06ー07
06
「マスター、何をしているのですか」
通信室で作業をしていると、アインスが声を掛けてきた。
「地球にね、メッセージを送ろうと思って」
「どなたに何と、送るのですか」
「……秘密だ」
何となく気恥ずかしかった僕は、メッセージの内容は告げずにおいた。
それから毎日、僕は地球にメッセージを送り続けた。
返事は、一通も届かなかった。
07
『木』は、僕が見上げなければならないくらいに成長していた。それだけの時が経っていた。
最近は、それに寄りかかりながら、宇宙を見上げるのが僕の日課だった。
「何を見ているのですか、マスター」
「ここからはね、地球がよく見えるんだよ」
僕が指差す先には、青く輝く美しい星があった。
ただそれは、地球だと分かっていなければ、他の星に紛れてしまいそうなほどに遠かった。
「故郷が、恋しいですか」
何を分かり切ったことを、と言おうとして、言葉に詰まった。ロボットである彼には何もかもが『分かり切っていない』のだと、近頃忘れかけている僕がいた。
「……ここには、誰もいない」
「私がいます。マスター」
「君はロボットじゃないか」
口に出してから、ハッとして彼を見た。彼は心のないロボットであるはずなのに、どうしてか僕の言葉に傷付いているように見えた。
「……ごめん」
僕は呟いて、逃げるようにして宇宙船の中に駆け込んだ。