5話
ひとまず僕は自分に突如目覚めたこの能力を実験して確かめてみることにした。
傍らに控える巨大アリを一瞥し、
「もう一匹仲間を連れてここに戻ってこい」
と命じた。
アリが去っていくのを見届けると、突然自分が空腹であることに気づいた。次は食料調達でも命じるかななどと考えながら、もはや自分に死ぬ気がないこと、生きる目標を見つけたことに戸惑いながらも前向きに受け入れていた。
やはり僕の変化は手術によるものなのだろうか。アリが戻って来るまでの間の時間つぶしに僕はそのことについて頭を働かせることにした。
そもそもこの世界にはマナという物質がいたるところに存在している。それこそ大気中や土壌中、海中どこでもだ。マナは高エネルギー結合部を持ち、全ての生物はこれを利用することで生きている。
一方で適正値を超えたマナ濃度は生物の形質因子に変異を起こし有害でもある。これによる突然変異で高濃度マナに適応し、膨大なマナ代謝能力を持つのが魔物である。
僕の病気は先天的にマナからエネルギーを生み出す能力が低く、これまでは人の数倍のマナを吸収することで生き延びて来た。そして半年前に行われた手術は体内にマナエネルギー変換炉を埋め込むものだった。その結果、僕のマナ代謝機能は常人並、いやそれ以上にまで上がった。だから、ここの空気はもはや僕にとって毒も同じなのだが、もはや慣れっこになってしまっていた。
変換炉があったからといってこれまでに変化は感じなかった。そのために施設に半年間も拘束されたのだ。結局わからないということで思考は行き詰まってしまった。変化があったのは確かに手術後のはずだが、関連があるとはとても思えない。
研究施設に報告すれば検査してくれるかもしれないが、その気にはならなかった。研究対象として一生モルモットにされるのがオチだ。そうならなくても、危険人物として拘束される可能性は十分にある。
そういえば、同じ手術を受けたアイツらはどうなのだろうか。ふと施設での六か月を思い返した。同じ年頃の同じ病気の十人の子供たち。みんな同じような人生を歩んでいた。多分僕らは初めて自分の同族に会った。短い間だったし、わけのわからない検査やテストばかりでそんなに話せたわけではない。それでもこれまでで一番楽しかった。初めての友達だった。対等の関係だった。共感し合える仲間だった。
アイツらも同じ能力を持っているとしたら……。
アリが戻ってきたのはその時だった。連れてこられた方のアリはアゴをカチカチと鳴らし僕を威嚇していた。今にも飛びかかりそうなその様子に、内心焦りながら
「僕に従え」
短く命じた。その瞬間、二匹は頭を下げて動きを止めた。
どうやら二匹同時に命令することも可能らしい。
他にも色々と確かめたいことはあるが、とりあえず飯の調達だ。