1話
初投稿です。
霧深い森の中を一人、行くあてもなく歩いていた
この森を形成する巨大樹の幹や根についた発行性のコケが辺りをボンヤリと照らしている。頭上を覆い尽くすシダの葉。自分と同じくらいの大きさのキノコやゼンマイ。それらの影がまるで怪物のように視界に現れる。
どこか上の方から絶えず不気味な鳥のしわがれ声が聞こえ、足元からは小型(といってもウサギほどの大きさがある)蟲が時折草むらをガサゴソと揺らす。
人間の生存に適したマナ濃度を超えた魔の領域、通称蟲の森。ここは何もかもが巨大で奇妙だった。
毎度のことながらこの森は外界の人間を拒絶する形容しがたい圧迫感がある。
とはいえあの村よりはマシだ、少年はそう思いながら足を進めた。
自分を見る目。すれ違いざまの嫌悪感。あからさまに聞こえる陰口。
母さんだけが救いだった。親子二人の小屋のあの暖かい家があれば日頃のどんな苦痛も忘れられた。
だから、母さんが死んだ時にはもうあの村に居続ける理由は無くなった。
せっかく忘れていたのに、あんな村思い出すべきじゃなかった。母の面影が脳裏に浮かび堪えていた感情が胸の底からあふれそうになる。
思い直すようにかぶりを振り、歩みを止めて辺りを見渡す。こんなに深いところまで来たのは初めてだ。もう無事に戻れるかもわからないが、そんなことは構わなかった。
何か違和感を覚えて前方に目を凝らす。それまで辺りに繁茂していた植物が薄くなっていき、小山のようなものが見えた。
とりあえずあそこへ向かおう、少年はそう決めて再び進み始めた。