Quest:0
技術の進歩は素晴らしい。
僕は素直にそう思った。
2032年、人類はついにゲームの世界に入ることができるようになる。
完全にゲームの世界に入り込むことができる世界初のゲームとして瞬く間に注目されたそのゲームは『DreamHunterQuest』と名付けられた。
その名の通り、夢のRPGゲームだ。
詳しい技術はわからないが、なんでも4次元空間に莫大な数のスーパーコンピューターで干渉し、プログラミング制御することで人間が入り込める新たな空間として定着させたものであるらしい。
『DreamHunterQuest』はハンターとなり世界のお宝を探していくことがメインだが、剣士や弓使いといった様々な職業があり、モンスターやダンジョンボスを倒してレアアイテムのドロップを狙うモンスターハント、年に2回全国のプレイヤーと賞金をかけたお宝探しのイベントがあったりと、やりこみ要素も満載らしい。
僕は『DHQ』の情報をチェックするたびに興奮し、毎日寝不足だった。
βテストの結果も上々で、1人ひとつのIDのみ登録可能、医学の観点からも危険はないことが証明され、さらに現実世界の危険物(刃物や毒薬等)の持ち込み不可とゲーム内で犯罪ができないよう工夫されているらしい。
また、ゲーム内コイン換金システムを採用する事で、ゲーム内で稼いだお金を現実世界でも使用できるという情報が出た事で、ゲーマーに限らず多くの人がこのゲームに興味を持っていた。
僕の通っている高校でも『DHQ』の話題でいっぱいで、受験を控えた高校3年生の時期にそんなことで盛り上がるんじゃない!とよく先生に怒られたが、先生自身も『DHQ』が話題に上がるたびにどこかそわそわしていた。
誰もが発売日当日にこのゲームを手に入れたいと思っているだろう。
僕もそうだ。
このゲームはゲーム機本体とゲームがセットになっており、また、本体がかなり大きいため、店頭受取はできない。
小売店での抽選で当選した人のみ購入可能で、支払いは前払い、お一人様一つまで、予約券譲渡及び転売不可という販売方法だった。
発売日に用意できる本体数が全国で50,000台であることから、各地で壮絶な争奪戦が行われた。
僕は1週間学校を休み、100店舗以上の店舗を周って抽選券を集めた。
友人にはその情熱を勉強に活かせよと皮肉交じりにいわれたし、先生にはめちゃくちゃ怒られた。
でも僕は後悔なんてしない。全ては『DHQ』を手に入れるためなのだから!!
そして、運命の抽選日。
100店舗以上回って手に入れた僕の抽選券の番号は、ひとつも当たっていなかった。