12話
横穴の先には数匹のアリが行き交っていたが、僕らの異常な様相に戸惑い、ついですぐ足下から響いてきた咆哮に我先にと逃げ出した。
僕はその様子を見向きもせず転がり落ちるようにアリの背から降り、すぐさま方向を転換した。
「全員、ギ酸の用意!合図とともに放て!」
アイツほどの量、飛距離は期待できないが、コイツらもギ酸を撃てることは昨日のうちに確認済みだ。だが、その前に確かめたいことがある。これに失敗すれば今度こそこの巣から退却するはめになるだろう。
土壁を砕きながら縦穴を登り、怒りに目を染めた近衛アリは待ち構える僕らを見て牙をガチガチと鳴らした。
ヤツが横穴に入ろうともがく間に、僕は再び能力を発動させる。
「静まれ!僕の命令を聞け!」
変化は劇的だった。それまでケダモノのように暴れていた近衛アリは一瞬にして動かなくなり、他のアリがそうしたのと同じように地面に頭をつけた。
はっ…はっ…はっ…
静まりかえった洞窟の中で僕の吐く息がこだまする。良かった。これで作戦はまだ立て直せる。九死に一生を得たどころではない。まだ勝利の可能性が残っていることがわかったのだ。命を張って立ち向かった甲斐があった。
恐らく女王の広間で三匹の近衛アリに能力が効かなかったのは、能力のキャパシティを超えてしまったからだ。三十のアリが操れるといってもそれは外をうろついていた兵隊アリの場合だ。魔物の強さによってその数が変化するなら、さっきのことも説明がつく。
実際、僕の能力を発動して全くの無反応だったわけではない。あの時僕には兵隊アリ五匹分のキャパシティが空いていたが、それは近衛アリ三匹同時に支配するほど十分ではなかったということだ。
これを確かめなければ計画は破綻していた。コイツにも効いたということは空きキャパシティ次第で女王アリも支配できるはずだ。もし僕の最大キャパを超えてしまっていたらどうすることもできないが、それを確かめずに引くことは選択肢になかった。
問題は今の残りのキャパシティがどれだけあるかわからないことだった。少なくとも近衛アリは兵隊アリの三分の五以上キャパを食うと考えて良いのだろうか。いや、そんな単純な計算で結論づけられるのか?もしかしたら数を増やした分、指数関数的にキャパ消費が起きるかもしれないし、逆に増やすほどに一匹あたりのキャパ消費は減少するのかもしれない。
いや、と頭を振って考えを止める。考えても仕方のないことだ。それにどちらにせよやることは変わらない。
五匹の兵隊アリを解放し、近衛アリに飛び乗る。
「来た道を引き返せ」
今度こそ女王を手に入れる。
閲覧数って確認できるんすね
予想より多くの読者様がいてisamu感激