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悠久の魔法使い  作者: 冬樹 青海
1章 時間魔術
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3節 宴、そして戦へ

もう史実としか異なる点しか見られません。最初の場面の海斗の葛藤はこの章の中ではまだ良い感じじゃないかなと思いました。

 ガヤガヤと宴の席は盛り上がっている。その中で俺は信長に訊いてみる。


 「明日の戦って一体…」

 「…お主のように、珍妙な術を操る輩が関与しておる。じゃが、そやつはお主のように善意を持っているわけでは無い。悪意に満ちておるそうじゃ。盗み、殺し…それも死体を吊し上げて儂を挑発しているようだとな。儂の領地で暴れおったからには、礼をするのが道理じゃろう?」


 …いつ、どこでそんな情報を。

それに罠では無いのか?…だからといって放置するわけにもいかないか。


 「場所は?」

 「本能寺じゃ。」


 何だと…!?それじゃ、明智光秀に…。

だけど、本能寺の変が起こってしまえば未来はまた変わるのでは無いか?…敵だとすればそんなことをするとは思えない。

自ら変えた未来を戻すような真似しないだろう。

 待てよ…。まさか、明智光秀とあの謀反に関与した人間を殺すとすれば…少なくとも本能寺の変が起こる可能性は0に等しくなってしまう。

ならば…いや、だがしかし、まだ6月21日じゃ無いのなら


 「…今日は何日ですか?」

 「19じゃ」

 「何月の?」

 「水無月」


 6月20に戦が起こるとすれば可能性は充分あり得るな…。


 「明智光秀殿を明日には連れていかぬように願えませんか?21日までに終えた場合は呼んで下さい。そうすれば…」


 言葉が詰まる。

貴方がある程度史実通りに死ねるからなんて口が裂けても言えるものか。

 …くそっ!犠牲無くして解決させることは出来ないのか!


 「…承諾した。光秀が殺害される可能性があり、そうなるとお主らの未来に問題が生じる。そうじゃろ」


 …あながち間違いでは無く、且つ都合の良い形で察してくれた。

それにしても以外とあっさりと未来から来たことを信じたな、この人。

 だが、ジャンヌダルクはどうする?

ここから故意的に過去のオルレアンまでタイムスリップして火炙りの刑に処すなんて出来ない。

 …やるとすれば、本能寺で共に燃やして存在を無かったことにするしか無い。

今からヨーロッパへ行けたとしても、過去に死んだ英雄が過去の姿のまま帰ってきたとなればパラドックスが生じて未来が変わる。

ならば、やはりこの時代で、この場所で…

 誰一人として犠牲を出さずに未来を有りのままに戻すなんてこと出来ない。そんな自分と世界に絶望を覚える。

 もしも、これで元通りになれるなら、事実上は勝利したことになるだろう。

 だけど、勝利の美酒は味わえず、味わえるのは敗北の苦汁のみ。

事象で勝利したところで、時代に負けている。

事象で勝利したところでそれまで払った犠牲は変わらず、心は救われない。

無理に勝って道理に負ける。


 「有り難うございます。」


 俺はそう会釈して信長から離れる。

 私情を交えてしまって未来で被害がさらに拡大するよりかは…感情を押し殺して物事の道理に従う方が…「小を生かし大を殺す」か「小を殺し大を生かす」、どちらかを選ぶなんて無理だ。

 いっそのこと自分が死んでしまえば良いだろうが、そんなことをすれば変わってしまい戦争が続く未来を変えられない。

世界は時に優しく時に残酷だ。


 「どうしたのですか?カイト」


 ジャンヌが心配したように顔を覗き込む。表情に出ていたのか…。


 「い、いや…明日の戦が少し不安なだけだ」


 不安というのは間違いでは無い。

ただ、2重の意味を持つだけ。

 一つ目の意味は単純に戦へ対する恐怖からの不安、だが二つ目の意味は…上手く成功できるかどうかへ対する疑心からの不安。

最も、他人が察せれるのは一つ目の意味だろう。

この葛藤は、ここにいる誰にも理解されず、悟られずあるべきだ


 「大丈夫ですよ。貴方はお強い。それに仲間だっているのです。貴方が一人で戦うわけでは無い。一度きりの人生、それが私たちの持つ全てです。時に戦から逃げることもまた立派。ですが、私は命を賭けて家族や民といった何かを守る事の方が立派だと思います。」

