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初恋の君はわたくしの双子の兄にご執心のようです。   作者: 高峰 玲


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〈十五〉舟人(前編)




小雪(こゆき)、どんな感じ?」


 美夕姫(みゆき)が心配そうに訊くと、いくぶんか顔色も良くなった女房は申し訳なさそうに応えた。

「もう大丈夫ですわ……かたじけないことでございます。船酔いなど、ほんと、情けない」

 弱々しくも小雪が微笑んでみせたので、美夕姫はうなずく。

「でも不思議です」

 平盃に残る薬湯を飲み干して小雪は言った。

(たける)さまもお船は初めてなのに、お酔いにならないなんて」

「わたくしも小雪の様子を見ていて心配になったけれど」

 苦しむ小雪に罪悪感を覚えるほどに、美夕姫はけろりとしていた。

「建さま、薬湯の追加です」

 そこへ練絹に包んだ何かを大事そうに両手に持つ(はやぶさ)がやってきた。軽い足音の後ろに重いものが続く。左源太(さげんた)の手下のクマだ。

 隼の手にあるのは小さな丸い玻璃の瓶で、水を入れて日なたに置いておくと少量ながらお湯を作ることができる。帆や船体に球体を透過する光を当てないように気をつけなければならないが、そうやって作った湯で薄荷を抽出すると爽やかな薬湯ができ、小雪の船酔いは嘘のように軽快したのだった。しかも、この玻璃の瓶は逆に日光を通して枯れ草などに当てると火がつくので火打ち石の代わりにもなる。


「ああ、それじゃあ小雪、もう少し飲んでおこうか」


 気をつけて瓶を受け取り、美夕姫は盃に注ぎ足す。素直に小雪がそれをすする様子を見ていたクマが

「ほう、もうだいぶん良いようですなぁ」と安心したようにつぶやいた。

 いかにも熊のような風貌で武骨で荒々しく見えるが、それなりに優しい男である。それはクマに限らず伊吹丸の男たち全体にいえることで、美夕姫も小雪も、少なからず好感を持つようになっていた。男らもまた、都風に雅びてはいるが気取ったところのないふたりに、何くれとなく親切だった。

「それにしても」

 クマは今度は美夕姫のほうを見ている。

「姫さんは気丈なひとだ。初めてでも船に酔わんとはね」

「そうかな? 誰でも酔うのかな?」

「わしらもね、そりゃ物心ついた頃から小舟に乗ってはいるけんど、大きな船で揺られたら、きてしまうんですわ、始めはね」

「ふぅん」

「ここだけの話、わしもですわ」

 とクマは声を潜める。だが、またすぐに大声になった。

「酔わんかった人もおりますよ。まず、左源太はんに由岐丸(ゆきまる)はん、羅王(らおう)はんに」

「船にお強いのはご家系ですわね」

 小雪がくすくすと笑う。

「そういや、姫さんは羅王はんとイトコやそうで?」

「うん、そう」

「顔もちょっこし似てますかな? 色白の男前なとことか。ああいや、顔はあのっさんのほうが似てるなぁ。船に酔わないとこも」

「あのっさん?」

「わしらぁ旅人(たびと)ゆうて呼んどります」

「旅人?」

「左源太はんが大和のほうから連れてきはったお人で、なんや記憶がすっかり抜け落ちてしまっとるみたいですが、腕はそれなりに立つし、うまいこと笛も吹きよるしで修王(すおう)はんが気に入って傍に置いとる人でしてな」


「その人は!」


 つい、美夕姫は勢い込んでしまった。

「つかさお、いえ、わたしの従兄にも似ておりませんか?」

「羅王はんに?」

 クマはつぶらな目を瞬いて考える。

「そういや、似ているような?」

 少し自信なさげな発言だったが、それを聞いて思わず美夕姫は小雪を抱きしめた。


「ああ! 小雪、聞いた?」

「ええ、ええ!」


 嬉しさのあまり涙腺が緩む。自分が司王に同行している目的を左源太や由岐丸に話していないが、あの食えない従兄のことだ、きっともう美夕姫が女性であることや、瀬戸内に来た理由を明かしているはずだ。

「あの……?」

 クマのこの様子では平の水夫にまでは話はまわっていないのかもしれない。


「これ、何を昼日中から抱きおうておる」


 そこへ、左源太を伴い由岐丸が入ってきた。

「そいじゃ、わしはこれで」

 軽く頭を下げて、クマが甲板へと戻っていく。

「具合が良くなった途端にいちゃいちゃとか。まったく」

 どうやら由岐丸はお年頃なのか、主従の触れ合いに過敏なような気がする。同性の乳姉妹なのだから、距離感の近さは当たり前だと美夕姫は思う。幼い頃にはくっついてゴロゴロ寝転び、そのまま朝を迎えたことも何度もあるし。

「小雪どのの調子が良くなったようで何よりだな。建どのは、見かけによらず豪胆で驚かされたが」

 クマ以上に熊な左源太に豪胆呼ばわりされ、内心ひきつる美夕姫だが、

「初めて船に乗って酔わないとは、良き体質だ。気に入ったぞ、()()()どの」

「え?」

 表情もひきつらせ、由岐丸を凝視する。

 美夕姫だけではない。

 左源太も小雪も隼も、少年に注目した。

「ああ、羅王どのに伺ったのだ。わたしは来年元服するが、その折には妻にしてさしあげてもいいぞ、美夕姫どの。その体質を受け継げば、さぞかし丈夫な後継ぎが作れそうだ」

 いきなり初対面から間もない相手──しかも年下──から名前を呼ばれ求婚されていることに、苦笑がもれる。

「ハハ、冗談は程々に、由岐丸どの」



to be continued……






いきなりの“続く”、まことに申し訳ないm(_ _)m


現在、ものすご〜く睡魔に襲われております。とりあえずここまでを第十五話の前編とさせていただき、後編を一週間後の6/8(土)正午からの公開に致したいと思います……


あっしまった!

「あのっさん」は「あの人」っていう意味の富山弁です。つい、使ってしまいました。

あと、クマさんが「姫さん」と呼んだのは美夕姫を女性扱いすることになっているからです。この時点ではっきり女性だと言ってないので(と美夕姫は思っている)。


それでは……おやすみなさ〜い(-q-)zzz






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