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心は夏の放浪者  作者: クサカゲロウ
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「四季、四季」


 空は夏らしい入道雲と、遮るものがない丸い太陽がある。眩しいくらいの陽の光が縁側を照らしていた。ひまわりはまっすぐに太陽を見つめている。縁側で寝ている四季を揺する。すると彼女は眠そうに一度体を縮めてから起き上がった。こんないい天気なんだ。寝てしまうのも無理はない。

「お兄さん…?」四季はまだ寝ぼけているようだった。

「久しぶり」

 僕は四季の頭を撫でる。四季は確認するように頭の上の僕の手を触り、そして目を見開いた。「お兄さん!」四季は僕に抱きついてきた。

 もう、あれから何年経つのだろうか。ここまであったことを話してもいいが…、いや、あまり話すような気持ちにはなれない。少しばかり説明すると、僕はあれから少年院に入れられた。といっても1年程度だけど。あそこはあまり良い場所とは言えないが、それでも僕には揺り籠のような安心感を与えてくれた。不思議なものだけど、何故かそう感じたのだった。

 廃人同然だった僕は、空いている時間に執筆を始めた。内容は、ある少女と僕の話。その話はそれなりに評価され、賞を取ることができた。出版もされ、一部の人々にはカルト的人気になったが、僕には続きを書くことができなかった。なぜならそれは創作ではなく、ただ事実を述べただけのものだったから。僕はただ自分のために記録をとっていたにすぎない。そして僕は消滅する媒介者となり、新作を発表しないことで存在が誇張され、妙な噂が立ち込める伝説上の人物になった。

 出所したあと、また地上の地獄のような自宅に戻ったが、既に僕にはある目標があった。というのは、四季とまた会うことができるかもしれなかったから。僕はその目標に向かって、大したことはない勉強をこなし、当然のように達成した。これらは全て四季に会うための必然だった。

 後から聞いた話だと、周りは僕が施設で更生したと思っていたようだ。確かに考えてみれば、そう捉えられてもおかしくない順序だ。胸糞悪い。なぜ僕が周りに良くしなければならないのか。周りなどどうでもいい。僕から全てを奪った世界は消えてしまえばいい。だが、僕は目標があったから感情に振り回されることはなかった。

 今、僕がいるのはある博物館。僕はその学芸員。ここでは莫大な歴史的書物が管理されている。学芸員ならば、保全活動の一環として、当然触れて読むことも可能だ。ここに勤めている限り、僕と四季は一緒にいられる。言語も民族も違う国だけど、周りの環境など関係ない。

「お兄さん」四季が僕を呼んだ。

「何?」僕は返事をした。

「本当に、これからは一緒に居られるの?」四季は不安そうだ。

「もちろん」

「じゃあ、また引き離されそうになったら?」

「その時は…」僕は少し考えたが、考えるまでもなかった。「その時は、一緒にどこかへ逃げよう。綺麗で、誰も知らない場所に」

 止まっていた"私"の時は動き出した。後の物語は、きっとこれから紡がれていくのだろう。

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