第一回座談会! その2「脳力と異脳力、互いの学園と制度について」
「……さて、話を戻しまして。次はお二人の脳力と異脳力について知りたいですね」
「さっき喜一さんの脳力は『体質変換』だって言ってたけど、そっちも魔法みたいに色々と種類あるのか?」
脳力や異脳力という名の魔法がそっちにあることは理解できたが、詳しい種類に関して日向達は何も知らない。
その質問に喜一達はすらすらと答える。
「あるよ〜。数えたらきりが無いから、俺たちは脳力を型で分けてるんだ。身体を使う『身体型』。物や人を操作する『操作型』。自然現象を起こす『自然型』。そして3.5次元の電脳空間を展開させてる『電脳型』、この四つだね」
「操作型は物を操作する『無機物操作型』と人を操作する『生命操作型』の二種類に分類出来ますね」
「それは俺らのところも一緒だな。自然魔法でもそこから火とか水とか分類するし」
「電脳型って、空間干渉魔法みたい難しい脳力なのかな? 陽兄がいつもぽんぽん使うから、あんまり実感ないや」
「いや……あの人は色々と規格外だろ……」
干渉魔法の中で二番目に難しい空間干渉魔法を手足のように楽々と使える担任を思い出したのか、悠護の顔が苦々しくなる。
「いや? 確かに難しい部類だけど、空間干渉とは少し違うかな。簡単に言えば電脳世界で出来るコトを空間内限定で現実に反映出来るんだよ」
「…電脳空間でデータの塊なんですよね。なんでデータが触れるんですか」
「えぇ? 空間内の窒素や炭素の電子分子や熱エネルギーの働きでオーバーヒートした時は冷却機能が稼働して…」
「あー、いいです。もういいです。つまり電脳型は自分のパーソナルリアリティの再現、固有の脳力、そう解釈すればいいんですよね」
「うん、簡単に言えばそうだね。一番謎に包まれてるから一番研究されてる脳力の型でもあるねぇ」
「うおお……意外と難しい単語がいっぱいでてきた」
「俺らの魔法って、計算とかじゃなくて魔力操作とかが基本だからな。そういう専門的知識は絶対いらないってわけじゃないけど、そこまでいいかな程度だし」
「だね……こうして話してみると、やっぱり色々と違うって感じるなぁ。じゃあ次は……お互いの学校について話します?」
「あ、俺もそれちょうど知りたかった。どっちから話します?」
ここまで世界情勢が違うなら、教育機関も教育内容も違うだろう。
そう思って質問を振った直後、喜一と琥珀の目の色が変わった。
「俺は魔法学校が知りたいなぁ。杖をえいや! って振って学んだりするのかな?」
「原来の魔法使いは薬草のえきすぱーとでもありましたね。私も気になります」
「いやいや、そこまでファンタジ―な感じじゃないですよ! 俺達が通う聖天学園は、世界唯一の魔導士育成学校で旧人類期の日本地図だと東京都と神奈川県の間にあるんです」
「敷地は広大、生徒数も入学試験を突破した生徒と在校生を含めると約五万人ほど。設備もこっちにとっては最新鋭の物を使ってまして、警備も万全なんです」
「杖の代わりに武器系の物を使って実践授業を受けたりするし、薬草は……うーん、一応あるけど、でもそれは魔導医療っつー魔法の技術と現代の医療技術を合わせた新技術で事足りるからなぁ」
「わぁ…割と現代的」
自分達とあまり変わらない内容に、喜一は夢を壊された子供の表情で呟く。
もちろんこれは日向達が悪いわけではないが、どうしても罪悪感に苛まれる。
「杖の代わりに武器使うんですか?」
「そうだな。こっちは魔導具っていう特殊な道具があって、少量の魔力を注ぐだけで通常の魔法と変わらない威力の魔法を放つことができるんだ」
「その中でも専用魔導具っていうのがあって、こっちは魔導士本人の髪の毛とか血を一緒に加工することで、その人の魔力に合った魔法を放つことができるんです。通常のですと魔力の入れ過ぎで壊れたりするんで。あ、ちなみにこれがあたしの専用魔導具の《アウローラ》です!」
そう言って日向は腰のベルトについていたホルスターから、黒い自動拳銃型専用魔導具《アウローラ》を取り出す。
一見普通の自動拳銃にしか見えないそれを、喜一は興味深そうに眺める
「おぉ、拳銃! 武器が補助って所はこっちと変わらないね。そういや琥珀も拳銃使って無かった?」
「一応。私の場合は場に適応して使える武器を使うだけですけど」
「あー…ライフルで相手撲殺したって言ってたね」
「誰が言ってたんですか? 怒らないのでその不名誉な事実を人に話す輩の名前を教えて欲しいです」
「怖いよ! そ、そういえばそっちの世界には強さにランク付けるコトとかあるの?」
なんか物騒な会話が飛び込んだが、話を逸らすように質問してきた喜一の心情を慮って問い詰める視線を向ける琥珀を無視して話を進める。
「いや、魔導士候補生はあくまで『学生』。正規の魔導士じゃない、そういうランクがつけられるのはむしろ卒業した後だな」
