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第一回座談会! その3「今更自己紹介コーナー、そして後日談」

「うーん、盛り上がってるところ悪いけど……そろそろ時間だよ」

「えっ、もうかよ? まだ話したりないのに」

「いっぱい話したくなっちゃうよねぇ。わかるわかる。一応ラジオ式だしそれっぽいコーナーでもやってみる?」

「お便りないけどお互い簡単な自己紹介こーな〜」

「琥珀が言うんだ!?」


 まさかの琥珀が振ったことに驚きながらも、なんとか気を取り直す。


「う、うん。そうだね。お互いの世界観もわかったし、次は個人的な質問してみよっか! そうだな〜。二人共好きな食べ物なに?」

「俺は家庭料理だな。肉じゃがとか、カレーとか……やっぱ普通のが一番だな」

「あたしはフルーツ系のお菓子かな。ショートケーキもモンブランも好きだけど、中だとやっぱりフルーツタルトかな。季節によって乗せてるフルーツも違うから」

「カレー美味しいよね。フルーツやケーキも好き!」

「なんでも好きなたいぷですか?」


 悠護と日向がそれぞれ好物を上げると、喜一が同調するように頷く。

 するとふと琥珀が質問すると、彼は苦笑いを浮かべる。


「いや、実は蜜柑食べれないんだ…空気汚染浄化時期に路地裏で暮らしてたんだけど、その時に腐ってるて知らずに蜜柑食べちゃって…」

「それは……嫌な思い出だな。俺も家のパーティーとかで高級な料理出るんだけどよ、食べ続けると飽きるっつーか……胃が重くなるから嫌いだ」

「悠護のそれ、他の人が聞いたら絶対嫌味だと思うよ……。あたしは……苦いのが嫌いなんだ。ゴーヤとかブラックコーヒーとか、ああいうの口にすると舌が変になるんだ」


 運が悪かった喜一に同情しながらも、悠護もげんなりとした表情で嫌いな食べ物を思い出した。

 日向も小さく舌を出して同意する。


「高級な食材食べてたらある意味舌が肥えてジャンク系食べたくなるよねぇ。苦いのも人によっては苦手な人多いし」

「因みに先輩の好きな食べ物は?」

「家庭的な料理が好きだな〜。特に皆んなで囲んで食べれるホットプレート系の料理好き。一番好きなのは肉巻き寿司パーティー!」

「へぇ」

「反応薄っ、琥珀って好き嫌いあるの?」

「好きなものは漬物とゼリー。嫌いなものは寒天です」

「ゼリーと寒天一緒じゃん…」

「可笑しいですね。毒草食べても嫌いにはならなかったのに。何故か寒天は受け付けなかったんですよ」

「とんでもない言葉聞こえたんですけど!?」

「毒草食べたって言ったよね? 言ったよね!?」

「なんつーもん食ってんだよあんたは!」


 さすがの三人も琥珀の言葉が聞き捨てならず、慌てて事情を聞き始める。

 それでも態度を変えない琥珀は頬を軽く掻きながら平然と答える。


「いや、知的好奇心で。毒があるのは知ってましたが本当に毒あるのか興味出て試しにそこらに咲いてた夾竹桃を一欠片食べてみました」

「馬鹿なの!? なんの為の注意書きなの!?」

「確かめるため?」

「食べない為だよ!」

「夾竹桃食べるのやめといた方がいいですよ。身体の作りが人の子より丈夫な私が食べたから、まだ下痢や嘔吐、発熱で済んだんです。人が食べたら死にます」

「うん。誰も食べようと思わないなら安心していいよ」

「今すぐ捨てろ。そんな知的好奇心」


 喜一のごもっともな言葉に悠護のげんなりした言葉を出すも、当の本人は軽く首を傾げる。


「と、とにかく無事でよかった……。そうだなぁ、次は趣味とか特技とかは?」

「いいぜ。次はそっちからな」


 順番を二人に譲ると、喜一が目どころか顔を輝かせながら言った。


「趣味はオタ活! 魔法少年☆かりん君を布教されてからハマっちゃってヤバいの! 友達と偶に聖地巡ったり、アニメ鑑賞会やったりしてるよ〜」

「あぁ…アレ」

「その説は本当に申し訳ありませんでした」


 琥珀が遠い目をしたのを見て、喜一が頭を下げた。

 恐らく何かしらの理由で趣味に巻き込まれたのだろうか、部外者である日向と悠護は口に出さなかった。

 変に気まずい空気が流れ、払拭しようと喜一が慌てながら続けた。


「と、特技はギターかな? これ特技より趣味に近いんだけど最近ハマって時間空いてたら練習してる〜」

「私の趣味はげーむせんたーのシューティングゲームですね。撃っても死なないぞんびを倒すのが楽しすぎてどうやったら倒せるか試行錯誤してます。特技は…一度読んだ本の内容は大体把握してる所でしょうか。その能力で旧人類期の本100冊は書き写しましたし」


