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8話

データが飛びました。嘘だと言ってよバーニィ


日が昇る前に目は自然と覚めた。昨晩は疲れですぐに寝入ってしまったが、どうやら知らず知らずのうちに僕は神経を高ぶらせていたようだ。


夜の間警備に当たらせた三匹は僕が身を起こす気配に気づいたようで、こちらを窺うようなそぶりを見せた。


僕が寝ている間に体の上に落ちてきたらしい葉を振り払い、立ち上がって伸びをした。固い地面の上で寝ていたせいか随分と背中が痛い。体の状態を確かめるようにゆっくりと関節を動かし、全体をほぐす。十全に動けるようにしておかなければならない。


深呼吸をした後、手近な大葉に近寄り表面についた露で喉を潤す。昨日の残りの木の実を腹に押し込んだ。


食事が終わると手持ち無沙汰になってしまった。夜明けまでまだ多少の時間はある。アイツらが戻ってくるまでに他にやることはあるだろうか。不明瞭な焦燥感がじわじわと襲ってくる。落ち着け、と心中で呟いてとりあえずは作戦をもう一度なぞろうとするがやめてしまう。


そもそも作戦と言えるほどのものでもない。巣の奥まで侵入して、女王アリを支配する。そうすればあの群れ全体を間接的に操ることができるはずだ。それが目論見だった。


たとえ魔物であろうが、アイツらはでかいアリだ。アイツらが僕の知っているアリと同じなら群の生みの親である女王がいるはずだ。少なくとも集団で行動していることから群の頂点たる存在がいる可能性は高い。


聞いてみたところでアイツらに女王という概念はなかった。母親という認識も。だからそれがいるなんて断言できない。ただの賭けだった。


巣の内部の状況をアリたちに説明させるなんて芸当は不可能だったし、中で何が起こるかなんて今はわからない。女王アリがいたところでソイツが同じように僕の能力が通じるかもわからない。他にも不安要素はいくつも挙げられた。こんな状態で数千、数万の化け物がひしめく巣窟に飛び込むなんて正気じゃない。自殺行為だ。


だが、なぜだか確信があった。うまくいくという確信が。


今僕が持っているのは正体もわからない能力とわずか三十の兵。情報が足りない以上、これらを駆使してその場その場で臨機応変に立ち回るしかない。


やってみせるさ。ここからがスタートだ。


僕は覚悟決めるように拳を固めた。





ガサゴソと生い茂る草をかき分けて三十匹のアリが僕の前に集った。いよいよ行動開始だ。





1日ぶりに戻ってきたアリ塚は初めて見たときと同じように禍々しくそびえ立ち僕らを迎えた。とはいっても僕のお供にとっては馴染み深い家なのだが。目を凝らすと巣の周りには哨戒や巣の整備なんかをする数十匹のアリたちがわらわらと巣にたかっていた。


目を閉じて深く息を吐く。大丈夫だ。きっとなんとかなる。心を落ち着け、目を見開いた。そして手近にいた三匹に命じる。


「僕の周りを固めて巣の奥まで案内しろ。出発の合図を出すまでは待機」


続けざまに指示を飛ばす。


「そこの五匹は僕らが入る穴から他のアリたちを遠ざけろ。それから僕が戻ってくるまでその穴を守って退路を確保しろ」


「残りは中に入って先行して進路を確保しろ。巣のアリたちは別の道に誘導するか反対方向の出口に向かわせろ」


順々に命令を受けたアリたちが触覚を震わせる。そして三匹を残して速やかに行動に移った。


アイツらはフェロモンのようなものでお互いに意思の疎通をしているらしい。集合フェロモンや道しるべフェロモンに導かれたアリたちは、徐々に僕らのいる面とは反対方向へ、巣の向こう側へと向かっていく。きっと内部でも同じことが起こっているのだろう。焦るな。十分に時間を取らないと誘導が終わらない。自分に言い聞かせる。


そろそろいいだろう。僕は三匹のアリたちに紛れるようにして、守る者がいなくなり無防備にもぽっかりと口を開ける穴の中へと飛び込んだ。



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