 「例え全体から見たら小さき1でも、可能性を秘めている。弱くても強くても、誰しも平等に可能性というものは持っています。それに守るべきモノがあるだけでも、それを懸命に守ろうとすれば、自ずと道は開けてきますよ」


 ジャンヌは優しく俺を諭す。

が、それは戦へ対する不安にしか効果はない。その通りだとしても、二つ目の意味には繋がらない。

 それにしても可能性に賭けるなんて以外にフワッとしてるな


 「私たちが闘うからこそ、神は勝利を与えて下さるのです。勇敢に進みなさい、そうすれば総ては上手くいくでしょう」


 …あぁ。この言葉、その強み…やはりこの人はジャンヌダルクその人だ。


 「…ありがとう、自信が持てたよ」

 「そ、そうですか?信念を持たずに生きるのは死ぬより悲しいですので信念だけは、己が何者であるかだけは放棄しないで下さいね」


 そう言うとジャンヌは立ち上がり、他の兵士の元へと歩み寄って行く。こうやって士気を上げ、勝利を掴み取ったのか。

今迷っていても明日に支障が出るだけだ。

明日、明智光秀が殺害されれる可能性を減せば…明日、敵に勝つことが出来れば手はある。

 

 * * *

 

 時は早朝。

…この戦に勝って全てを終わらせてやる。

明智光秀はしっかりと城へ待機させ、見張りの兵も用意していただけた。俺は光秀と算段も組んだ。

これだけすれば充分だろう。


 貴方の策に俺も介入させていただきます。明日の戦に勝てば、貴方に兵を遣わせます。そうしたら本能寺へ来てください。下克上はそれからです。

  

 光秀はなぜ知っているのかと驚いていたが、貴方の仲間に聞いたと言えば渋々承諾してくれた。

この時代の人には案外楽に信頼されるものだな。


 「行くぞ!」

 「「「「「「オォォォォォォォォーーー!!」」」」」」


 兵達が一斉に馬に乗り本能寺へと向かう。

勿論俺も乗り慣れない馬に乗って。

 

 * * *

 

 難なくアッサリと本能寺へと辿り着いた。それはもう、逆に怖いくらいに何事も無く。

 兵達は火縄銃を構えて静かに待つ。


 「来たな。時代に反抗する愚かな者共よ」


 現れた仮面の人物はまるで機械のような声で話す。


 「お主がか…?」


 織田信長は今までとは比べ物にならないほどの威圧と憤りを露にした声で語りかける。

 仮面の人物は鉄の塊を魔法円より転移させ地面へと落とす。


 「産まれよ。核は鉄、血脈には砂、その身は岩と我が魔力で形成され―」


 仮面の人物は詠唱を始める。

始まりからすると媒体を使った召喚魔術。

 召喚魔術は強力だが隙が大きい為、まず単騎では無い。だったらどこかに味方が潜んでいるはずだが…


 「敵を目前として隙を見せるか。儂も舐められたものじゃ。」


 信長は持ち前の素早さで刀に手を回し正面ではなく、少し回り込みながら距離を一気に縮める。マズイ!


 「ダメだ!召喚魔術を扱う者が居れば必ず味方が潜んでいる!」


 俺はそう叫びつつ信長へ全力で走って行き手を伸ばす。


 「…ゲルマン共通ルーンより、þorn」


 静かに響いたその声は魔法名を唱える。

 ルーンを用いた魔術とはこれまた特殊で珍しく、目標を視認し、指で描きながら言葉を唱えることによって効果が発揮される魔術。

 信長の目の前に þ と文字が現れ、それからは大量の棘が現出する。棘ならば

―間に合え!