 喜一は趣味はかなり意外すぎで特技は普通だが、逆に琥珀の趣味は普通で特技がすごすぎる。

 日向も悠護もさすがに一度読んだ本の内容を、大体とはいえ把握することも100冊も書き写すのはできない。


「喜一さんの趣味がちょっと意外すぎた……」

「俺もちょっと衝撃受けてる。こういうのあれだな、ギャップあるな」

「しかも琥珀さんの本100冊書き写しとかもスゴすぎる」

「俺なら無理だ。できねぇ」

「あたしも無理……。えっと、気を取り直して。趣味はボランティアだね、お母さんが慈善活動してたからその名残で。特技は最近だと無魔法の自動発動(オートモード)がちゃんと使えることだね」

「あー、そういえば最初の頃、上手く制御できなくて色々ぶっ壊してたもんな」

「その節は本当に申し訳ありませんでした」

「それは俺じゃなくて先生に言ってやれ。俺の趣味か……前はなかったけど、今は実益込みで料理だな。特技は魔法で何かを作ることかな? あ、そうだ。記念に二人にこれやるよ」


 そう言うと悠護は得意の金属干渉魔法で取り出した二本のネジの形を変えて、ライオンと猫の置物を作って二人に渡した。


「可愛い! うわ、魔法で作った雑貨貰っちゃった! ありがとう、とても嬉しいよ!」

「ありがとうございます。風水的にも良さそうですね。大事に飾らせてもらいます」

「ボランティアか〜。俺も偶に参加してるよ。現場の声聞くのも仕事だからね。料理は俺も最近趣味に入りつつある!」

「先輩台所出禁食らってましたよね。元の食材に謎の液体入れるから」

「謎の液体っていうかビタミンCとかカルシウムとか直接入れてるだけなんだけどなぁ…?」

「レンジ爆破させた私も人のコト言えませんが」

「最初の頃の俺よりひでぇぞソレ」

「悠護、ゆで卵作ろうとしてレンジに卵入れたよね。防音加工してあるはずの寮の部屋の壁越しから樹の怒声が聞こえた時は何事かと思ったよ」

「その節は本当に申し訳ありませんでした」

「それは樹に言ってあげてね」


 さっきと全く同じ行動を繰り返す二人を見ながら、琥珀は嬉しそうな表情を浮かべた。


「おぉ、同志…! ゆうごさん、わかります。私も調理実習でホイル焼き作ってて、温めたらいいって言われたんでアルミホイルをお皿代わりにしてゆで卵作りました。爆破しましたけど」

「どっちも危ない!」

「大丈夫。小さい頃に落ち葉燃やして中に栗入れて爆破させて遊んでた頃に比べたら腕に火傷した程度で済みました」

「琥珀の幼少期が悪ガキ過ぎる!!」

「例の知的好奇心のせいだろそれ!? 終わったらすぐに捨てろよマジでッ!!」

「あはは……でも、あたしも悪ガキみたいなことしたよ? 中学の頃に好き勝手してた先輩をしばき倒したり」

「おいそれ初耳なんだが!? つかお前も何やってんだ!!」


 以前、夏祭りで古澤とかいう先輩を懲らしめたと聞いたことがあるが、しばき倒したなんて聞いたことがない。

 これは座談会が終えたら根掘り葉掘り聞こうと決めた。


「女番長…日向ちゃんは女の子なんだから気を付けないと。恨み買われたら大変だから程々にね?」

「はーい、気を付けます」

「そういえばおふたりの家族構成や交友関係はどういったものなんでしょうか。さっきの樹さんはご兄弟ですか?」

「樹……あー、本名は真村樹って言うんだけど、そいつは俺のルームメイト。魔導具を作る職人、魔導士技師を目指してるんだ。兄貴肌ってのもあって、めっちゃ頼りになる親友だぜ」

