↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/13

06話。知る




 SNSや掲示板では事故で私生活の音声が聞こえた話題がちらほらとされていた。

 やっぱりいい所のお嬢様なのでは説から、部活で料理クラブ的な物をやっているのでは等々噂されている。

 とある名門女子高の生徒説が有力とされていて、流石に願望盛り過ぎだろ、どう考えても二十歳は越えてる等々と突っ込まれているのだが、その女子高は県内にある高校だった。

 鋭い人は色々と勘づいているのかも知れない。


 普通にストーカーだぞと、自分を棚に上げてぞっとする。

 アーカイブも残っていないし、ゲリラ配信で視聴者数が少なかったこともあり、動画の転載なんかは見当たらないが……匿名掲示板なんかは怖いから見ない派だ。

 胃が本当に痛い。

 いつものようにパソコンの前で待機していれば、所定の時刻通りに生放送が始まったので一先ずは安堵する。

 コメント欄はいつもの名前弄りから始まり。


 ――ルリカちゃーんー!――


 いつもの名前弄りに、そんな名前が混ざっている。

 混ざってるわ……俺はパソコンの前で頭を抱える。


「もー、わたしの名前はルミエール。光の天使ルミエールだから!」


 光の天使ルミエールはいつも通りに誤名をばっさばっさと切り捨てて行き。

 やたら目につく問題の名前を拾った。


「ルリカ? とっても可愛い名前ね! でもわたしはルミエールだから! で、次は……ほんと誰なのよ、みつこって! ルリカール? 惜しいっ、なんで巻き毛作るの! ……似合いそうよね? 縦ロールどうかしら?」


 やけくそ気味に吠え、どんどん進行して行く。

 コメント欄は大うけだった。

 その後のルリカ呼びは完全スルーを決め込んだようで、視聴者もその勢いを楽しんでいる。


「よし、この辺でいいでしょ。流石に覚えたわよね。光の天使ルミエールだから! さ、次行くわよ、次!」


 軽く息切れをしながら、最後に駄目押しをして企画に移って行く。

 はーいママー。なんてコメントが多く流れていて、よく訓練されているリスナーだと感心しながら俺も習ってコメントしておく。


(これまでの芸風のおかげで助かったか……)


 はあぁぁ、と息を吐く。

 額に浮かんだ汗を拭いながら、背もたれに身体を預けて安堵と共に顔を上げれば一つのコメントが目に入った。


 ――マジで美沢ひかるじゃなかったのか――


 誰だよ。もうそのターン終わってるよ。寒いやつだな。

 さらっと無視して、その日の放送もいつも通りに楽しんで終了。

 放送終了後、椅子にもたれて大きく息を吐いく。


(ん……美沢?)


 ふっと、微妙に照沢さんの苗字に似てるのが引っかかった。

 美沢ひかるでエゴサをする。と。


「……おお?」


 なんか出た。

 これは……。


(ジュニアアイドルか)


 俺もオタクだから、こう言う業界があるのは知っている。

 しかしリアルのこの手のやつはなんかごたごたで規制かかったとか、そんなにわか知識もあるのだが、これは大丈夫なのだろか?

 某大手のダウンロード販売サイトで普通に売られているのだが。


(ふむ)


 美沢ひかるちゃん。9歳。

 可愛らしく余所行きのおめかしをしている子供がパッケージの表紙を飾っている。


(9歳かあ……)


 確かに照沢さんに似ている。ような気もする。だが、面影があるようなないような、と言った所だ。

 内容を確認したい気もするが、これ買ったら履歴残るのか。無茶苦茶躊躇する。


(ふむふむ。サンプル、そう言うのもあるのか)


 クリック。プレイヤーに動画が流れる。

 可愛い女の子がなんかこう、わちゃわちゃと遊んでいる動画だ。

 なるほど、これくらいなら健全ラインと言うことか。

 良い所の制服風と、お仕着せのドレス姿が基本で、白タイツ、ニーソと、可愛さを前面に推している作風のようだ。

 薄手のワンピースや、大人っぽいノースリーブのシャツや――うさ耳に黒いタイトスカートなのは、ディーラーかバニーガールを意識しているのか――スク水とビキニ水着、バレエの衣装もあるようだが、ビキニは可愛い目のフリルがついて布面積も大き目だ。正直可愛い。

 確かに成長期の人体は美しい。

 昔は専門学校で漫画家を目指していたので、その手の美的感覚も理解出来る。

 アウトなのは人を傷つけるような行為であって、美しい物を美しいと感じること自体は素直に受けとめるべきだろう。


(ふむ……)


 普通に仔猫やら仔犬やら可愛いしな。

 9歳の頃やつは本当にただひたっすらに可愛い。

 9歳から毎年一本づつ出ていて、最後に出ているのが12歳で四年前か。

 この手の物で出演作品が四本とは、多いのだろうか。どうなの?


