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01話。気づく

最近流行のVtuberを題材とした恋愛物となりました。

Vtuberが活躍するお話ではない感じなのでご留意ください。




 サンタクロースを信じなくなったのは何歳の頃だったか。

 記憶の彼方だが、意外と早かった覚えはある。冷めた子供だった。

 そんな俺が、こんなにもバーチャルアイドルにハマるとは。


「こんばんは。さぁ、朝よ……目覚めなさい……」


 一人暮らしのワンルームマンション。

 俺はインスタントコーヒーを片手にパソコンの前に座り、インターネットで生放送を視聴している。

 まだ真っ暗な配信画面。

 奮発して買ったお高いヘッドフォンからは、エコーでくぐもった声が聞こえた。

 コメント欄には、配信主が挨拶する前にフライングでコメントが流れる。


――ルミちゃん来たー!――


 配信主はフライングしているコメントは無視して、お決まりの挨拶。


「光の天使、ルミエール降臨よ!」


 エコーが消え、明るい声に暗闇が晴れる。

 配信画面には荘厳な神殿が一気に映し出され、その中央の魔法陣に、美少女キャラが軽く両手を広げて光と共に舞い降りた。

 歓迎のコメントが怒涛のように流れて行く。


――ルミエ、結婚してくれー! ルミちゃーんおはよー! リュミちゃん来たー! ルル! ママー! ルールルルル! るーみっく! ルーンちゃーん!――


 文字通り滝のように流れているので、全てを目で追えるわけがない。

 配信主の、機械の天使マキナティアは適当に拾い上げて行く。


「ルミエじゃないし! 求婚相手の名前間違えるなんて失礼よ! ルミでもリュミでもッルでもママでもないわ! ルールル、それ狐を呼んでるやつでしょ、知ってるわよ! るーみっくはー、あの方も神よね。犬夜叉大好きよ。ルーンちゃ……ちょ、それ大御所の人でしょ、呼べないわよって、ほとんど呼んじゃったわよ! わたしはルミエール! 光の天使ルミエールよ!」


 俺も最初に来たときは驚いたが、どうやら初期の配信で自分の名前をよく噛んでいたことへの弄りから、呼び名に突っ込みを入れてリスナーとのじゃれ合いの流れが出来ているらしい。

 まあ、いつものやり取りだ。

 ちなみに結婚してくれは毎回俺が打っているキモいコメントなので、今日突然いきなり読まれて心拍数は跳ね上がり、多好感に包まれ益々好きになってしまう。


 早くもこれでまた明日も頑張れると言う気持ちになって来る。

 今日は変な老婆に絡まれて気分が重かったのだが、一発で吹っ飛び非常に晴れやかな気持ちになった。


(やっぱりいいなぁ。ルミエールちゃん)


 キャラクターと直接的なやり取りが出来て、キャラクターがこちらのアクションに反応してくれる、この圧倒的なインパクト。

 言葉では説明出来ないだろうし、知っている人には今更説明は不要だろう。

 オタクの夢が実質叶っていると言っても過言ではあるまい。

 今、バーチャルアイドルが――キャラクターを纏って生放送をする配信者をそう表現するのも合っているのかどうか、今現在でも様々な表現が散見されている。ブイチューバーと言う表現はユーチューブ以外でも活躍しとるやんけともやもやするので、あえて今はこう呼んでいるが――サブカルチャーの一つとして確立されつつある黎明期。


 先では漫画、ラノベ、アニメ、ゲーム、バーチャルアイドルかと言ったような一大ジャンルに育ち、アニメやゲームは興味ないけどバーチャルアイドルは追いかけてる、なんてオタクも増えることだろうと俺は読んでいる。

 今、俺がどハマりしてるからそう思うだけかも知れないが、正に時代の最先端の娯楽文化だと言っていいだろう。

 飽きることなく、今もまだ雨の日の後のタケノコのように続々とバーチャルアイドルが生まれては消えしている中、光の天使ルミエールのコミュニティーは不定期ながらも週三、四回程の頻度で、夜の11時前後から一時間程雑談をしたり、ゲームをプレイする生放送を半年近く続けていて、今では中規模な物まで育っている。


