれ落ちるような勢いで誰かが下ってきた。ふたり、三人、と増える。激しい息づかいが恐怖心を煽る。入口から差し込む月光に、その者らの鉢金がきらめくのを見て、美夕姫は伊吹丸の者たちではなく襲撃者だと判断した。
「止まれ!」
小雪を守るために、こいつらはここで食い止めなければならない!
腰をおとし、身構える。抜刀する寸前の気迫で三人を押し留めるが、さらに下りてきた四人目に突破された。
かすかに小雪の悲鳴。
すかさず美夕姫はひとりの太刀をはね上げ、ひとりの脛を打ち、もうひとりの首筋を叩きつけて踵を返した。
自分の乳姉妹に何してくれとるんじゃあ!との思いをこめて、四人目の侵入者に飛びかかる。小雪からの抵抗との連動となり、首尾よく男を突き飛ばし、美夕姫は小雪を背にかばうことに成功した。
だが、侵入者は四人だけではなかった。
続々と下りてきた者どもに囲まれ、先ず小雪が掠め取られた。
「小雪っ」
数に圧され、美夕姫も背後から手を取られ、体を押さえつけられてしまう。
そのまま主従は甲板へと運び上げられ、手荒く投げ出された。
〈十五〉舟人──ふなびと──
前回「おやすみなさ〜い」と打ったのは5/31の22時過ぎのことでした。
計画では、ともかく金曜日なので〈15〉を全部打ち込んで(たぶん6/1未明には完了すると見込んで)→投稿予約して→朝ごはん食べて→9:30に予約していた用事を済ませて新規お菓子屋さんへ遠征→帰宅となるはずでした。なのにこの体たらく……睡魔……恐るべし!
本来、この回の“あとがき”では船酔いの小雪が飲んだ和薄荷のミントティーとかト○ベルミンのことを書こうと思っていたのに、想定外に作者の“寝穢さ”が露呈してしまいました。うん、大昔、見たいTVも読みたい本もないからと金曜日の夜8時に寝たら学校の電話連絡網が回ってきてしまい(携帯が普及する前の時代です。インターネットは存在していたけれど、個人的にやってるのはまだマニアな人だけ)月曜日に登校したら同級生に「早く寝すぎ!」って笑われました。それくらい、私は睡魔に弱いのでした……。




