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小さな庭の住人たち  作者: 白峰きわ子
1/2

秋の夕日を如何に見る

 

 昨日から続いた雨は昼過ぎには晴れて、

 シロツメクサの上に水滴の玉を忘れていったのか。

   置き去りにされた小さな露玉は、

    柔らかく差し込んだ午後の光を受けて、

      可愛らしく、ころころと葉先の方へ転がっていく。


 あいこは思った。

 アタシだってあんな純粋な時代があったのよ。

 瑞々しくて輝いて妖精みたいに


 けれども、どうしたことだろう。

 今のアタシ。こんな不自由な体で、なにもかも、


 あいこの眼にはこの神聖に浄化された昼下がりの大気さえ、

 息苦しくてたまらないのだ。


 公園の木々には虫達の声が戻って来た。

 静かな雨上がりは、こうして活気を取り戻しつつある。

 けれども誰の目にも明らかなように、

 あいこはあいつらとはまるで違うのだ。

 その証拠に、アブラゼミもツクツクボウシもミンミンゼミも、

 こうして相変わらず自分勝手に自分の主張しているだけなのだから。

 彼らの目的など、たかが知れた話ではないか。


 腹立たしく空を睨む。

 宙ぶらりんのこころは真綿で締め付けられるよう


 ジョロウは相変わらず手首にくるくると絹糸を巻き付けたり離したり

 手持ち無沙汰に遊んでいる。

 じりじりと暑い日照りに、

 ジョロウの来ている艶やかな着物の柄が映え

 なんともどぎつい。


 けれどもジョロウはここいらでは一番美しく立派なので、

 その衣装がよく似合って見えた。


 相変わらずべっぴんだね。 

 と、あいこはぼんやりとジョロウを見つめて言った。




 どれくらい時間が経っただろう。

 あいかわらずあいこは身じろぎ一つできなくて

 ジョロウはというとせわしなく両手を動かして仕事に取りかかる

 木の上の住人はあれからずっと騒げや歌えの大騒動だ。


 日は、西の森へ 

 傾いて真っ白な光をに燃えるような赤に変えた。

 沈み行く太陽の火を背中に灯されて赤とんぼが飛んでいく。

水たまりの上をぐるりと旋回したかと思えば、空高く舞い上がり

 あいこには最早戻らない自由を謳歌するトンボの

 瞳があいこを捕えた。


 一瞬の、想いが交錯するかに見えた けれど

 再び視線が重なる事は無かったのである。


 いよいよ、とあいこは覚悟を決めたように固く目を閉じた。

 体は糸でぐるぐる巻きなので身動きも出来ないのだが、

 ジョロウの気配が近づいてくると

 無意識に首は窄まり背中には冷や汗が伝う


 いのちの時間だ。言うなれば、まさに。

 一日が終わる。その瞬間に、わたしは....




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