とある暗殺者の行動2
『君にプレゼントがある』
電話であの男はそう言った。
「ふざけるな、私は自分の殺しに他人の手を加えるのを好まない。私を侮辱する気か?百目顎よ」
「そんなつもりは毛頭ないよ。まあ聞きたまえ、そうは言っても君が竜宮御殿に入ってしまえば自由な動きは取れないし、監視の目もきつくなる。だから私がサポートに回ろう、という話だよ」
「なら、私などに任せず自分で全てをこなせばいいだろうが。どうしてこんな回りくどいことをする?貴様一体何を企んでいるんだ?」
「いや、何もないさ。ただ僕は別の仕事に忙しいんだ。だから今回は内部のサポートに専念させて貰うことにするよ。チャンスは僕が作るから、君が頑張ってくれさえすればいい」
「ふん、まあいい。内部の工作班がいるとは聞いていたがお前がその任だと知っていれば……」
「断らない、だろう?」
その通りだった。こいつは糞野郎だが腕だけは超一流だからだ。
「いいだろう。で、最初のチャンスは何時なんだ?」
「初日夕食前だね。仕掛けたトロイが発動すれば三十秒だけ停電になるはずだ。扉のロックも外しておくよ。失敗した場合は君のデート時にしかチャンスがなくなるから気をつけてくれ」
「それだけか?」
「それだけで、十分だろう?」
言外に「出来ないほど無能ではなかろう?」という声が聞こえてくる。癪に障るが仕事において敵愾心は邪魔になる。冷静にならなければ。
「こうして僕が介入出来るのも竜宮御殿のセキュリティ上一日一回が限度だからね。よろしく頼むよ」
そう言って電話は切れた。久しぶりに聞く百目の声を思い出しながら私は自分の中に久しく忘れていた殺意が芽生えているのを感じた。
百目顎―――あいつを殺すのは、私だ。せいぜい利用した気になっていろ。
恨みでも―――借りでもない。単なるけじめだが、あいつだけはこの手で―――。
「そろそろ時間ですのでお車まで……」
依頼人の声で現実に引き戻される。今はまだ、依頼をこなすことが優先だ。そう自分に言い聞かせ、私はオフィスを出た。