 今でもまだファンアートやMAD動画が動画サイトへ投下され評価を受けているので、まだまだこれからも伸びて行きそうな気配もある。

 個人主導ではなかなかの快挙と言っていいだろう。


「それでね、前、近所のスーパーにセルフレジが導入されたって話したわよね、わたしお気に入りの、ご年配のお姉さんが気になってたんだけど――」


 降臨の挨拶が終わった後は、場面が白い洋風の部屋に移り、光の天使ルミエールがソファーに座ってこちらと通信している――と言う設定の――石板を眺めながら軽く雑談して、本日の企画をこなして行く流れだ。

 開始から半年近く経ち、最近はようやくこなれて来た感もあるようで、咄嗟に地声が出たりもするが――それが何故か敬語なので弄りネタの一つとなっている――まだまだキャラクターの口調を維持しながら最近はまっているアニメの感想やリスナーからの質問に答えている。


 よくあるバーチャルアイドルと言えばそうだろう。

 そんなスタンダードなスタイルで、光の天使ルミエールが人気を集めている要因は、やはりそのキャラクターの可愛さが第一に注目される。

 アバターは――と言う表現もあまり見ないが、まあ意味は通じるだろう――3Dモデルで、とても完成度が高い。


 有名どころのモデラーの名前が数人予想されているが、作者は非公表。

 顔立ちは当たり前だが可愛らしい美少女。やや童顔気味かな。

 キャラクターの記号としては、淡く長い金色の髪を持ち、猫のようなぱっちりした眼に青い瞳。


 体形は細身で清潔感がある中、ふとももの曲線美が確実にプロの仕事だと唸る。

 女性キャラにとって重要な記号である胸の大きさは、平均並み。大きくもなく、小さくもなく、平均並み。ファンアートではよく大き目に描かれるが、原作は並だ。重要だ。


 基本はどちらかに振った方がわかり易いし受けも良いのだが、こだわりなのか、万人受け出来る地力があるとの自信からか、普通サイズだ。重要なので二回確認した。

 頭上には天使の輪があり、白い、猛禽類のような翼と長い尾羽を背負っていて、動く度に揺れてくれるのがお気に入りだそうだ。

 喜んでぴょこぴょこ跳ねている映像が非常に可愛かった。今でも過去動画からその場面をたまに見返すし、素材にした動画も作られ再生数もなかなか伸びていた。


 衣装は三種類有り、一つは白と水色を基調とした、ギリシャ神話に出て来るような衣装をスカートでアレンジしたギリシャ神話衣装。

 正式名称はキトンと、ヒマティオンと言う羽織を着た衣装なのだが。

 まあこんな調べればいくらでも出て来る情報を喜んで披露していると、濃いギリシャ神話オタクの諸兄には半笑いで鬱陶しがられるか。


 そしてキトンに甲冑を纏った戦女神モード。これはあんまり見かけない。

 FPSや対戦系のゲーム配信用に用意していたらしいが、パソコンの相性が例のゲームダウンロード販売サイトと良くないようで、企画は絶賛放置中。


 そして最後に、架空の高校の制服。

 胸の校章が光の神殿のシンボルマークとのこと。

 制服を押さえている辺り、モデラーはわかっている人間だなと、わかる者同士のシンパシーを感じてにやりとする。こちらも初期の頃しか見ていないが。


 最初は現実寄りの話しをするときはこっちを使っていたらしいのだが、最近は切り替えるのもテンポが悪くなるし話題もあれこれ飛ぶので、もう登場時のギリシャ神話衣装で雑談をしている。

 初期の企画が無駄になる、これもあるあるだろう。


(だが、それだけじゃない)


 質の良いアバターさえあれば、着実にファンが増え続ける程甘い界隈では無い。

 その素晴らしいアバターと共に、清楚で明るいキャラクターイメージに似合った凛として張りがある中にも、甘みのある良質な声。

 ちなみに美声を指摘すると照れるので、その手のコメントは拾わずに流されている。


(もちろん、声が可愛いだけならごろごろしてる)


 そしてその可愛い声から繰り出される好きなアニメやゲームを心底楽しんでいることが伝わって来る、愉快な喋りと安定感。

 話題は基本健全で、日々の他愛のないことと中心に、女児向け男性向け、両方のアイドルアニメに詳しく、男性をメインターゲットにしているアイドルゲームも廃課金ガチ勢なので、男性ファンを中心に幅広いファン層に受けている。

