10話 女王
巣の最奥部までたどり着いたのは例の部屋を出てから一時間も後のことだった。
奥に近づくたびにアリとの遭遇は増えていった。もはや何匹とすれ違ったのか数えるのもやめてしまった。
出来るだけ避けたかったが仕方がない。出入り口は無数にあり、内部も何本もの枝分かれをして無限に広がっているようだが、結局は根元の女王の部屋に収束していく。出来るだけ小さい道を選んできたが、ここまでくれば行き来するアリが多いことはわかっていたことだった。
だがどのアリも僕に不信感を持つことはなかったし、ついでに途中で先行したアリたちとも合流することができた。
一部を残して、他のアリたちは解放した。そして合わせて十匹のアリを従えた僕の前にとうとう縦穴の底がやってきた。そこからほぼ直角に伸びた横穴の先にはぼんやりとした光が漏れていた。アレだ、直感が僕にそう告げた。
僕らは堂々とその中へと入った。もうここまできたら女王に会うだけだ。横穴を抜けるとそこには広間があった。いや巨大な地下空洞と言うべきだろうか。
発行性のコケが集められたのだろうか、ここには光が満ちて広間全体を明るく照らしていた。先ほど見えた光の正体はこれだったのだろう。それは眩しいというほどでもなかったが、長い間暗闇の中を行軍してきた僕は思わず目を細めた。
女王はどこにいる?あたりを見回そうとしたが、そうするまでもなかった。地下空洞の中央にソレはいた。
絶句した。途中で会ったアイツなんぞ比較にもならない。デカすぎる。そこには僕が従えるアリたちの数十倍はある巨体が横たわっていた。周りには数十匹のアリが控え、その中には途中で出会ったアイツの姿もあった。
腹部を大きく上下させていたソイツは突然小刻みに震え始め、やがて一段大きな蠕動とともに湿った球体を吐き出した。それを近くに控えていたアリがすぐさま運んでいく。きっと卵だろう。ということは間違いない。アイツだ。アイツが女王だ。僕は賭けに勝った。思わず拳を握った。
よし、そうと分かれば最終段階だ。ここは能力の有効範囲にはちょっと遠い。見通しの悪い森の中では僕の能力の有効距離は確かめられなかったから、もしかしたら間に合うのかもしれないがこの際万全を期しておきたかった。
そう思って女王へと近づく僕に立ちはだかる影がいた。ヤツだ。
チッ、思わず舌打ちをする。
なるほど、コイツは女王を守る近衛ってわけだ。そういう役割のための巨体ってわけだ。仲間と言えども女王に近づけるアリは限られているのだろう。
こちらの様子に気づいてか、奥からさらに二匹の近衛アリが出てきて僕と女王アリの間を塞いだ。
「僕に従え」
焦ることはない。結局合流できなかったアリたちは開放できなかったが、命令できる空きはあと五匹分。女王を含めても十分だ。
ところが三匹は一瞬体を大きく震わせたものの、すぐに体勢を立て直しこちらを見据えた。敵愾心に染まった六つの目が射抜くようにこちらに向けられる。いや、複眼だから六つではないかもしれないが。
バカな。まさかコイツらには効かないのか。焦った僕は思考停止しかけるが、猛然と迫ってくるアリたちに正気を取り戻す。
「くそっ、ここまできといて退がるなんて!」
思わず吐き捨てながら横穴へと駆ける。最悪だ。
ふええ、各話のタイトルが決まらないよぉ