 「code:F05!」


 出来るだけ素早く唱えたcodeは現出した棘にそって炎を噴き上げ、勢いよくそれを焼く。

信長に手が届くとそのまま後ろへと倒す。


 「―汝は胎児なり。我に従い、顕現せよ!」


 目の前に3m程の大きな岩でできたゴーレムが形成される。


 「親方様を守れぇー!」


 後方より複数の射撃音と足音。

その音が鳴り始めた頃に左より先程の声が聴こえる。さらに右前方より別の声も


 「ゲルマン共通ルーンより、gebō」

 「Lame du vent(風の刃)」


 Xにも似た文字がゴーレムの胸辺りに現れる。

そして後方より放たれた弾丸による損傷をほぼ無にしたことから何かしらの恩恵を与えたのであろうと理解する。

 そして続けて右前方より詠唱された魔法によって放たれた複数の刃で後方の部隊の歩みに乱れが生じる。


 「産まれよ。礎には粘土、汝は癒しを担い、虫の羽を背に得る。―」


 俺と信長はゴーレムより振り下ろされた腕を辛うじてかわし、信長は新たに詠唱をする召喚士を、俺はルーン使いを目掛けて駆ける。


 「歩みを止めるな!進め!」


 豊臣秀吉が号令するとまた複数の足音と雄叫びが上がる。


 「私も、参ります!」


 ジャンヌは腰から剣を抜き、ルーン使いへと向かう。


 「小癪な!この木偶め。」

 

 信長は岩のゴーレムと一定の間合いで争っている。数人の兵と共に


 「code:S09!」

 

 辺りの雄叫びよりも一際大きい轟音を上げて雷が直径80cm程の大きな球となって敵へ飛ぶ。

ルーン使いは横に走りだし、詠唱を始める。


 「ゲルマン共通ルーンより、īsa-」


目前にIに似た文字が現れる。が、それが発動することは無く文字は消える。


 「私を侮らないで下さい!」


ジャンヌが剣を一閃させ、ルーン使いの二の腕を少し抉る。ルーン使いは短い悲鳴の後、よろめいて倒れる。

そうして全身が見えたが、低い身長とまだ少し幼い声から子どものようだが、仮面で顔が隠れて解らない。


 「Epée、glace、氷の剣よ、凍て!重ねて命ず、投影…その数5本!」


 氷で作られた両刃の剣が5本、ジャンヌに向かって飛ばされる。


 「code:G08」


 急いで土で壁を作るが全て押さえるには間に合わず、3本がジャンヌへと向かう。


 「甘い!」


 ジャンヌは2本をかわし、1本を剣で弾く。そして間髪入れずにルーン使いの首へと刃先を向ける


 「―汝は妖精、我に従い、顕げ…」

 「させぬ!」


 信長は捨て身で斬りかかる。

ゴーレムは信長を捕らえようとするが、速度が遅いゴーレムではあと一歩追い付けず風を掴む。


 「ぐぅっ…」


 間一髪でかわした召喚士は軽い傷を負い、詠唱中に無理矢理かわした反動で少しよろめく。それを信長は見逃さずに一突き。

召喚士の胸を冷たい刃が貫く。


 「すいません。ですが、これは戦です」


 背後ではジャンヌがルーン使いの口を塞いで喉を斬る。

なぜだかどちらも血は出ない。…まさか、これは…!!


 「…傀儡か!?」


 傀儡…それは召喚魔法の中で、高位に値する人形の召喚。

だとすると魔法を行使できるレベルの傀儡を作れる相当な腕前の召喚士が敵にいると言うこと。

そして傀儡のような人形の類いの召喚魔は術者の扱う魔法を与えられる。

 ルーンまでも行使し、かつ魔法を扱う召喚魔を作り出せる…そんなAかつBの確率なんて人間では無理だ!

どんな天才でもとても希少かつ複雑なルーン魔術扱うなら他の魔法を…それも高位に値するものを覚えるなんて。

並の魔法を二種扱うならまだ解るが、超高度な魔術と高レベルの魔法を扱うなら過労死するほどの研究と訓練を重ねないと困難だろう。

 が、人間の寿命じゃ足りるか解ったものじゃない。

それに魔力の質と量までも関係するし、別種の魔術を同時に行使するならそれぞれ別々の魔力を持たなければいけない。

だが魔力を1つ別に持てば体に負担が数学で表せば1乗分かかる。

 もし、仮にそいつが3つ以上魔力を持つとしよう。あり得ないが…そう仮定すれば持ったところで数ヵ月~数年の命になる。

 そう言われる由縁は…そんな人物が今生きていないから。


 「…術式、分解。explosion(爆発)!」


 考える暇をこれ以上与えないように響いた高い声、その詠唱と共に2体の傀儡が発光しだす。


 「マズい!逃げろ!」


 ジャンヌはいち早く異変に気付いたのか距離を置いていた。信長は


 「ぬぅ!」


 貫通した刀を握られて逃げることがままならない。

このままでは信長が爆発で死んでしまう…!!

