14話
雲の上に巨大な影が落ちる。影の主人はまるで闇が具現化したかのように全身を漆黒で染め上げたオオガラスだった。片翼十数メートルを超える長大な二つの翼を荒々しく操りながら空を駆け、どこかへと向かうその鳥は当然だが普通の存在ではなかった。
魔物のオオガラス、彼女はこのカラスをレーヴェという名前をつけていた。少女はレーヴェの背から身を乗り出し眼下に広がる森を見下ろした。一面に森の緑が広がる中、あちらこちらに赤黒い土でできた小山が見えた。それを一つ一つ見つめながら独白する。
「ジーくん、元気にしてるかなぁ。最後に会ってから半年とちょっとしか経ってないしボクのこと忘れてないといいんだけど」
突如体が持ち上がるような感覚とともに視界が白く染まり、短めの金髪が風に煽られて乱れた。思わず、きゃあっと悲鳴をあげる。レーヴェが雲の中へ潜ったのだ。主人に忠誠を誓いながらも時々こうしていたずらを仕掛けるこのオオガラスを、少女はこらあっと叱りつけ拳を落とした。そうして気が済んだのか、雲を抜け次第にもやが晴れる中を目を凝らす。一際大きな小山に視線を向けた瞬間、胸が疼いた。知らず笑みを浮かべる。
「あそこだ。レーヴェ、頼むよ」
優しく言い聞かせたその言葉にオオガラスは応えるようにしてそこへと進路をとった。
「ーー僕にひれ伏せ」
その瞬間全てのアリたちが動きを止めた。暫時の静寂を破り最初に動いたのは女王アリだった。
女王がゆっくりと巨体を動かしその頭を地につけた途端、止まっていた時が動き出した。その場にいた全てのアリたちは女王の後に続くように次々と頭を下ろし、とうとう立っているのは僕だけになった。
ーーやった。
そう悟るのにどれだけの時間がかかっただろうか。自分が起こした状況にもかかわらず僕はしばらく呆然としていた。それから勝利の喜びはじわじわとこみあげてきた。
その時急にまるで僕の気持ちに呼応したかのように胸の奥が焼けるように熱くなった。
なんだ?思わず胸を押さえる。だが痛みはすぐに消え去り、かわりに形容しがたい力が湧いてきた。
なんの根拠もなしに得心する。そうか、これは進化だ。僕の能力が一段と増したのだ。
直後急激な眠気に襲われて、意識を失うようにして僕は倒れた。
やっぱりこういうのって女の子が出てこないといかんよね





