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事後相談会

「――――介、恭介」


白い天井が見える。この大ホールの天井であることはすぐ分かった。ミコトは―――僕はどうなったんだ?

ポタッ

何かあったかいものが僕の顔にかかった。その瞬間僕の顔は思いっきり誰かに抱き締められ視界が奪われてしまった。


「ちょ、ちょっと待って……一体……」

「よかったよ~~~恭介が起きた~~~うわーん!」


この声は……ミコト?

僕は寝そべりミコトの腕に抱き留められながら、おんおんと泣く彼女の声を聞いていた。


「いい加減に放してあげたらどうかしら?」

「ふえ!?あ、ごめんなさい!」


ゴンッ


急にミコトが僕の頭を放すものだから僕はしたたかに後頭部を床に打ち付けてしまった。


「痛った~~~~~~」

「ああごめんよ恭介~~~!」


そう言ってまたしても抱き締められる。頼むからどっちにするかはっきりしてくれないだろうか。


「さて恭介君。事態は飲み込めているかしら?」


この声は九十九さんだ。さっきミコトに話しかけたのも彼女か。


「いや、そのお恥ずかしいですが、まったく」


じゃあ手短に。そう言うと彼女は何があったのか僕に説明を始めた。

貫木蝶子はまず僕の腹を突き刺し、僕はその場に崩れ落ち転がった。次に貫木蝶子がミコトに踊りかかったところで割って入った人間がいた。驚いたことにその人物は此花散だった。彼女はすばやく近づくと貫木蝶子としばし白兵戦に興じたらしい。ものの数分のことだったが此花散は見事に貫木蝶子の延髄に一撃を加え昏倒させたそうだ。


「す、すごいね。彼女武道の経験が?」


何、間の抜けたことを言ってるの?という目で九十九さんに見つめられた。ああ、そうか彼女も、もしかして―――


「で、その此花さんはどこに―――」

「彼女はこの場から逃げ出し何処かへ去ったわ。この竜宮御殿のどこかに潜伏してるはず」


つまり、まだ暗殺者の危険は去っていない、ということか。


「それにしても、恭介って怪我治るの早いんだね!びっくりしちゃった」


あ、しまった。そういえば僕はさっき一回死んだようだがミコトにそれを見られてしまっていた。どう言い訳するべきだろうか。


「大したことない怪我だったわ。でもあまり急に動いては駄目よ?」


九十九ミトがそんなことを僕に向けて言った。どういうことだろうと自分の胸のところを見ると包帯が巻かれていた。


「私が手当てしておいたの。傷は浅くて、よかったわね」


えらく含みのある笑顔が僕に向けられた。うう……ありがたいけど借りが出来てしまった。

そうだ、こういう時は―――


「M―――彼女はどこへ行ったか分からないかな?」


沈黙。


あれ?おかしいな返事がない。


「あ、あのね。Mちゃんは……わ、私を……うえーん!」


またミコトが泣き出した。何なんだろう一体。


「そこにほら、転がってるわよ?」


え?目線をミコトの横に移すと、そこには良く見た青いフォルムのメカが横倒しになり胸の装甲が裂け、内部が露出し、明らかに壊れている無残な姿を晒していた。


「M!?」

「Mは二人の白兵戦の最中に巻き添えを喰らいそうになったミコトを助けたの。それでその有様」


なんと、これじゃMの管理者や母に連絡を取ることもおぼつかないではないか。勿論此花散を追うことも難しい。そうだ、こんな時こそ甚助がいれば解決するのに、あいつはこの大変な時に一体何をしているんだろう?


「さて、困ったことになったけど。どうする弟切恭介君?」


九十九ミトは僕に答えを聞いている。昨日の返事をどうするのか、と。

どうすべきだろう?相談相手は現時点で誰も連絡は取れない。しかも彼女が本当に僕の味方をする保証はどこにもない。本当に困った。


「ねぇ、それにしても恭介。何でこんな危ない人達がここにいるの?ねぇ、どうして?」


う、その質問も実に答えにくい。九十九ミトのほうに目線をやると向こうも自身の問いかけの答えを待っている様子である。こういう時は―――答えやすいほうからにしよう。僕は自身が暗殺の対象になっている訳を語り始めた。


「まずその、これはオフレコだよ?うちの裏家業、というか本業の話なんだけど……その驚かないでね?」


「ははは!恭介の嫁としてどんな秘密でもドン引かない自信があるよ!どんとこーい!」


 それはありがたい。嫁ではないけど。


「うちの財閥は各種多方面に会社を経営しているけど、大本の主産業は実はその……戦争関係なんだよね」


 そう、弟切財閥は曽祖父の代から連綿と続く武器商人の家だった。現在の日本では無差別に商売をするわけにはいかないが自衛隊に下ろす武器や戦車、戦闘機、ミサイルの製造などを請け負っている日本の会社はごまんとある。その中で取り分け「危ない商品」に手を出していたのが弟切財閥というわけだ。その商品というのは……。