…いや待て、信長がここで死んでしまえば未来はどうなる?元通りになるのでは?


 「…っ!?」


 仮面の人物は信長の方の爆発を止める。

気付いていなかったのか。やはり、相手にとって信長とジャンヌの存在は重要になるんだな。…だったら!


 「ジャンヌ!奴を叩け!奴は君と信長には手を出せない!」

 「はい!」


 彼らと戦わせれば、迂闊に攻撃できないはずだ!どうしてもっと早く気付くことが出来なかったのか…


 「小僧!死にたいのか!」

 「…えっ?」


 ジャンヌが俺の前へ出た数秒後に豊臣秀吉が俺の後ろへ立つ。


 「ぐぁ!」


 振り向くと先程までは無かった鋭く尖った土の塊が秀吉の腹を貫いていた。ジャンヌが消えた途端に出現させたのだとすれば、俺は敵にとって邪魔な存在なのだろう。

だが、今はそんなことどうだっていい。


 「あんた…何で!?」


 俺を庇った秀吉は既に力無く倒れ、喋ることも動くことも無くなっていた。初めて目の前で人が死んだ。


 「はぁっ!」


 ジャンヌの迷い無き突きは仮面の人物の胸を貫く。丁度心臓の場所を。


 「がぁっ…」


 ジャンヌは貫いた剣を勢いよく抜く。仮面の人物は声もなく血を吹きドサッと音をたてて倒れる。


 「…勝てましたね」

 「…」


 ジャンヌの言葉に何も返せない。

一人の犠牲を払って勝利した。負傷した者は何人もいるが、死傷者は一人だけ。

少ないように思えるが、この命を散らさずに勝つことが出来たはずだった。


 「安らかに眠れ」


 そう呟いてから信長は黙祷する。その場の全員がそれに続いて黙祷を捧げる。

その中、ある声が静寂を破り、絶望を与える。


 「ケホッ…フ、フフ…。心臓を…剣で抉られるなんて、久しぶりね。やはり、苦し、いわ…」

 「!!」


 その場の全員がそのかすれた声に反応する。声の主、仮面の人物はユラリと体を起こす。


 「私はね、死ねないのよ。残念だったわね。救国の聖女ジャンヌダルクさん。貴女がその子から退くのを待ってたのを豊臣秀吉に気付かれるなんて思っても見なかったわ。そこは褒めてあげる」

 「この声は…」


 それはここに飛ばされる一日前、エレベーター前で会った人形のような女の子の声にそっくり、いや、一致していた。

一人の男性が息を切らせながら走ってくる。


 「親方様!先程、光秀様が何者かに討たれたとの報告が…」

 「なん…だと…」

 「あらあら。即席で造った泥人形にしては早かったわね。まだ魔力が全然回復してないから不安だったのだけれど」


 仮面の人物はクスクスと笑いながら宙に浮かんでいく


 「残念。ここに居れるのもおしまいね。さようなら、天宮 海斗さん?残された道は一つ。さて、どうするのかしら?」


 次に仮面の人物…彼女を見たときには彼女の体は消えていた。最後の言葉が少し気掛かりだったが…

―全てにおいて負けた。

 唯一の希望も打ち砕かれて為す術が無くなった。これで終わりだ。

俺たちは沈んだ空気のまま城へと足を運んだ。道中、皆に雨が降った

 

 * * *

 

 明智光秀と豊臣秀吉の遺体は城に帰ると早々に埋められた。

 ―残された道は一つ。どうするのかしら?

