2話
たどり着くまでには予想より時間がかかった。霧のもやと森の影で距離感が曖昧になっていたのか、そんな風に考えていたが、多分違う。小山の大きさを勘違いしていたのだ。
それは小山というより城塞だった。これまでの道のりをひたすら阻んで来た鬱陶しい植物がここにはほとんどない。まるで植物の方が避けたかのように円形に開けており、その中心には赤黒い土が塗り固められた城塞がそびえていた。
久しぶりに見る空には降るような星空が広がり、少年はもう夜になっていることを知った。
ここで夜を明かそう。森のじんわりとした湿気と辺りをうろつく蟲にはいい加減うんざりだった。そう決めて再び目の前の小山を見つめた。
遠目には気づかなかったがこの土山には無数の穴があいており、中へ続いているようだった。穴の奥には暗闇が広がり見通すことはできない。
もしかしたら何かの巣だったりするんだろうか。この構造は自然にできたとは考えにくい。
少年は少しためらったが、結局一番近い穴の中へと入っていった。
一体何が出てくるものかと身構えながら恐る恐る進んでいったが、何の気配も感じないまま横穴は行き止まりになってしまった。
少年は安堵のため息をつき、壁へともたれかかった。土の冷たさが火照った体に心地よかった。今日は随分歩いた。もうこのまま眠ってしまいたい。その欲求に素直に従って彼は瞼を閉じた。
ー先天性マナ代謝機能不全ですね
白い服を着た若い男がそう言った。
ー何ですかそれは
不安そうに尋ねる声。慣れ親しんだ声だった。
ーご存知の通り、我々はマナなしには生きられません。しかし、この子は生まれつきマナからエネルギーを取り出す機能が普通の人よりずっと低いのです。この疾患は極めて珍しく、未だに治療法は確立されていません。この子は決して長くは生きられないでしょう
死刑宣告を下すかのような冷徹な響き。
ーそんな……
母さんは言葉が継げないようだった。僕は会話の意味は理解できないものの、その様子からよくないことを告げられたことを感じ取っていた。
ーマナ濃度の高い場所ならば、多少寿命を延ばせるかもしれません
重い空気に耐えかねて、医者は言った。
ー本当ですか⁉︎
藁にもすがるような思いといった体だった。
ーしかし奥さん、高すぎるマナは体に毒です。形質因子に変異を起こすという研究結果もある。その子と一緒に暮らすというなら、あなたが寿命を縮めることになる
ーいいんです。私にはこの子しかいないんですから
母が僕の目を覗き込む。その目は慈愛に溢れていた。