 感情が乗って素が出ると、突然綺麗な敬語になる変な癖があり、総じて魂の人――これも、こんな表現でいいのかどうか――の人柄の良さが受けている。


 将来の夢は歌って踊れるバーチャルアイドル。

 先ではクラウドファンディングを募って、3Dモデルの借金に当てたいと言っていた。

 すぐに冗談だと茶化していたが、既に諭吉分くらいは笑わせて貰っている自覚があるので早く払わせろと鼻息の荒いファンは少なくない。

 もちろん俺もそのうちの一人だ。


 要するに、様々な色物際物化物が跋扈しているこの界隈の今現在、奇抜なネタや際どいネタをやる訳でもなく、これと言ってバズるような追い風もなく、地力の魅力で渡り歩いている正当派だと言えるだろう。


「うん。そうなの、本当によかった。でも、ちいちゃいおばあちゃんって、なんであんなに可愛いのかしらね。うちのおばあちゃんも小さいから親近感持っちゃうのかしら。あ、漬物好きよわたし。おばあちゃんの漬物美味しいわ。定番だけど大根ときゅうり、ニンジンね。え、漬物美味しいわよ? ババアくさい? そう言うのが逆にもう古いわよ。若者も漬物食べるわよ。あ、わたしは天使だからそう言うの関係ないんだけどね」


 光の天使なのに庶民的なのが売りで、よく節約術やおばあちゃんの知恵袋的な小話を披露している。

 トークの堂の入りっぷりや、発声の良さ――咳払いを極力控え、あの、あー、えー、等の無意味な前置きを辞めるとぐっプロっぽくなる。これは接客の基本でもあると教わった。

 逆に言えば、あの子とかすげぇ好みのアバターだから最初は見てたけど、魂の人のトーク素人感が滲み出て無理だった。

 せめて咳払い頻発するの抑えられないかな……普通に喉が心配で落ち着かないし。

 これからの成長するを楽しみにさせる狙いがあるのかも知れないが、この界隈の風潮として、好きな物同士が寄り集まっているので、駄目出しをするより気に入らなければ黙って離れる空気が完全に出来上がっている感があり、一回見限った人が戻って来ることも早々無いだろうし、アクターとしての成長や演技力を鍛えられる場では無いのではないような気がするのだが。

 まあこの辺は企業主導ならプロデューサー側の……おっと話が豪快に逸れている。

 概ね職場の先輩からの受け売りでもあるし、戻ろう。


 ―――配信の頻度や、学業の話しは皆無と言っていいくらいなく、3Dモデルの質の高さから、魂の人の実年齢はそこそこ高いのではないか、実は裏で企業の支援を受けているその道のプロなのではないか等々も、裏では噂されている。

 ちなみに設定では外見年齢は女子高生で、実年齢は百歳から先は数えてないとのこと。


(語ってるアニメの話題的に、俺と同年代か年上かな?)


 アイドルアニメ以外にも、古いアニメの話題もよく食いついている。

 そして度を越した弄りや、セクハラ染みたリクエストへの捌き方が上手で――ネット上だと、何故かその手の嫌がらせの敷居が一気に下がる人いる。やはり顔が見えないからかな――捌いた後のフォローは真摯で厚く、明るく敵を作らず、根が善人な上に、とても大人な雰囲気を突然醸し出すこともあり、お姉さん要素、いや素直にバブみです。


 そんなお姉さんに甘えたコメントしたくなる気持ちもわかるし、あの声で叱られたくなる気持ちは正直わかるけど、越えちゃいけない一線は守ろうよと。

 常識的なモラルとして。その手のコメントは露骨に流されてるんだからさ、しつこく繰り返してる人は流石に空気読もうよと。

 いや、もちろんエロスを否定はしないし大好きだが、健全な方向性の所でセクハラコメントするのは違うんじゃないかなって。


 過激な表現を売りにしていたバーチャルアイドルのアカウントが一時停止処分されていたのも記憶に新しい。

 誰とはあからさまに明言はしないが、あんなパンツ履いといて健全とか笑わせんなと言う意見は支持したい。そう言う路線の所ではさもありなんとも思うがな。

 そんな難しい話はともかく、光の天使ルミエールの小話は続いている。


「漬物とお茶だけでご飯いけるわよ、わたし。そうそう、普通の緑茶。茶葉はそこそこのでいいから、水を良い水使うと全然違うの。あ、知ってる? お米炊くのにも最初の磨ぎだけでいいから良い水使うと水分吸って美味しくなるらしいわよ。いつもそうしてるから本当に美味しくなってるのか、違いがわからないけど。ふふっ」