「あたしのルームメイトは神藤心菜なんだけど、樹のパートナーなんだ。優しくていい子で、しかも魔導医療シェア世界三位の大企業のお嬢様なんだ」

「なんか、俺らの周りすげー家の奴ばっかだな」

「悠護、それあたしのセリフ」


 魔導士家系の頂点にいる子息のくせに何を言っているのだろうかこのパートナーは、と思いながら話を続ける。


「次は家族構成か……あたしの家族は陽兄だけで、両親は五歳の頃に事故で亡くしたんだ。今はもう大丈夫だけど、当時は結構ショックだったなぁ」

「ああ、それ俺も分かる。俺も家族は父親と八年前に死んだ実母、それと再婚した義母と八歳になる異母妹だな。前はちょっとギクシャクしてたけど、今は良好だから安心してくれ」


 脳裏にすでにいない者達を思い出していると、喜一も悲しげに微笑んだ。


「そっか。日向ちゃん両親居ないんだ…ゆうご君もお母さん居ないって、少しだけ親近感湧いちゃうなぁ」

「皇学園に所属している人は社会的に強い立場の人が多いから、若親ですけど割りかし両親居る人多いですからね。普通高校は居ない人の方が多いですけど」

「それでも片親ばっかだけどね。俺は父親と兄が居る。兄は海外飛び回って話す余裕無いけど。父親も仕事一筋な人だからあんまり家族って関係わからないかなぁ〜。あ、でも黒染で死んじゃった母様は今でも好き!」