その言葉の意味は考えたくも無かった、最も嫌った行為の事と解ってしまう。

この時代、歴史通りでは無くなってしまったが、2つ、いや、正確には4つだが…うち2つはもう叶わぬ願い。

 残った2つの矛盾、ジャンヌダルクはこの時代この場に存在するはずの無いどう考えてもおかしな特異点。

 そしてもう一つ、…織田信長が死んでいないこと。解決の方法は簡単だ。それさえしてしまえばある程度の辻褄が合うように歴史が流れるだろう。せめて、形だけでも―


 「…どうしました?そんな険しい顔をして」


 ジャンヌダルクが俺の顔を覗き込む。…すまない。ごめんなさい。本当にすいません。でも、こうするしか…


 「?」


 ジャンヌダルクはきょとんとしてその場に立ち呆けている。周りに人影は…無いな。


 「カイ…むぐっ!」


 次の瞬間、俺は吸い寄せられるようにジャンヌへと近付き口を押さえ、


 「code:G06」

 

 地面から伸びた土砂で口と体を押さえ手を離してその場から少し離れる。そして


 「…………code:F…11」


 燃やしていた。

 一部例外はあるが、本来、人間を直接殺す事ができないのが魔法だ。

だが、その例外を用いて、もしくは物を燃やすなどして間接的に殺すことならできる。

 人が、生きた生物が焼ける匂いが辺りを包み込む。吐きそうだ。


 「んんんー!」


 どうして。とジャンヌの涙に濡れた目が、悲痛な呻きが訴えかける。


 「…本当にごめん、なさい。でも…こうするしか…無かったんです」


 目を背けずに確りと前を見て言う。謝罪をする。許されはしないだろう。

 呪ってやる、殺してやる、そんな目を向けられるのが当然だろう。俺はそれを目を背けずに受け止める義務がある。

だが、ジャンヌはそんな顔をしなかった。いや、怒りが無かったかと言えば嘘だろうが、どちらかと言えば慈愛と悲しみに満ちていた。

 やがてジャンヌは目を瞑り死を受け入れるように静かになった。


 「……………ごめん」

 

 何をしようと許されることではないが、ひたすら謝ることしかできない。

 ジャンヌの体は炭も残らず消え去っていた。…次は、信長。もう、心が壊れそうだ。


 * * *



 「光秀殿がお亡くなりになろうとも、あの方の悲願は叶えよう。」


 数人の兵士に告げると作戦は静かに実行される。信長は本能寺で待っていてくれと伝えた。

見張りを用意して。後はこちらが準備をするだけ。


 「貴様、どうする気だ?」

 「俺達が囲んで逃げ道を塞ぎ、寺ごと焼く。証拠は残らない。」


 暫くの沈黙の後、次々と賛同する声が上がる。

 

 * * *

 

 本能寺へ着くと約束通り信長は本能寺の中で待っていた。


 「…遅かったのう?まあ、座れ」

 「…少し…野暮用がありまして」

 「…その用事とは、あの乙女を焼き殺した事か?」


 !?。見られていた…のか。

ならば謀反を察していてもおかしくは無い。でもそれにしては覇気が無さすぎる。どういうことだ?


 「…それがお主らの住む未来やらにおいて、正しき道筋であるのだな?」


 俺は戸惑いながらも頷く。この人は…まさか…。


 「ならば良い。儂を殺せ。カイト」


 信長は今まで向けたことの無い優しい笑みと声で話す。…こんな状況じゃ無ければ貴方に仕えてみたくもあったよ。


 「貴方を殺すのは俺達ではありません。この寺に放たれた炎です」

 「なんと。寺ごと儂が死ぬのか。寺と心中とは…つまらんのう」


 俺は静かに立ち上がる。

信長に軽く会釈をして火を放つ。

 史実では自害による火だそうだが…多少異なろうとも、死因を焼死した、と捉えるならば間違いではないだろう。

 いや、俺は冷静じゃなかったのかもしれない。冷静だったのなら日を点けた松明なりを渡して自害を促すことができただろう。

今更そんな事を考え付いても意味はないな

寺を出ると同時に俺の体は後ろの炎のようにユラユラと揺れ、光に包まれる。

次で1章は終わります

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