 会話の合間の小さな笑い声。

 良い配信機材を使っているのだろう、出来の良い3Dモデルのアバターはきちんと反応してくれていて、画面のこちらへ可愛らしい微笑を浮かべてくれる。

 どきどきする。尊い。


「そうね、家で漬けてるってお宅も最近はなかなか無いわよね。お店で買うのでも十分よ。ほかほかのご飯に惣菜屋さんの漬物。そうねー、コンビニも駄目じゃないけど、やっぱり一味も二味も違うし、なによりお値段が安いのがいいわね。一度試して見て」


 どうでもいい雑談を楽しそうに広げ、コメントを拾いつつ話はどんどん脱線して行き、予定していた放送時間を越えてしまうこともざらにあり、本当にどうでもいい話なのに可愛い声とその楽しそうな喋り方にどんどん引き込まれてしまい、ガチ恋勢を増やしている今日この頃。

 もちろん俺もそのうちの一人だ。


「ん、見た目に似合ってないって……そうね、じゃっかんそうよね。良く言われるわ。ふふっ」


 光の天使ルミエール自身は絶対に認めないが、少々天然で抜けている所もあり、度々弄られ愛されている。

 自覚がなさそうだが口癖は、よかった、じゃっかん、ありがとう。あと、たまに綺麗な敬語になるのが心底どきりとさせられる。

 困った時に、んぅー、と喉の奥で小動物のような声を漏らす癖も自覚がないらしく「可愛い」「うさぎ鳴いてね?」等のコメントで埋まってから気づき照れている。


 最初期に決めたリスナーの呼び方、光の騎士達はあまり浸透しなかったらしく、今は普通にリスナーの皆で落ち着いている次第。


「でもほら、わたしいつも玄米茶よ? ほらって、上げても見えないし、画面で見てもわかりませんよね、ふふふっ」


 空中のなにかを掴むモーションを取って、光の天使ルミエールは大笑いしている。

 配信のお供は冷めても美味しい玄米茶で、好きな食べ物は色々あるが、どうしても譲れないのはチョコボールのキャラメル味だそうだ。

『キノコタケノコ戦争なんてどうでもいいんですよ、それよりも豆かキャラメルかで白黒つけるべきじゃありません? あ、いちご派には聞いてません。あんなの誰でも好きでしょ。座っててください』の


 熱弁は喋りのキレの良さの所為もあり、一時期よく動画の素材にされていた。

 地上に降りたときは喫茶店巡りを良くしている設定で、動物カフェにも良く通っているらしく、配信中にその話題が良く出るのはいいのだが、店内の様子やその日あった出来事を明け透けに喋っていて、若干身バレの危険がありそうな気がしてハラハラしてしまう。


 最近は猛禽類カフェの話題まで飛び出て来て、猛禽類カフェなんて特定待ったなしなのではと本気で心配になる

 まあ、俺が住んでいる市内にも一軒あるし、それなりな都会なら探せばある所にはあるので、簡単に特定なんて出来ないだろうが。

 今でこそコミュニティーの登録者数増加も落ち着いているが、それでもじわじわと増え続けているので、身バレやスキャンダルでの面倒事なんかは気をつけて欲しいなぁと一人のファンとしては後方腕組みをしながら思っている。


「ふふっ。さて、前々からこれをやろうと思ってたのよね。今更なんだけど、流行が完全に落ち着いたくらいで手を出すのが天使ルミエール流よ。ん、光速じゃないのかって……そうね、わたしびっくりするくらい足遅いの」


 雑談をしながら、配信画面の半分側にスマフォの画面が映し出される。

 少し前に流行った動物を積み上げて行くスマフォアプリのゲームをやるようだ。


「それで……これマッチングするのにパスワード設定が、ああ、合言葉ね……あ」


 と、ゲーム画面が閉じられて、スマフォのホーム画面が映し出された。


「ちょちょちょ、ちょ、っとぉー、セーフ! セーフよね? ん……まあ、まあ、大丈夫よね、スマフォには変な物は入れてないし……なにも見なかった、いいわね?」


 映っているアバターが大きく揺れて奇怪な動きを取る。一瞬だけホーム画面にある色とりどりのアプリアイコンが映り、次の瞬間には消えた。

 コメント欄は遅れて騒然となり、コメントが滝のように流れて行く。

 定番の。


 ――特定しました――スマフォにはってなんだよ――おまえのスマフォ画面バキバキじゃねーか――


 等のじゃれ合いコメントが一気に流れて行く。

 これも良くある放送事故なので、リスナー達も慣れたものだった。

 だが、俺は流れるコメントを見ながら、こんな美味しい場面に居合わせたのに、キーボードを叩けずにいる。


(関西……?)