「それは俺も同じだ。俺も今もおふくろのことが好きだぜ」

「あたしもお父さんとお母さんのことは今でも大好きだよ!」


 たとえもう会えなくとも、親が好きな気持ちは不滅だ。

 二人が同じ考えなのか嬉しいのか、喜一の表情が和らぐ。


「琥珀は?」

「好きですよ。尊敬出来る人達でした。異脳力者は同じ一族同士で無いと子供が作れないので、家族も大家族です」

「そうなの!?」

「姉と弟が結婚して、その子供が50上の妹と結婚とかよくあるコトですよ」

「よくあることなのか!?」

「スケール大きすぎる!!」


 年齢だけでは色々と想像できず、三人はプチパニックを起こす。


「わたし達基本地上の子に比べたら長生きなので」

「へ、へぇー…もう結婚とかしてそう…」

「しましたよ。三回」

「三回デスカ!?」

「どれも訳ありですけど。本人達が幸せを掴んだら婚約解消しました」

「き、聞きた過ぎるけど聞きたく無い…複雑!」

「大人だ……琥珀さんがここにいる誰よりも一番大人だった……」

「情報量多い……溺れ死にそう……」

「ほんとそれな」


 琥珀の衝撃的事実を受け止められず、彼女の先輩である喜一だけでなく日向も悠護も同じように頭を抱えた。


「私のコトなんて話したらキリ無いですよ。そもそも私は婚約はすれど生涯を共にする伴侶は娶る気は無いんで安心して下さい」

「何に? しかも琥珀が娶る側なの…??」

「私のコトより日向さんやゆうごさんの交友関係が知りたいですね。どのようなご友人が居るんですか?」


 疑問符で頭がいっぱいになっている喜一を放って話を進める琥珀。

 これにはさすがに苦笑いを禁じ得ない。


「樹と心菜以外だと……一個上の先輩の白石怜哉かな。悠護と同じ七色家の一つ『白石家』の次期当主」

「幽霊みたいな見た目の癖に、七色家の中じゃ一番の戦闘狂。俺、あいつと戦うのはもういやだ」

「あとは生徒会長の緑山暮葉先輩と、魔導士の軍にいる赤城アリスさん、それと……ギルだね」

「ああ……あいつか。イギリス王室第一王子ギルベルト・フォン・アルマンディン、あのはた迷惑な雷竜王子」


 脳裏に高笑いする王子を思い出して苛立たしい顔を浮かべる悠護に、日向は口元を軽く引きつらせながら苦笑いした。


「へぇ! 王子様が留学生としているんだ。珍しいね。俺たちの交友関係は〜」

「先輩」

「ん?」

「手早くリズムに合わせて紹介しましょ」

「…え?」

「「え?」」


 突然の琥珀の思いつきに三人がきょとんとするが、彼女は気にせず手を叩き始めた。


「ほら! はい! はい!」

「え、はい! ファッション大好きアニメ大好き女装男子のみぃすぅず!」

「はい! 次!」

「無気力だけど努力家で狙撃の腕は常に98パーセント! 頼れるお兄のたーかー!」

「それだけですかー?」

「いやまだです! 現代美術にどハマり詳しい女番長俺らの姉御のナァベェー!」

「はい、ありがとうございます」

「琥珀偶に無茶振りするよね!? い、以上が俺のチームメイトであり友人の3人でした…」

「ほんとにすごい無茶ぶりだな」

「でもそれに合わせて紹介する喜一さんはすごいです。さすがレッドの強性」

「それはさすがに関係なくね??」


 その無茶ぶりに付き合う喜一もいい人だと思ったのはあえて言わなかった。


「琥珀もやってよ…」

「嫌です。私の学園内での友人は2人居ます。1人は七咲千夏、クラスの委員長をしています。それ以外に家系の仕事もこなしてるので、凄い友人です。また私のペア相手でもあります。もう1人は中川一胡ちゃん。彼女はリボンや可愛いものが大好きです。独自の理論でマイワールド全開で、常に私と委員長に愛してる! と伝えてくれますね」

「そっか、いい友人がいるんだな」

「そうだね。せっかく仲良くなったんだもん、その縁は大切にしてね」

「…そうですね。私なりに大事にしてるつもりですけど、ねぇ?」

「あー! あー! そ、そろそろ指令もクリア出来た範囲に入るんじゃないかな!?どうかな?!」


 何故か遠い目をする琥珀から全力で目を逸らす喜一を余所に、日向が自身の頭上で浮かんでいるカンペを見つけた。


「あ、あそこに浮かんでいるカンペに『OK!!』って書いてある。あっ消えた」

「なんだよあれ、どうなってんだよ。新手の魔法か? それとも脳力か異脳力か??」

「この時空軸ではよくあるコトです」

「わー、慣れてるぅ。じゃあ今回はここまで! 第一回質疑応答コーナーでした〜! 楽しかったよ日向ちゃん、ゆうご君! ありがとう!」

「現代的な魔法の応用を知れて楽しかったです。今回はありがとうございました」


 笑顔でお礼を告げる喜一と、律儀に頭を下げる琥珀。

 見た目も性格も正反対だが、やはり一緒にいる影響なのか二人の息はピッタリだ。


「こっちこそ、脳力とか異脳力、それからそっちの世界のこと教えてくれてありがとう」

「またの機会があったらもっと話そうね! あ、そうだ。あたし、琥珀さんに一言言いたいことがあるの」

「はい、なんですか?」

「――琥珀さんの言う通り、殺して解決する問題はあると思うよ。でも……あたしは、殺して解決するより救って解決する道を選ぶよ。誰もが『お前のしていることはただの偽善だ』って言っても……あたしは、絶対にその道を選び続けるよ」


 日向の言葉に、誰もが息を呑んだ。

 喜一はあの時の琥珀の言葉が彼女に聞こえていたのと、異脳力者化した琥珀と同じ雰囲気を出す日向を見て口の中が渇くのを感じた。


「日向……」

「ごめんね、変なこと言って。でも……これだけは言いたかったの。せっかくいい空気で終わりそうだったのに、本当にごめんね!」


 悠護は言いたげな顔をする横で、日向は慌てて謝る。

 だけど、琥珀は表情を変えないまま口を開いた。


「…そうですか。日向さんの無魔法があれば多くの人を救えます。けれども貴方が救えば救うほど、救われない人が貴方を恨みます。力も何も考えずに無魔法を使ってしまえば、人魚の彼女が人間だった頃の記憶まで消しかねません。人に戻っても赤子同然になってしまった彼女は生きていて幸せなのでしょうか?」

「……っ」

「…貴方はまだ若い。貴方は学園でパートナーと学んでいる。だからこれからも沢山の経験を積んで、学んで下さい。人の子は短命ですが長所適応能力と学習能力は誰にも負けません。ゆうごさんと沢山の縁を繋いで、自分の理想を実現して下さい。応援しています」

「琥珀さん……」


 最後に応援をくれた少女に日向が目を見開いたと同時に、小さく微笑んだ悠護が日向の手を取った。


「……確かにそうかもな。でも、そうならないようにパートナーの俺がいる。俺だけじゃない、樹や心菜、他の連中だってこいつの力になりたい奴がいる。そいつらがいる限り、きっと大丈夫だぜ」

「……そうだね。琥珀さん、あなたの言葉は絶対に忘れません。だからあなたも、もし辛い時があったら一人で解決しないでくださいね。あなたにも喜一さん達という頼れる人達がいるんですから」


