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悠久の魔法使い  作者: 冬樹 青海
2章 ギルド
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1節 プロローグ

ギルドと呼ばれる組織が深く関わってくる話です

なお、1章に比べて話が長いです。最後まで読んでいただければありがたいです!

 「君は、なぜ“ギルド”に入団したいと思った?」


 目の前の少女に問う。少女はグロリア学園…あの賞金首がいる学校の制服を着ている。


 「…ある人物を、討ち滅ぼしたいからです」


 ある人物。アイラ・グロリア・エンディミオンか?


 「その者の名は」

 「…天宮、海斗。先輩と仲良くて…羨ましい。妬ましい。先輩は、私の…先輩に近寄って良いのは…私だけ」


 先輩とは誰だか解らないが些か狂気じみていると感じられる。

おもしろい。そのような人間の方が【選定の御石】に選ばれやすい。


 「良いだろう。君の入団を許可しよう。今から選定を行う。選ばれたら、その力をどう扱うかは君次第だ。神代 美沙くん。歓迎するよ」



 * * *

 

 アイラが家に住み始めてはや2ヶ月。

今は普通の学校で言う夏休みの期間。にも関わらず俺らの学園は通学しなければいけない。


 「アイラ・グロリア・エンディミオン校長。いえ、様。」

 「ぅえ…何よいきなりフルネームで呼ぶなんて…なんか、気持ち悪い。」


 アイラは警戒したかのように少し俺から遠ざかる。


 「夏休みを下さいませ…」

 「不許可よ」


 即答だった。それは、俺が言い切るよりも先に流れるようにスラッと放たれた残酷な言葉。


 「えー…。もう少し考えてくれても…」

 「だって、時間とると勿体無いじゃない?そーれーよーり!早く!朝御飯はまだ!?」


 アイラはクッションを抱き抱えつつテレビを見ながらこちらをチラリとも見ずに言う。

お姉さんに任せなさいとか言っていたくせに、料理は俺がしている。というか、家に来てからテレビ見たりゲームしたりで全然働いてくれない。


 「アイラ?少しくらいは外に出て、買い出し行ったり、運動したりしたら?」

 「貴方…本気で言ってるの?」


 何やら侮蔑されたような冷ややかな目で睨まれる


 「私、賞金首よ?」


 そう言えばそうだった。だから一歩も家から出ないのか。

変に見つかって戦いが起こってしまえば周りに迷惑がかかりかねないから。

 賞金首のくせに悪人じゃ無いのか。いや、賞金首=悪人の考えが間違っているかもしれない。

“死ねない”という理由で化物扱いされて世界に、というか、この国から狙われているだけだから…確かに悪人とは限らない。


 「それより、貴方もニュースとか見た方が良いわよ?」


 アイラが見ているテレビのチャンネルは4割くらいニュース、5割くらいがバラエティ、残りの1割は恋愛モノ。

どうやら、賞金首という事で中々、表の世界…外に出ることが危ないのでテレビやゲームなんて触ったこと無いそうでドはまりしている。


 「ほら、これ。見てみなさい」


 いつになく真剣な顔で画面を見つめている。

単純に番組に見入っている訳では無く、真面目な顔だ。言われた通り、出来た朝食を机に置いて覗き込んでみる。


 「ほら。朝御飯。で?何?」

 「見て解らないかしら?何件もの強盗、殺人、強姦、様々な罪を重ねている大罪人、チャールズ・ブラットリーが昨晩から行方不明なのよ。」


 テレビに写っていた写真の人物はくすんだ朱色の瞳で頬に大きな傷が3本、長く伸びた黒髪を後ろで束ねているのが特徴的だった。待て、それってまさか


 「脱獄?」

 「えぇ。その可能性がとても高いそうよ。監守が牢屋を見たときには何故か扉が開いていたそうだし。」


 つまりは内通者がいた可能性が高いということか。


 「…私の予想では、ギルドの長。サイファーが内通したと考えているわ。」

 「なぜだ?」


 理由を訊ねてみる。確かに奴は怪しい噂も多いが…


 「昨晩、監獄に訪れたそうよ。まあ、それだけで判断材料にはなるけど、もっと確信を持てる情報があるの。彼は今、様々な人間をスカウトし出したそうなの。特に、強い力や強い信念を持った人間を。ギルドの人間として。ねぇ、犯罪者、それも指名手配にすらなった極悪人なんて…弱いと思う?」


 確かに様々な罪を平気で犯した人間だ、弱くはないだろう。

いやむしろ、平気で犯罪を犯す辺り、強いのかもしれない。だが、それでも、悪人をスカウトするか?