(まあ、面影はあるけど……意識して比べないとわからないような?)


 猛禽類カフェの店員である照沢ルリカさんは、おかっぱで前髪も長い根暗少女だった。

 ジュニアアイドルの美沢ひかるちゃんは、背中まであるロングヘアーで、脱色もしているのか、明るめの色だ。

 前髪は短めで、おでこがとても元気いっぱいな活発そうな女の子と言えるだろう。

 笑顔は確かに似ているが、美沢ひかるちゃんの方がはじけるような力強さがある。


(……つまり芸名か。アイドル志望って言ってたもんな)


 本人から直接聞いたわけではないが。

 子供の頃からアイドルを目指していたのか。

 若くても人に歴史ありだな。


(あー、光の天使ルミエールに似てるのかも?)


 美沢ひかるちゃんがこのまま真っ直ぐ成長して、金髪青目にすればああなりそうな雰囲気かも知れない。

 だがそれも意識してそう見ようと見れば、そうとも見れると言った範疇。

 一応、照沢ルリカでもエゴサしてみたが、なんか似ても似つかないAV女優の人が引っかかったので、そんな気分ちゃうわとブラウザを閉じた。


(やれやれ……えーと、つまり?)


 照沢ルリカ。美沢ひかる。光の天使ルミエール。全員同一人物なのか。

 考えると、ややこしくて頭の中がこんがらがりそうになるな。

 ……あれ?


(あれ、え……こわっ)


――マジで美沢ひかるじゃなかったのか――


 考え、コメントを思い出してゾワッとした。

 つまり、殆ど特定されていたのか?

 今回の事故で、本名で呼ばれたことで、別人だったのか――若干ややこしいな――と、コメントで直接本人に伝えている怖い人がいた。

 こわっ!


(えぇ……なんで、どうやって特定したんだ?)


 俺と同じように、自分の行動を生放送で紹介された人が猛禽類カフェに行って特定?

 それも変な話だ。

 ジュニアアイドル時代の芸名しか知らなかった様子だし、その芸名を実名だと思っていた?

 本物のストーカーなら、勤め先からそのまま本名まで把握していても不思議ではない。


(んむぅ?)


 考えてもわからない。もやもやする。

 怖過ぎてこれ以上検索する気も起こらないのだが……バーチャルアイドルの存在について、深く考えていると、本当に名状し難い、胸の内にもやもやとした感情が湧いて来る。

 自分でも自分の感情がよくわからない。

 わからないので、どうすれば解消されるのかもわからない。

 ただひたすらに胸の内で渦巻く不安に苛まれることとなった。



============



 心ここに在らずの状況でも日々の日常は続いて行く。

 俺の心理状態がどうであろうと、日常においてやることが大きく変わらないのは救いだった。

 光の天使ルミエールの放送も、いつも通りに続いている。


 そしてまた休日。

 なにもする気が起きず、パソコンもつけず、スマフォもテーブルの上に置いたまま、ベッドでごろごろとしていた所に。


(……んー?)


 インターフォンの音が響いた。

 俺は重い身体を起こす。

 なにも考えていなかった所為で、そう言えばアポ無しの来客だなと気づいたのは、扉を開けて目の前の人物を視界に収めてからだった。


「……」


 咄嗟に声も出ない。

 一瞬だれかわからなかったが、目の前に照沢ルリカがいた。


「こんにちは、渡辺櫂太郎さん」

「……なん、で?」


 声を搾り出す。

 なんでここにいる?


「毎週、この曜日にお店に来ていましたから。今日がお休みだと思いました」

「個人情報保護法」


 ハッとして口走る。

 猛禽類カフェの会員登録をした時、住所氏名電話番号まで書いた。

 職場でもメンバーズカードの入会に色々記入して貰うが、個人情報の取り扱いには非常にやかましく言われる今日この頃だ。


「貴方がそれを言いますか?」


 少しおかしそうに言われた。

 ぐうの音も出ない。


「……キミ、学校は?」


 今日は平日で、照沢さんは普通の私服だ。時刻は昼時。


「……お時間有りますか? 立ち話もなんですし、喫茶店にでも行きませんか?」

「……」

「……」

「……」


 マンションに押しかけて来た根暗な少女の真顔は、正直やばいくらい怖いのだが。

 浮かぶ冷や汗に寒気を覚える。


「喫茶店、近くにいいお店知ってます。そこで話をしましょう」


 その申し出を断り、このまま追い返せばどうなるか。

 家まで来られているんだ、どう考えてもろくでもないことにしかなるまい。

 バレる覚悟は決めて放送の切り忘れを教えたんだ、確かにこうなることもあるのか。

今更ながら自分の思慮の浅さに呆れる。


(警察が同行していないだけ、まだ示談の余地があると言うことか?)


 準備をするから少し待ってくれとの旨を告げて、俺は腹を括った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。