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LIFE-C

「恭介君」


 目が覚めると目の前には甚助の顔があった。


「うわっ!?な、なんだよ驚かすなよ。どうしてここに……」

「ビックリしたのはこっちっすよ?覚えてないんすか?」


「覚えてるも何も…一体何が……そうして周りを見渡すとある違和感に気が付いた。


 ここは―――僕の部屋じゃない?

「俺の部屋っすよ。あのまま放置しておくわけにもいかないんでマスターキーを使ってこっちに移しました。いま恭介君の部屋は掃除中です」

「どういうこと?」

「死んでいたことくらい覚えておいて下さいよ。役に立たないっすねえ」


 今、何て言った?死んでいたって……。


「ちょっと待って。僕死んでたの?」

「ええ、首の骨が折れてました。こう反対向きになる感じで……」


 あんまり詳細は言わないで欲しい。気持ち悪くなるから。

 僕は必死に思い出そうとする。そうだ、電灯が落ちて暗闇になって……そして何か扉が開くような音がして、それで―――。


「誰かが、部屋に入ってきた―――気がする」

「なるほど、また暗殺者っすね。やれやれ」


 また、来たのか。

 僕の気分は一気に暗澹たるものへと変わる。


「これで通算十回目の暗殺ですか。ホント、人気者は辛いっすねぇ」


 ちょっとは労わって欲しいのだが。僕が憮然とした顔をして甚助を睨みつけていると、言い訳がましく口を開く。


「まあいいじゃないすか。社長の発明のおかげで死んでも生き返れるんですから」


 確かにそうなのだが死ぬのは痛いんだぞ、かなり。

そう、僕は今まで十回ほど死んでいた。その全てが病気や事故ではなく、命を狙われる、暗殺で命を落としていたのだ。どうして僕がこれほど命を狙われるのか?それには色んな理由があるのだが、一番大きい理由は『弟切家の血を引く最後の一人』であることと『弟切家の裏家業』にあった。

僕には母は自ら作り出したある一つの試験薬が投与されていた。『LIFE―ライフカウンター』と呼ばれるその薬は元々は父用に開発された、不老不死の実験薬だったらしい。不老は実現出来なかったが、特定の人物、つまり父だけに反応し、肉体の死をきっかり一時間後に再生する薬、つまり蘇生薬としての効用があったのだ。幾度実験しても父以外のDNA配列にしか反応しなかったため実用化の目途は立たない代物ではあったが、それを受け継ぐ僕には効果があったのだ。そしてこの薬の効用はそれはすさまじいものだった。

例えば身体を細切れにされてもきっちり一時間後に一瞬にして繋がり復活する。欠損部位があってもそれを再生して、だ。一回爆弾でそれこそ原型を留めないほどに爆散したことがあったのだがきっちり一時間後に瞬間再生したことがある。どういう仕組みなのか詳しくははわからないが小さな肉片、それこそ原子レベルからでも肉体を再構築してしまう魔法の薬、それが僕の体に取り込まれていた。まさに不死の化け物である。しかしこの能力にも限界はあった。


「あと―――四回、か」


そう、この能力は一ヶ月につき五回までしか使用出来ない。つまりあと四回殺されると僕は本当に死んでしまうことになる。ちなみにこれは最初の再生から一ヶ月がカウントされる仕様である。まあそんなに殺されることも普通は無いのだが……。


「まずいっすねえ。こんな密閉空間で後一週間、何回殺されるやら」


甚助、他人事みたいに言わないでくれないかなあ。


「痛いのは―――嫌だなあ」


 別に死ぬこと自体は構わない。これまでも何回も殺されて来たせいか、僕にはある種の諦観が身に付いてしまっていた。大体この世に自分を必要としない人間がいて、殺したいと思っていて、実際何回も殺されていれば人生を冷めた目で見つめるようになるのもしょうがないのではないかと思う。自分は必要とされない人間なのではないか―――いっそ死んだ方がましな人生なのではないか、と思った時期もあったが、現在は一応そこまで自暴自棄にならずには済んでいた。九十九ミト―――彼女の影響は多少なりとも大きかったのだと感じている。