…いや、するかもしれない。奴は黒い噂が絶えないから、それが真実ならば…可能性は拭いきれない。


 「貴方。一応気を付けなさいよ?もしも、普通に脱獄したとすれば彷徨(うろつ)いているかもしれないし」


 アイラは少し不安そうな、心配したような顔で話しかける。


 「心配してくれているのか?まあ、気を付けるよ」


 するとアイラはクッションを抱き抱えたまま溜め息をつく


 「ええ、心配よ。貴方が死んだら私、どうしたら良いのよ。一応言っとくけど、私は貴方に好意を持ってはいないわよ?」


 いわゆるツンデレ…とは違う気がする。

自然な流れで、少しも恥じらいも何も無く、いつもの普通のトーンで言われているから、本意なんだろう。


 「はいはい。行ってきます」

 「あ、帰りで良いからプリン買ってきてね。あの店の」


 アイラと暮らして解ったこと。アイラは甘党。

よくよくお菓子を注文する。

 あの店、というのは学園前に置かれている有名な菓子屋。セリエという女性が運営している。一応学園生は顔馴染みだが、値段をまけてはくれない。

だからプリン一つでも味相応なのだが、普通に高い


 「…わかった」

 「よろしくね」


 アイラは朝食を頬張りながら涼しい顔でサラッと言う。あぁ。また財布が悲鳴をあげるな…

 

 * * *

 


 「なあ柊。あいつ、お前の家に居候させてくれない?」


 いつも通り共に通学している柊に頼んでみる


 「え?やだよ?なに言ってるの?馬鹿なの?」


 まあ、当然ですよね。

賞金首だし、柊の家は両親共に暮らしてるし、両親に誤解されたくないし、迷惑もかけれないもんな


 「なぁ、僕ちゃん達ィ」


 後ろから酔っ払った男性に声をかけられる。

特徴は…朱色の瞳で頬に大きな傷が3本、長く伸びた黒髪を後ろで束ねているところ。あれ?どっかで見たような…


 「はい?…っ!?逃げるよ。海斗!」


 言っている意味が解らなかった。只の酔っ払ったおっさんじゃねぇか


 「馬鹿!そいつ、チャールズ・ブラットリーだよ!」

 「そうそう、ごめいとーう」


 男は笑顔でパチパチと拍手をしている。…あれ?ヤバくね?


 「早く!」

 「おっとぉ?逃がしませんぜぇ?」


 男は素早く走り、柊の前…逃げ道に立ちふさがる。


 「code:L13!」


 2ヶ月の間に少しだけ強くなった魔法を使う。L、光を扱ったのは目眩(めくら)ましも兼ねてだ。


 「うぉ!?まぶし!」

 「今だ、いくぞ柊」


 逃げるべく後ろに振り向いた瞬間先程使った魔法と同じモノが目の前を通過する。


 「なっ…!?」


 俺は心底驚いている。codeを俺以外にも扱える人間がいたことに。不運にも、それが大罪人が使ったことに。


 「考えは良かったが…残念だったなぁ?」


 男はハッハッハと大声で笑う。


 「形状は剣、素には鉄を…精製クラフト!」

 「おおっ!?」


 男は楽しそうにそれを見る。柊が詠唱し、素早く西洋刀を右手に握る。そして


 「炎属性付与(ブレイズエンチャント)!」


 続けて詠唱されたモノにより、剣に炎が纏われる。

いつの間にこんなこと覚えたんだ…すげぇな!


 「面白いもん使うなお前ら」

 「はぁっ!」


 柊が斬りかかる。が、弾かれる。男の右手に握られた“柊と全く同じ剣”で。


 「な、んで…」


 柊はショックを受けたのか少しだけ硬直する。ダメだ!