「ランクは『一階位』、『二階位』、『三階位』、『四階位』、『五階位』、『六階位』、『七階位』の七段階ありまして、『七階位』は今のところいないので事実上最高ランクは『六階位』だって陽兄が言ってました」
「へー、そこはあくまで学生なんだね」
「魔導士候補生は卒業後は魔導士にしかなれないんですか? そもそも魔導士って何をする仕事なんでしょうか?」
「え? うーん、そうだなぁ。IMFに就職して治安維持や外交とか……あとは魔導士しか入れない軍に入ったり、学園の教師になったり、王星祭の選手になったりとか?」
「だな。卒業生の六割くらいはIMFに就職するよな。国家公務員扱いになるからあっちの方が給料いいし」
「王星祭?」
「世界規模のお祭りかしょーでしょうか?」
首を傾げる二人を見て、日向達は分かりやすいように答えた。
「毎年夏に開催される世界大会だぜ。世界中から集まって選ばれた魔導士達が己の魔法とプライドをぶつけあう武闘大会」
「あたしの兄の陽兄が二年前までその大会の選手だったんです。しかも18歳で初登場してから五年連続優勝したんですよ!」
「日向の兄さんは国からその功績が認められて、【五星】っていう二つ名を与えられてるんだ」
「魔導士で二つ名持ってる人って、陽兄みたいにすごい功績を残した人しか与えられないから、引退した時は結構騒がれたんだよ……」
「あー、まぁ有名人って大変だよね」
「あたし、あれのせいでマスコミ嫌いになったもん。自宅張り込み、ダメ絶対!!」
過去にしつこくインタビューしてきたマスコミのハイエナ如き執着につき纏われるのは、日向だけでなく誰でもごめんだ。
「へぇ、お兄さんそんな凄い人なんだね! なるほど〜、各国の優秀な人材も人柄もアピール出来るし、何より盛り上がるから国益にも繋がるね」
「私達の世界でもあと数年で余裕が生まれたら、世界交流として開催する可能性ありますね」
「そうだね。楽しみ!」
今はまだ色々と慌ただしいが、いずれそうなる未来があると信じる喜一と琥珀を、日向と悠護は微笑ましそうに見つめた。
「んじゃ、次はそっちの学園について教えてくれよ」
「今思い出したんですけど、出会いの話の時に東京都府って言ってましたよね? そっちで何かあったんですか?」
「ああ、確かに。なんか東京都と京都府を合わせたような地名だよな?」
「なんかねー、人類が空気汚染に悩んだ原因が『超常現象』なんだ。超常現象は文字通りの大災害で天候は荒れて、地震で地盤が崩れて地形が変わっちゃったらしいよ。何百年、何千年、もうとにかく昔の話だから詳しい理由はわかんない」
「日本も例外では無く、旧日本の地形が混ぜ合わさって今の県名になったんです。先輩は東京都とか京都府とか言われてもピンとこないでしょ」
「こない! 歴史の授業で旧日本の県名軽く習ったぐらいかな」
「うわぁ、マジかよ……」
悠護達ではピンとくるが、喜一達では全然こないとなると一体どれくらい地形が変わってしまったのだろうか。
もちろん魔導士のその気になれば地殻変動はできるだろうが、さすがにそんな考えをする人がいないのが不幸中の幸いだ。
「そっち色々と大変だな。それにしても、空気汚染だけじゃなくて地殻変動まで……こっちはそんなのないな」
「だね~。世界地図も喜一さん達で言う旧人類期のままだし、あるとすれば……魔法で小島を何個か作ったくらい??」
「なんかこっちとそっちで歴史が色々違いそうだね。こっちは科学の神様を人工的に作って、やっと解決したって言ったでしょ? そこから色んな問題や制度がドンドン増えて言って、六年前までは人類滅亡状態だったから路地裏に保護しきれない子供が沢山いたんだ。黒染対策は薬で解決したとして、増えすぎた子供を管理する為に東京都府のあっちこっちに脳力専門の学校が設立されたって訳」
「まあ、大人がそんなに死んでんなら、管理するにはやっぱりちゃんとした教育機関が必要だよな」
「喜一さん達が通っている学校はどんな感じなんですか? 聖天学園みたいな感じなんですかね?」
聖天学園は世界唯一の魔法学校で、魔導士の人口も通常より少ないのと量より質を求めているため入学者数は限られている。
だが喜一達の世界でそんなに子供が溢れているなら、そういった教育機関が多くても不思議ではない。
「学園では脳力の使い方から質の上昇、将来に向けての学科別専門科目などあらゆる職業の知識を学べます」
「脳力の質を上昇させる為に戦闘訓練もあるよね」
「はい。個人的に技術を磨くもよし。部隊を組んでチーム戦で戦うもよし。形式は様々です。脳力を高める為に補助として武器使用も可能ですね。脳力の無い人達は逆に武器と戦術を使い、ランクを上げている人もいますが」
「へぇ、こっちとそう変わんないな。さっきも言ったけど、魔導士は二人一組での活動が基本だから、チーム戦とかあんまないんだよな」