「ともあれ、犯人捕まえるしかないっすね。頑張って下さい」

「いや、どうすればいいんだよ。そんなの相手に出来ないよ僕。そもそもこんなことになったら事情を説明してお見合いを中止して……」

「いやー無理っすね。そもそも本当に一週間は出れませんし。それにこれは元々社長の想定の範囲ですから」

「へ?」

「つまり、暗殺者をおびき寄せることも、目的の一つって話ですよ」

「え!?何でそんなことを……」


 さすがに僕も驚いた。ちょっと待ってよ母さん……。


「今まで暗殺されても誰が雇ったのか分からなかったじゃないですか。でも社長はどうやら目星をつけたらしいんすよね。それで集められたのがこのお見合いの面子なんですよ。これで犯人の目星がつけられて反撃出来るって寸法っす」


 つまり、僕の命を的に懸けた陽動作戦ってことですか……。人生諦めてる僕じゃなかったらグレて盗んだバイクで走り出しても可笑しくないですよ、母さん。


「いや、まあ本当にお見合いを兼ねてる面もあるんでそこまで落ち込まなくてもいいっすよ?『暗殺者を雇ってない家の奴とは取引できるし、そこと組むことが出来れば息子も狙われる可能性が減るから一石二鳥』だって社長言ってましたし。ハハハ」


 僕は甚助の心の篭ってない笑い声を尻目にこれからのことを考えていた。えーと、つまり僕はこのままお見合いし続けて出来る限り殺されないようにして犯人を見つけろってことですか―――んな無茶な。僕の心の声が聞こえたのか甚助が答える。


「ああ、捕まえるのはここのロボット―――Mが協力してくれますからその点は大丈夫です。敵性者を見分けることが出来れば必ず相手を仕留めてくれるはずっすから。いやー社長の発明はさすがっすね」


 君は何もしないのかい、甚助君。


「で、母には連絡取れないのかい?それとももう知ってるの?」

「一応この竜宮御殿の中はモニタされてるはずなんすが―――そういえば連絡ないっすね。おかしいなあ……」


 何かトラブルでもあったのだろうか?言いようの無い不安が胸の中に渦巻くが考えてもしょうがない。とりあえず、出来ることをするしかない。


「まあまずは夕食の時に反応を見るか……」

「そうっすね。犯人きっと吃驚するっすよ」


 それはそうだろう。殺したはずの人間がぴんぴんして一緒にご飯を食べているのだから。まず、最初のチャンス、ということか。


「ところで、お見合い関係者以外の人間てどれくらいいるんだい?そいつらに犯人がいる可能性も……」

「いないっすよ?そんなもん」


 はい?どういう意味ですかそれは。


「全部機械任せの遠隔操作ですからねえ。一応メインモニタルームには誰かいるとは思うっすけど基本は無人のはずっす」


 なんということでしょう。まあ確かにこの中にいる人間が少ないほど対象は絞込み易くはなるけど。


「まあいざって時はこの甚助様にどーんと任せておけばいいっすよ、ハハハ」


 ごめん、無理。

 

 ピンポンパンポーン


 チャイムが部屋に木霊する。


「夕食の時間となりました。皆様ホールまでお集まり下さい」


 Mの声でアナウンスが流れた。


「いやー皆の顔がどうなるか楽しみっすねー、ワクワクしません?」


 しません。


「ま、行くしかないか……」


 そこで一つ問題に気がついた。


「あ、でも甚助の部屋から出たらまずいんじゃないの?部屋間の移動は基本禁止されてるのに……」

「あ、それもそうすね。ちょっと待って下さい」


 そう言って甚助は扉から出てすぐ戻ってきた。


「早く早く!まだみんな部屋から出て来てないっすから!」


 急かされて慌てて外に連れ出された。やれやれ、先が思いやられるというか……。

 そして僕らは一足先にテーブルに着き、他の人が来るのを待った。普段からあまり緊張する性質ではないがこの時ばかりは心臓が高鳴る。そして、扉は開いた。


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