道中2
休日のせいか新しくできたばかりのせいなのかここのサービスエリアはすごく人が多い。確かに、レンガ調作りのお洒落な建物でトイレも見た事のないレイアウトになっている。しかしこの人混みだと休憩には全く適していない。地方の遊園地を思い出させる様なマスコットキャラクターも見えた。
「ストップ」
牧野は急に僕の足をとめる。お腹がすいているのに......
催し物の猿回しに興味深々の様だ。少し見る為に自分の’‘猿’’も引き止めたらしい。
テレビでも見た事あるようなオーソドックスな猿回しだ。幼少期の自分よりも主人の言う事を聞いてるのは確実だと思うくらいの忠実さであった。以前の旅行で野生の猿に鞄を引っ張られた経験があったので特に感心させられてしまった。周囲のお客さんも子供を中心として歓声があがっている。
猿は観客を気にもせずに球に乗りながら嘲笑うかのようにあくびをかいていた。
猿も働くのは嫌なのねーー。
僕はそれでも一心不乱に拍手をおくった。
隣を見ると牧野も興味をさらに深くした顔で自分よりも”いい服”を着ているお猿さんに向かって拍手をおくっている。
その後、建物内に入りお土産コーナーをかき分け、フードコートの席に着いた。
「さっきのどう思う?」
牧野はボサボサ頭を前に突き出して唐突に切り出す。
「ほら、さっきの猿回し師の方だよ。」
「どうしたんだ?」
彼は話を伝える時に省略する癖がある。
なるほど、最後のあくびのときかーー。
「猿がかわいそうだと思わないのか? か?」
「違うよ。そうじゃない。」
僕は話が見えずため息をついた。お腹が空いた。
「なぜあんなにすごいのにサービスエリアで無料で見られるんだ?」
「本部の宣伝とかじゃ無いの? あとサービスエリアにオファーをもらったとかじゃないのかな。」
彼はそれほど物事を深く考えない。たまに常識もない。
「無料であんなすごいものが見られて感動したんだ。本当にこの人は、猿が好きなだけで演じているのかと思っちゃったよ。」
彼はどうでもいいような事を言いながら先に来た蕎麦をすすっていた。箸の持ち方も汚い。
しかし、確かにお猿さんは不機嫌だったが、僕たちに楽しさと感動と余韻の時間を作ってくれた。途中、お腹がすいていることさえ忘れていた。たまたま通りがかっただけであったがそれにより一層思い出に残るであろう。
今となっては自分の事を猿扱いしてくれた牧野に、少し感謝である。1人なら素通りしてしまっていたのは言うまでもない。
しかし、自分のカツカレーのベルはまだ鳴らない。蕎麦にしておくんだった。