「医薬品、ね」


 九十九ミトが補足した。


「そう、戦争医療関係での薬の開発。しかもあまりまともな薬じゃない。表向きはただの医療薬も開発しているけど兵士用に使われるもっと危ない物も研究しているんだ」


 その最たるものが僕に使われた不死薬「LIFE‐C」なのだけれど。

 

「この医療関係での情報戦は常に熾烈を極めていて、それが僕が狙われる理由にも関係しているんだけど……まあ僕にもとある試験薬が投与されていて、そのデータを欲して僕を狙う組織がいたりするんだよ」

「ふーん?」


あれ?予想してない変な反応がミコトから帰って来た。何か納得いかないことでもあったのだろうか?


「でもそれだと変じゃない?別にいのちを狙う必要までは、ないよね?」


なるほど、確かに彼女の言うことも一理ある。そういえば何でだろう?


「そうね、確かに君を誘拐すれば話は早い。でもそうはなったことがないんでしょう?」


 九十九ミトの言う通りだった。気が付いたら僕は命を狙われる立場になっていたので今までそんなことに疑問を挟むことすら忘れていた。


「まあ確かに君を殺して検体として持ち帰るのも理がないとは言えないわね。でもこの話は、この事件に直接かかるほどの重要事ではなさそうだから放って置きましょう」


 いや、あの僕が殺されること自体は僕にとっては重要なのではないでしょうか。


「で、君を狙っていると思われる企業を招いてのイベントがこのお見合いってことね」


 的確な補足を本当にありがとう。


「えー!?じゃあ本気で僕と結婚する気があったわけじゃないの?ひどい!女心をなんだと思ってるんだ君は!」


 いや、非難されても困る。そもそもこの企画は母が勝手に仕組んだものであって……。


「別に結婚してもいいのではないかしら?私はこの企画はある意味協力できる相手を選ぶ目的もあるのではないかと疑っているしね」


 逐一凄い洞察力だ。やっぱり彼女は敵に回してはいけないのではないかと思い始めた。


「えへへへへ。そうなんだ~~」


 なんか急にくねくねして嬉しそうにしないで下さい、ミコトさん。


「そう、この企画で集められた企業のほとんどは戦争に携わっている企業。九十九家もご他聞に漏れず、ね」

「じゃあ、僕の家もそうなのかな?」


 そういえばミコトの家って何をしているところなんだろう?聞いたことはないが通っている学校の関係上、どこぞの良家であることは間違いないのだが。


「ねえねえミトちゃんとこもケッコー危ない会社なの?」


 こら、ミコト君。暗殺者に危険なことを聞いちゃいけません。


「まあ、道義的には、最悪ね」


 吐き捨てるように切り捨てた。よっぽど腹に据えかねるクライアントなのだろうか。


「なるほどぅ。ありがとう恭介!良く分かったよ~。これで君と僕の間にまた一つ秘密が増えたね!嬉しい……」

「嬉しくない」


まったく、嬉しいと言っておかないと延々と絡むから困るんだよな……。


「酷い!」


 ぷくっと頬を膨らませミコトは拗ねてしまった。しまった、つい本音と建前を間違えた。


「さて、と。じゃあこれからのことを、どうしましょうか?」


 九十九ミトがそれはもう最高の笑みを僕に向けて促してくる。ああ、これは間違いなく決断を迫られている。ほんと、どうしようか(嘆息)


「……じゃあその、ここを出るまでみんなで協力しましょうか」

「そうね、それがいいと思うわ」


 本当に彼女はいい笑顔をするなあ。とはいえ仕方ない。恐らく今取れる最善の策は彼女と協力することだと僕は結論付けた。少なくとも味方無しでこの危機を乗り越えるなんて不可能だ。そもそも甚助ですら対して役に立たないのだからこのままじゃ間違いなく僕の命数は早晩尽きてしまう。


「そうだね!みんなで考えて決めよう!」


あ、君の意見は聞いてないよミコト君。


「で、どっちにするの?」

「はい?」

「はい?じゃないよ!早く決めよう?」

「だから、何を?」

「次のお見合い相手」


……この状況でやる気ですか。


「えーだってずるいー!僕以外の人がデートしてるっていうのに、まだ僕は手も繋いでないんだよ!?」


 僕は不平をいう彼女の手を取り上下に振った。


「これでいい?」

「バカ―――――!」


ばちーん!