 日向の手を取り握りしめるパートナーの横顔を見て、心が温かくなるのを感じながら琥珀に向かけて微笑む。


「うん、そうだね。琥珀が困ってたら俺が助けるから安心して下さい!」

「…頼りにしてますよ、先輩」

「うん、俺も頼りにしてるよ。後輩!」


 同意する喜一の言葉に琥珀は特に表情は変えなかったが、それでも口元が微かに緩んでいた。

 それを本人が気づいたのかどうか分からないが、それは日向が言うべきことではない。


「よし、それじゃ本当に終わりだな!」

「そうだね。みんな、お疲れ様!」

「お疲れ様! また会えたらお話しようね〜!」

「ありがとうございました」


 四人が個性出るお別れを告げた直後、拾遺が白い光で包まれた――。



☆★☆★☆



「……い、……おい日向、起きろ」

「んぅ……? 悠護……?」


 軽く揺さぶられ、聞き覚えのある声に呼びかけられた日向はむくりと机に突っ伏していた顔を上げる。

 空は赤に近い橙色に染まり、頼んだアップルジュースのコップの中の氷は解けて水になっている。それを見て、さっきまでいた不思議空間を思い出す。


 全く別の世界を生きる子供達。赤紫色の髪をした先輩と、黒い髪をした同い年の少女を。


「戻ってこれたんだ、聖天学園に……あたし達が生きる世界に」

「ああ。こうして記憶が残ってるから現実だと思うんだけど……なんか、夢みたいな出来事だったよな」


 がりがりと頭を掻く悠護から視線を離すと、ふとテーブルの上に一枚の紙が置かれていた。

 不思議に思って手に取りひっくり返すと、日向の琥珀色の瞳が見開くも口元に笑みを浮かべた。


「でも、あれは夢じゃないよ。ほら」


 自分の手に持っている写真を悠護に見せると、彼もさっきの日向と同じ反応をした。


「……ああ、そうだな。俺達の新しい思い出だ」


 日向が持っていた写真には日向と悠護、それと喜一と琥珀が笑顔で映っていた。

 写真を見た悠護がふっと笑みを零すと、あの不思議空間での出来事を思い返し「あっ」と声を上げた。


「そういえば日向、お前中学の時に先輩をしばき倒したってあれ、詳しく聞かせてもらうぞ」

「えっ!? えーと、それは……黙秘権を行使しますそれではっ!!」

「あ、おいコラ待て逃げるな!! 全部吐くまで問い詰めてやるから覚悟しとけ!!」


 慌てて逃げだす日向に、悠護も全力で追いかける。

 彼女の手にある写真は、風に揺られながらパタパタと乾いた音を出していた。



「んん…! 眠たい…寝たのに寝た感じがしない?」


 朝になり、目覚ましの音で目覚めた喜一がベッドから起き上がるもすぐに襲い掛かる眠気に首を傾げる。

 なんでだろう? と思っている喜一の部屋の扉が勢いよく開かれる。そこには制服姿の琥珀が輝かしい瞳で喜一を見つめていた。


「…琥珀? おはよ、早起きとか珍し、」

「…ました」

「へ?」

「あの! 伝説の! さんたさんが居ました!!」


 …。

 ……この子は何を言ってるのだろうか? 出かけた言葉に蓋をする。


「ほら! これ!」


 喜一に近づいた琥珀が手のひらにある猫の置物を見せた。金属で出来た猫の置物は何処なく琥珀のような雰囲気がある。


「さんたさん来てるんだったら、起きとくべきでした。抜かった…」

「本物のサンタ来たら警報鳴るから! それどこから…?」

「知らないうちに枕元に。先輩もあるじゃないですか」

「え? …ほんとだ」


 枕元にあるライオンの置物を見て、喜一は驚いた表情を浮かべる。琥珀が持つ置物と同じ素材で出来たそれは、やはり自分と同じ雰囲気がある。

 ふと琥珀を見れば誰かと重なる。黒髪の男の子と琥珀色の女の子が穏やかに笑っていた。


「…なんか琥珀の特徴にそっくりな子達と会った気が?」

「寝惚けてないで起きて。私を助けてくれるんでしょ?」

「それはまぁ…ってなんか話が壮大になってない?」

「貴方が託されて、約束してくれたんですよ。早く準備して学校行きますよ」


 ふっと笑った琥珀に喜一はニッコリ頷いた。


「うん、学校行こ!」

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