 「お?もう終いかぁ?」


 俺は剣を弾かれて無防備な状態の柊の元へと走る。


 「code:N1…ぐあっ!」


 codeを唱えるが、“さっきと全く同じ光の攻撃”を柊と受けて飛ばされる。

それは俺が使ったもの、俺が逃げるときに使われたものと同じだった。


 「おい!いたぞ!奴だ!」


 武装した警察が駆けつける。


 「おっと、折角出れたのにまた捕まるわけにゃ、いかねぇのよな」

 「気を付けろ!奴は武器を所持しているぞ…あれは、魔法か!?なぜ奴が…」


 警察達は動揺している。察するに、魔法を使えない犯罪者だったのだろう。


 「ん?俺に“魔法は”使えないんだけどなぁ…まあいい。ガキ共安心しなぁ?今はまだ殺さねぇからよ」


 男はそう言い残し逃げる。またあの光を地面に向かって放って目眩ましをしてから


 「チィッ!逃がしたか…。君たち、無事か!?」


 警察は追おうとせずにこちらのことを気にかけてくれる。

いや、あの男が魔法を扱って無ければ追っていただろう。だから賢明な判断と言える。

 近くにいた警官は誰かと通話している。恐らく、あの男の報告だろう


 「あ、俺は大丈夫です」

 「僕もです。ありがとうございます」

 「なら良かった。気を付けろよ」



 * * *

 


 「貴方達…怪我してるじゃない!どうしたの?」


 お菓子屋の店長…セリエさんが気にかけてくれる。


 「い、いえ…その……柊!パス!」


 俺はどう言っていいのか解らず柊に丸投げしてしまう。

チャールズ・ブラッドリーに襲われましたなんて言って良いのだろうか…


 「あのチャールズ・ブラッドリーに襲われました」


 言ったぁー!こいつ、言いやがった…信じて貰えるわけ…


 「何ですって!?大丈夫!?…あの男…なんてことを…!」


 アッサリと信じてくれた。あー、あれか。ニュース見てる人からすると奴がどこにいてもおかしくないと思ってるのかな?

にしても、怒ってくれてるのは嬉しいけど…あの男?


 「知り合いですか?」


 俺はついきいてしまった。

セリエさんはとても驚いた顔をしてから少し顔に影を落としてうっすらと笑う


 「少し…ね」


過去に何かあったのか。


 「まあ、保健委員に治癒魔法かけてもらうので…あ、いつものプリン、1セット予約しておいて良いですか?」


 ついでに予約を入れておこうと思う。人気があるので、無くなる可能性もあるからだ。

もし、買ってこれなかった場合はどうなるか解らないから保険はかけておかないと


 「あら?また彼女さんかしら?良いわよ?4個入りの1セットは税込み1080円よ」


 ニッコリと曇りの無き純粋な笑顔で宣告される。

もう少しだけ…いや、もう少しというか、安くしてくださいませんか。そして奴は彼女じゃない。


 「いや、彼女じゃなくてただの連れです。はい、1100円」

 「20円のお釣りでございます。いつ頃お取りになられますか?」


帰る時間…解らね


 「柊、何時ぐらいかな。帰るのって」

 「海斗は部活無所属だから多分16:30だと思うよ」

 「ってことで」

 「はいな。ありがとう御座いました~、道中お気をつけて」



 * * *

 

 相も変わらず一人での帰路。今チャールズに襲われたら詰む気しかしない。奴もcodeを扱えるのだから


 「おーおー。みぃーっけ」

 「………ッ」


 俺はその声が聴こえた瞬間には走っていた。が、追い付かれる


 「だぁー!殺しはしねぇって。ボスに怒られちまったからよォ」


 ボスに怒られたということは上に誰かいるということか。これは…アイラの読みが当たっている可能性があるな


 「お前、家で不老不死の大金賞金首飼ってるだろ」

 「なっ!?」


 こいつ……


 「飼ってるなんてやめろ!?聞かれて誤解されてアレに細切れにされたらどうする!」

 「そこかよ」


 まあ、冗談はさておき、なんでこいつ知ってるんだ!?


 「まあ良い。飼ってんだな?よし、あばよ!」

 「うぐっ…!」


 膝蹴りを一発くらう。咄嗟に両手でガードしたからダメージは少なかったものの、なんて威力だ…!