「そっちは学生の頃からランクがあるんだね。どんな感じなのかな?」
こっちとは全然違う教育内容に日向達の好奇心がアップしていった。
「下から順にホワイト(0)→グレー(1)→ヴァイオレット(2)→グリーン(3)→イエロー(4)→インディゴ(5)→レッド(6)だね」
「さらに色にも濃度があります。例えばグレーからヴァイオレットに上がりたい場合、自分がグレーの弱性だった時は中性、強性まで濃度を上げてやっとカラーランク試験を受けられます。合格すればその人はヴァイオレットの弱性に昇格して、また濃度を上げていきます」
「まぁ試験を受けるには学園内で集めたポイントが必須なんだけどね」
「因みにホワイトからグレーに上がりたい場合1000ポイントですみますが、インディゴからレッドに上がりたい場合は100000ポイント必要です。卒業までに10倍集めなきゃいけないとか無理…」
「そうかな? ランクが上がれば上がるほど強くなるし活動の幅も増えるから意外とすぐ貯まるよ。俺の知ってる人はインディゴからレッドに上がる為に自分で会社を立ち上げて、その売り上げを学園に給付したコトでポイントもらえたらしいよ」
色彩濃度。ポイント制。
聖天学園にはない制度ばかりだが、それどれもが実力や功績によって得られるものだと考えると自分達がどれだけ大達に庇護されていたのか痛感させられる。
「色の濃度、か……濃ければ濃いほど強くて、薄ければ薄いほど弱い。色も濃度によっては最弱と最強に振り分けられるのか」
「なんか厳しいランク制度だね。しかもポイント制なんて……校則違反とか犯したらパアになる可能性もあるね」
「だな。俺らの世界はまだ優しいほうだって改めて痛感するぜ」
「えぇ? そうかなぁ。意外と皆んなやりたいコトを伸び伸びやってるよ? 流石に子供全員は学園に収納出来ないから、抽選で外れた子達は路地裏の掲示板から常にハローワーク更新されて、簡単な仕事から大きな仕事まで収入が入るように設定されてるよ」
「自由が無かった分、人の子達は伸び伸びと学んで、今を楽しんでますね」
自身の世界の優しさに痛感していたが、喜一と琥珀の言葉に目をぱちくりさせた。
「え、そうなのかっ? 俺達の方じゃ学園に入れなかった奴は『魔導士崩れ』っていう犯罪者になるか、一般人として過ごすかの二択しかないのに」
「でも、この話を聞く限りだと喜一さん達の方は意外と自由なんだね」
「そりゃ勿論、こっちにだって差別はあるよ? 異脳力者はそうだけど、ホワイトのコトを脳力の使えない色なしだって馬鹿にする人達もいる。ホワイトの人達もそれで自信喪失して、犯罪に走っちゃう人達も居るしね」
「そういう人を出さないようにしているのが貴方でしょ」
「うん! 俺はホワイトの旧校舎でホワイトの人達と一緒に勉強して、問題を見つけて、解決方法を考える計画を実施してるんだ。元々ホワイトはランク参加資格は無かったけど、武器の提案とか、戦術の組み込みを更新するコトで互いの利益になる、ホワイトも戦えるって証明したり色々したなぁ〜。学びの制度も頑張って増やしたし」
「その計画が実施できたのも先輩がレッドの強性だったおかげでもありますね」
「うん、レッドの強性は色んな権利持ってるからね」
目を輝かせながら拳を握りしめる喜一を、悠護と日向は眩しそうに見つめる。
卒業まで庇護される立場である以上、彼のような行動ができない二人にとって、喜一のように有言実行する彼に羨望を抱かざるを得ない。
「すごいな、喜一さんは。俺らは卒業まで何もできないから、正直そんな風にできるのは羨ましいな」
「うん。そういうところは尊敬しちゃうな。あたしもそんな魔導士になれるように頑張らないと!」
「貴方達も一度お偉いさんに計画の提案とかしてみたらどうでしょう? 確かに最初は信憑性の無い物だってひと蹴りされてしまうかも知れませんが、どんどん学んで色んな学科の人達に協力してもらって、様々な記録やデータを更新、提出し続ければ、もしかしたら貴方達が考えた計画が認められる日が来るかもしれません」
「俺達レッドの強性は確かに権力がある分、プロジェクトが進めやすいけど、同じ志を持った学生が派閥を立ち上げたり、サークルを立ち上げたりするコトはよくあるからね〜」
喜一と琥珀の励ましの言葉に、二人の心の重荷が軽くなるのを感じた。
今まで自分のいる立場に甘えていたが、行動しなければ動かないこともある。それを知れただけでも、この座談会に来てよかったと思える。
「……そうだな、言うのはタダだよな。んじゃ、これが終わったら今度親父と会って話そっかな。一応、俺も親父みたいにIMFの日本支部長として働くことになるし、そのための勉強だと思えば協力してくれるだろ」
「ふふっ、そうかもね。頑張ってね、悠護」
「うんうん、頑張れ!」
「応援しています」
三人の声援を聞きながら、悠護は気を取り直すようにぐっと拳を握りしめた。