幸せを望まない俺
このシリーズの最後の話です。
この街には人形になった女がいたらしい。お前のせいで俺の人生は台無しだった。
俺は、美人な母と少し気が弱いが優しい父の間に生まれた。もの心ついてすぐに2人の異常さに気づいた。
周りは気づいていなかったが、母は、父を愛してなどいなかった。父も母に別の誰かを重ねているようだった。その異常な関係は気味が悪く感じた。
学校に通い始めると、「呪いをかけて男を奪った女の子供」、「女を捨てた男の息子」といじめられた。街を歩いていても、ヒソヒソと噂話をされているのを感じた。
俺がなにをしたというんだ。街の奴らも父も母も大嫌いだった。
母が風邪をひいて寝込んでしまったので看病するため部屋に入った時、綺麗な箱を見つけた。母が寝ていることを確認し蓋を開けてみると、中には同じ女の人の絵が大量に入っていた。俺は、恐怖と同時に強い憤りを感じた。この女が両親をめちゃくちゃにしたのだと。
あの時の怒りを忘れないまま俺は成長した。いじめていた奴らも、街の奴らも俺の存在に飽きてしまい何も無かったかのように接してくる。更には、母似の顔を目当てに媚を売ってくる女もいる。表面上は普通に接しているが俺は奴らを一生許さないだろう。
父が隣街にいった日からぎこちない接し方をするようになった。父が何かを隠しているようなので、俺も隣街に行くことにした。
1日、街を歩いてみたけれど特に何も無かったので諦めて帰ろうとした。
「ハンカチ落とされましたよ。」
話しかけてきた女の顔を見て、固まってしまった。想像していたよりだいぶ若いが、母の部屋にあった絵の女だった。
母の部屋にあった絵、父の態度、それからこの女、全てが分かったような気がした。
固まってる俺に女は困ったような顔をしたので、慌ててお礼を言ってハンカチを受け取る。
そして俺は考えた。この女と俺が結婚したら両親はどんな顔をするだろう。なんの取り柄もない俺だが、顔だけは母譲りの美形なのだ。まずは親しくなるところから始めよう。
何年かかってもいい。俺はもう幸せは望まない。その代わり、お前らが誰一人として幸せになることは許さない。
歪んだ口元を隠し、去ろうとした女に声をかけた。