チャールズは既に姿を消していた。

成る程、敵にバレたと。うん。それよりも…


 「プリンが…プリンが…1080円がぁ…」


 先程の蹴りでグチャっと潰れてしまった。はぁ…もういいや。

 

 * * *

 


 「…ただいま」

 「おかえりなさい。遅かったわね…何かあったのかしら?」


 アイラはすぐに真面目な顔でこちらを見る。


 「成る程ね。貴方の腹部から痛みが見えるわ。治してあげようか?」

 「いや、大丈夫…」


 心配もしていなそうな顔で言われてもあんまり嬉しくない。


 「で、非常に言いづらいことに…バレちゃいまして。はい。貴女の存在が」


 俺は正座しながら静かに言う。アイラの顔を見ることが出来ない。

何か、何か圧力を感じる。とてつもなく重い圧を。怒ってるなコレ。


 「はぁ…仕方無いわ。許したげる。どうせいつかはバレるんだし、苦労が掛かるのは貴方なんだから」


 アイラは俺が思っているほど短気では無いようだ。


 「で、相手は誰?」


 俺が今日あった人物の中で怪しさどころか黒幕そのものである奴しかいない。


 「チャールズ…」

 「…やっぱり彷徨(うろつ)いてたのね。というか貴方、よく無事だったわね」


 確かに奴の蹴りは尋常じゃなく強かった。あの蹴りは恐らく全力では無かっただろう。

だが、俺を殺せないという条件がある限り、命の補償は…


 「次は本気で気を付けなさい。多分だけど、本気で命狙われかねないわ。チャールズが私のことを嗅ぎ付けたのであれば、あちらにとって、関係者である貴方を生かすか殺すか。どちらが得だと思う?」


 …確かにその通りだ。

必要最低限の情報を得れれば少なからず動ける。そして関係者である俺を生かすか殺すかだが、恐らく殺すだろう。

 チャールズの言った言葉から考えるに、俺の家のことはバレている。なら、場所は解っている筈だ。

即ち、生かしておいて下手に動かれるよりかは殺してしまう方が計画は成功に近付くだろう。


 「あ、夕食は簡単だけど、カレー作っておいたわ。」

 「あ、ありがとう」

 「食べたらすぐに支度しなさい。家の場所、バレたんでしょ?だったら、いるだけ危険よ?」


 それもそうだ。だが、どこに行くというのだ。


 「どこに行く気だ?」

 「…学校か生徒会長くんの家、放浪、どれが良いかしら」


 無論学校だな。

柊にこれ以上迷惑かけるのは失礼だと思う。親しき仲にも礼儀ありってこう言う時にこそ使える言葉だな。

 次、放浪。これは純粋に嫌だ。したがって…


 「でも、学校って言ってもどこに」

 「私の部屋よ」


 それは2ヶ月前、闘った最上階の殺風景な部屋のことだろうか


 「一応言っとくけど、あの部屋じゃ無いわよ?あれは校長室。私の仕事場。私の部屋はそれよりも少し下の階にあるの」


 そうだったのか。てっきり、あの殺風景な部屋が自室かと思っていたが、別に部屋が用意されているのか。

 …そう言えば、事業の方はどうなったのだろう。

校長室の、主に天井が開放的になってしまったせいで修復中らしいが、そもそも事業なんて本当にやっていたのかすら怪しいが、当人は家で遊び呆けていたから…止めたのか?


 「あ、プリンは?」

 「潰された」


 即答する。しかし、俺がやったのではなく、あの男がやったことだ。言葉に間違いは無い


 「…そう」


 一瞬だが、アイラはとても悲しそうに顔を反らす。すぐにいつもの顔で俺を見据える。


 「ほら、突っ立ってる暇があるなら早く食べて支度なさい!」


 アイラに背中を押されて台所に入る。丁度一人分のお皿に、良い薫りを漂わせるカレーが盛られていた。

アイラはどうやらある程度家庭的なこともできるようだ。


 「いただきます」

 「あ、一応食料もある程度は持っていくね?暫く放置するであろう家に置き去りにするのは勿体無いもの。良いでしょ?」


 見ると、アイラは冷蔵庫の中を漁っていた。答えは勿論


 「いいよ」


 俺は短く伝えてアイラ作のカレーに手を付ける。これを食べ終えたらこの家とは暫くの間おさらばだ

2節へ続きます

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