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初恋の君はわたくしの双子の兄にご執心のようです。   作者: 高峰 玲


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〈十四〉出帆




 その夜、伊吹丸の船中は騒がしかった。

 いかにも間に合わせの簡素な夕餉にわずかの酒が副えられた程度の、宴とも呼べるようなものでもないが、船の男たちは司王(つかさおう)(はやぶさ)との再会を心から喜んでいるのだと感じられた。

 仕切られた几帳の内で美夕姫(みゆき)小雪(こゆき)の主従は、気配を立てぬよう静かにすごしていたが、正直なところ、早く寝たいという気持ちになっていた。

 おそらく、この視界しか遮らぬ“結界”を突破しようとする者はこの船にはいない。それでも、小次郎(こじろう)の太刀と小雪を抱き込んで眠ろうと美夕姫は思った。


「……(たける)


 中央で男らと交流していた司王がようやく現れた。

「腹はくちたか?」


 配慮はあるが……繊細さ(デリカシー)に欠けるところが兄と同類である。


 同じく従兄(いとこ)である橘王(たちばなおう)には見られない傾向から、これは火宮(ひのみや)家の血筋の特徴なのだろうと推察された。大納言であった父よりも叔母が、そうだったとほんのり思い出し、口元を緩める。


「まあ、だいたいは。何か用か? もう休もうと思うのだが」


 この騒ぎの中、しかも几帳だけを仕切りとした中で? こいつ、本当に貴族の姫君なのか、と従妹(いとこ)の豪胆さに今更ながら司王は驚く。


「早くないか?」

「眠いのだから仕方あるまい。明日、船が出たら船酔いするかもしれないし」

「疲れたのか?」

「ずっと、姫暮らしだったから少し。小雪もいるし」

 以前のように、兄弟として並んでは行動できないのは明らかに運動不足が祟っている。いまだから、まだ動けるのだ。

「ああ、そうだな」

 小雪の存在に、女性を伴った移動だったことを思い出し、いささか強行気味だったかと自省する。この娘と女房を、同列に扱ってはいけないのだ。

「なら、そのままそこで寝ていろ。隼に番をさせるか?」

「いらない。……心配があるなら、几帳の内に預かるが?」

 たいした女である。自分の貞操よりも彼の侍者を気遣うのだ。

「いや、こいつらは大丈夫だ」

「うん。あ、そうだ。これを」

 美夕姫は自分が飲まなかった酒の瓢箪を司王に渡した。

「わたしは飲めないから」

 そういえば昔も、自分が食べられないおかずを(さとる)や自分にまわして食べさせる子供だった。無駄のないように、というよりは単に自分が嫌いなものを食べたくないだけだろうと思うが、つい苦笑してしまう。


「ほう、何だ、建どのは下戸か」


 そこへ両手に瓢箪と酒器を握った左源太(さげんた)が顔を出す。疑問形ではない物言いに、何やら挑発めいた響きを感じる。


「ええ、わたしはそこの従兄(あに)のように風流を解することができませんので酒を嗜むという習慣がないのですよ」


 風流、貴族の嗜みといった煽り言葉を先回りで封印する。


「それは残念な。今年十四の由岐丸(ゆきまる)どのが、ぜひ一献差し上げたいと申しておられるのだが」

「由岐丸どの?」

修王(すおう)どののご長子でな、あちらで待ってござるが」


 美夕姫の着替え中に乱入した少年だった。


 まずい相手だ。煩わしいつきあい以前に口止めをどうしたものか……。

「小雪はここに」

 

 そっと袿を女房に纏わせ、美夕姫は立ち上がる。司王に譲った瓢箪を取り戻し、少年の元へと歩を運ぶ。

「修王どののご子息と伺った。わたしはそこなる司……羅王の()()()で火宮建と申します。なにとぞ、よしなに」

 するりと膝をつき瓢箪を傾けると、慣れた様子で由岐丸は手にした酒器を差し出した。

「先程はご無礼いたした、建どの」

 躊躇なく、一息に飲み干す。

「うん? 建どのは酒は」

「わたしは不調法にて、あいにく」

 さらりと断り由岐丸に更に注いだ。年下の者が自然体に盃を重ねているのに下戸とは情けない、という恥じらいは微塵も匂わせない。

 それから、その左右の者、左源太、司王の器にも酒を注ぎ、美夕姫はようやく立ち上がった。

「それでは、わたしはこれで。お先に休ませていただきます」

 入り交じって酒を飲まないのも、先に寝るのも当然のこと、という顔で几帳の内へと戻る。

「ああ、ゆるりと休まれるとよい、建どの」

 気に留めぬ様子で由岐丸は左源太らとの飲みを続ける。


「羅王どの」


 ややあって気配が収まったところで由岐丸が尋ねた。


「あれはあなたの妹御か?」

「従妹だが」


 こんな少年(こども)にまで性別バレてるぞ──しかし、美夕姫の男振りは年季の入ったもので、あの姿のときは正直、弟としか思えない司王である。


「衣を身に着けておらぬ姿を見た」


 素直に告げられた内容に、小雪が慌てていた原因が判明した。それでは、誤魔化しようがない。


「都の姫というのは、みな、あのように美しい肌をして?」

「由岐丸どのが何を見られたのか、俺には」


 とりあえず韜晦しておく。


「あなたは見ていないと? ならば、あなたの()ではないということでいいのだな?」

「従妹なので」

「なるほど」

 少年は嬉しそうに笑みを浮かべた。




 翌朝、まだ夜の明けきらぬ薄明の中を伊吹丸は出帆した。


「秋は夕暮れと申しますが、明け方も趣き深うございますわね」


 目覚めたときより何となく気鬱げな美夕姫の気持ちを晴らさせようと小雪が話しかけると

「うたた寝に──」

 そう詠みかけて、美夕姫は黙り込んでしまった。










〈十四〉出帆──しゅっぱん──

 






平安時代の成人年齢は何歳、というように固定されていません。また、平均寿命の関係からも現代と比べるとずっと若い年齢で成人とみなされるようになっていました。ので、このお話ではまだ若い登場人物が飲酒してるシーンがあるのですが……もし、未成年のかたがこれをお読みになっていたならば、お伝えしたいことがあります。


お酒は大人になってから嗜んでください。


そして


アルハラ、ダメ!絶対!です(笑)



名作『めぞ○一刻』のイチノセさんを彷彿とさせるらしく宴席で酒を注がれそうになるたび「飲めないから」と烏龍茶やらオレンジジュースのコップを見せて驚かれる私ですが(どんだけ酒豪だと思われてんだ?)、完全に外で飲まなくなったのはマイカー通勤するようになってからです。バス通勤時代は、まあ、乾杯のビールぐらいは口をつけてましたが。もともと、アップルパイは好きなのにタルト・タタンは苦手で、お酒に弱い自覚はありましたが決定打は……20歳の誕生日に、お祝いにヌーボーをいただきまして……飲みすぎまして……ごちそう&ケーキを腹いっぱい食べたところに許容量を超えたアルコール摂取……→→→はい、散々な結果となりました。せっかく食べたケーキが……!ケーキを……!→→→「もう酒やめた!」ハタチの誓いでした(笑)


今回はほぼほぼ、書き直しです。初稿で書いたネタへのこだわりが、いま、全く感じられずカットしまくりました。おかげで1話が短くなりましたm(_ _)m


あ、美夕姫が言いかけたのは小野小町さんの有名な

「うたた寝に恋しき人を見てしより

          夢てふものは頼みそめてき」

という歌です。一応ラブストーリーですので、恋の歌をひっぱってきました(*´艸`*)









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