 片隅にあった地図アプリの色が、関西地方で使われている色だったのを目敏く見つけてしまっていた。


「……」


 あの地図アプリは、関東と関西でアイコンの色が違う仕様となっている。

 俺は転勤経験があるので知っている。

 あまり知られてはいないだろうが、当然知っている人もいるだろう。

 配信画面をそのまま見続ける。


「……」


 一瞬だったので、気づく人はいなかったのか、ここではじめて閲覧者人数を確認する。


(いつも通りだな……)


 中規模コミュニティーの通常生放送に、いつも集まる程度の人数が今日も集まっている。

 この人数の中、 一人も気づかないなんてこと、あるのだろうか?

 怪訝に思うが、そのまま何事もなく放送は進んで行く。


「さて、部屋のパスワードは、そうねー、たくわんで行きましょうか。可愛いわよね、たくわんちゃん。ひらがな四文字でたくあんね」


 マッチング妨害のために、たくあん、たいわん、たららん、等の無意味な誤情報を流して盛り上がるコメント欄。


(ま、大雑把な地方くらいしかわからないしな……)


 身バレの危機を感じたのは杞憂だったか。心臓に悪い。

 そのまま、さっきの放送事故は誰も気にせず、いつものように生放送は進んで行き、ゲーム中に心底心配そうな声で「一番下の子かわいそうですね……」と光の天使ルミエールが漏らし、その可愛らしい発想をコメントで弄られ、弄りへの返しに「当然受け狙いよ? ルミエールちゃんは光の天使ですから」なんて変声を出しつつ、本気で照れているのを茶化していたりと、平和に盛り上がった。


 そんなこんなゲームもひと段落つき、雑談へと戻ってから配信終了のがいつもの流れだ。

 ゲームの感想を話している最中に、光の天使ルミエールは声を上げた。

 画面上のモデルは、滅多に見せない、目に星が浮かぶ最上級の笑顔を浮かべている。


「そうそう、聞いて、おばあちゃん繋がりで思い出したんだけど」


 唐突に思い出して会話をはじめるのも彼女の芸風だ。


「久しぶりの今日の福音コーナよ。今日ね、いつもみたいに地上を巡回してたら、道に迷ってたおばあちゃんを助けてあげてる人がいたのよ!」


 ほう。良い話だ。

 丁度俺も今日変な老婆に絡まれて苦労した所なので共感出来る。

 あの風呂敷、なにが入ってたのか重かったな。


「それでね、それでその人、おばあちゃんの……えーと、たぶん、お孫さん? 見たいな人が来るまで、ずっと道案内してあげてたんです。この寒空の中ですよ。大きな風呂敷も持ってあげていました。ほんとうに、そんなことあるんですね。まだまだこの国、捨てたもんじゃありません。光の天使ルミエールはいつだって貴方の善行を見守っていますよ! 幸あれ!」


 幸あれー。とコメント欄でも復唱されている中、しれっと辛あれが混ざっているのはいいとして。


「え?」


 え。

 思わずパソコンの前で声が漏れた。

 光の天使ルミエールは一生懸命に、嬉しそうに語っている。

 それって……え?


「――それじゃあ、そろそろ時間……って、もう過ぎてるじゃない! ごめんなさい、今日はこの辺でお開きね!」


 コメント欄は、いつものように時間をオーバーへのからかいと、時間延長を願うコメントが溢れている。 俺もいつもなら引き止めるコメントを打つのだが。


「それじゃあ、皆さんの明日が輝かしい一日になりますように。おつはれーしょん! ばいばーい!」


 おつしょんー。と、いつもの挨拶も打ち込めず、愕然としたまま笑顔で手を振っている光の天使ルミエールを凝視する。

 そして、そのまま配信停止の画面に切り替わっても、俺はブラウザを眺め続けることしか出来なかった。




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