移動
「甚助」
「なんすか、恭平くん」
相変わらずぶっきらぼうな言い回しだ。甚助の言動を見ていると本当に僕に仕えている身なのだろうかと偶に不安になる。
「ここ、どこ?」
「答えられないっすね、社長の指示ですし」
僕はアイマスクを付けられた上でどこかに移動させられていた。振動だけが伝わってくるが、はてここは車の中なのかそれとも電車か飛行機か……。その状態でかれこれ数時間は経っている(気がする)。
「じゃあいいや。着いたら教えて」
退屈ではあったが耐えられないほどではない。とりあえずもう一眠りしよう。そう思った瞬間、僕の腹が鳴る。
「あ、お腹空いたっすか?」
「……みたいだね」
そりゃあ何時間も移動してればお腹も空くだろう。喉も微妙に渇いている。
「そりゃ大変でふもぐもねぐもぐ……」
僕の鼻をつく食べ物の匂い。
「甚助、あの、僕にも何か食べ物か飲み物を……」
「あり――ごっきゅん――ませんよ?」
「いや……今甚助何か食べて……」
「あ、すんません、これ俺のですから」
「……」
「根性で!もうちょっとで着くんで我慢して下さい。あと五時間ばかり」
いくら達観した人間でも腹は空くんだぞ、甚助よ。
そのへらへらした口調での受け答えは僕の脳内で甚助の間抜け顔で鮮明に再生された。赤茶色に染めた髪、細身の長身で常に僕の真上からする適当な発言、だらしなく垂れ下がった目、正直言って仕事をしているようにはまったく見えないこのボディーガードであるが、よく首にならないものだと思う。年齢不詳で、幼少期から僕の傍にいたが仕事をしているところを見たことが無い。そう、甚助は僕を守ったことなど一度もないのだ。
「……わからん」
現時点で甚助が首にならないことは弟切家において最も不可解なことの一つである。
「まあ、というのは嘘っす。もう着きましたよ」
おい。
「怖い顔しないで下さいよ。とはいえマスクつけてるんで本当のところはわかりませんけど、ハハハ。僕だって鬼じゃないんですし。ほら、スマイルスマイル」
そう言って甚助は僕をどこかに下ろし、アイマスクを外した。一瞬眩しくて目を細める。ゆっくりとまた、その目を開けるとそこは――――。