 物凄い平手打ちを僕に浴びせミコトは自分の部屋に駆け込んで行ってしまった。はぁ……疲れた。


「助かったわね。これでゆっくり、話が出来る。」

「まあ、そうですね」


この頬の痛みと引き換えかと思うとあまり平等なトレードとは言い難いのだけど。


「さて弟切恭介君、とりあえずお互いの呼称を決めよう。それがコミュニケーションの初歩だからな」


 彼女本来のものと思われる言い方に切り替えてきた。


「えーと、呼び捨てで良いです。あの、僕は九十九さんとお呼びすれば……」

「恭介、私と君は同じ歳だ。ミト、でいい」

「え?」


 なんと、身分を偽っているとはいえ彼女は僕と同じ十六歳だというのだ。その歳で暗殺者家業に就いているとは……。


「じゃあ、そのミト……さん」

「うむ、何だ?」

「とりあえず、此花散を捕まえるのが先決、でしょうか?」

「それも重要なことだが、まず極めて重大な話からしよう。この竜宮御殿に恐らく忍び込んでいるであろう最悪の暗殺者―――百目顎のことを」

「ひゃくめ……あぎと?」

「私に暗殺の腕を仕込んだ、いわば師匠というところだ」


 それは、とても強そうですね。


「まあ純粋な戦闘力という点においては私のほうが勝っていると思うが、あいつは色々性質が悪いんだ。この世に生まれた純粋な殺人狂と言ってもいい。そういう意味では敵う気はしないな。今回の君の暗殺依頼はその、百目顎が私に投げたものだ」

「えっと、なんでその百目とやらは自分で僕を殺さないんですか?こんな回りくどいことをしなくても……」

「さあな。百目が自分で殺せないターゲットがいる。その点だけでも興味を引かれ、実際殺してみて驚きはした。ここに来た甲斐はあったと思う」


 淡々と僕を殺した感想を述べないで下さい。


「しかし面白い身体をしているな。先程貫木蝶子に刺された心臓の傷ももうすっかり癒えているようだしな。出来ればもう一回殺してみたいのだが……」

「遠慮します」

「ははは、冗談だ」


 冗談にしては笑えないです。


「で、その件の百目顎だが、どうやら奴は私を殺そうとしている節がある」

「え、依頼をしているのに、ですか?」

「ああ、奴の目的は君でないことは明らかだ。それは最初から分かっていたが、先程貫木蝶子が死んだことで確信に変わった。あいつは我々『暗殺者』の方を狙って殺しにきている」

「え」

「元々おかしいとは思っていたんだ。仲違いして最悪の別れ方をした私によくもいけしゃあしゃあと依頼を振ってきたものだとな。そしてここに来て以来、私は自身に向けられた殺意をどこからか感じていた。貫木が殺されるまでは九割程度の確信だったのだが、あれが決定打だった」

「元々九割もあったのに、のこのことここに来たんですか?」

「ああ、私も奴を、殺してやりたいと思っているからな」


 思わずゾッとした。そう語る彼女の目は何よりも冷たく、怪しく輝いていたからだ。気圧されながらも僕は一つの疑問を口にする。


「貫木蝶子が殺されたとはいえ、でもそれが何でミトさんも殺されるっていうことになるんですか?」

「貫木蝶子の殺しの業は、どうみても百目顎が仕込んだものとしか思えないからだ。つまり、彼女も百目の弟子、ということだな」


 なんと。二人にはそんな共通点があったのか。


「加えて言うならそれを始末した此花散の体捌き、あれも同じく百目のもの。彼女も百目の弟子か……もしかしたら、彼女が百目本人かもしれないな」

「そ、そうなんだ。じゃあ百目って人は女性なんですか?」

「……どちらなのだろうな。私もあいつの正体を正確に掴んだことはないのでな」

「え、でも師匠なんですよね?普通そのくらいは……」

「あいつはその名の通り、百の目を持ち顎を持つ人間だ。百の目で見ているかのように相手を観察し百の顎、それだけの手段でもって相手を噛み砕く。そして何よりほぼ完璧な、変装の名人なんだ。対象を完璧にトレースし、骨格を変え、人の皮を被り同一化する獣。比喩ではなく実際にそういう人間なのだ。だから私もあいつの真の姿は見たことがない。私の目の前に居た時は少なくとも男性だったが」


 ずいぶんと、恐ろしい相手のようだ。全然実感を持てないので危機感が湧いてこないが。


「あいつの生きる目的は殺人だ。殺すことでその人生を奪い、コレクションできると信じている。あいつは今、収穫の真っ只中なんだろう」

「収穫って……農業じゃあるまいし」

「奴にとっては同じだ。暗殺者わたしたちという種を蒔き、熟れた穂を刈り取ろうとしているだけだろう。殺すべき人間を育てる。そういうことをする人間だったよ、奴は」


 話が進むにつれ次第に彼女の顔から笑みが消え、冷徹な殺人者としての顔がそこに現れていた。もしかしたら、僕はとんでもない間違いを犯したのではなかろうか。


「さて、ここまでが私の話だ。何かまだ質問があるか?」

「彼の目的ってミトさんの殺害以外に何かあるの?」

「さあな、奴は殺人以外に興味を持たない人間だ。如何に殺すか、如何に奪うか、それしか考えてないだろう。計画の根幹だけは一緒だ。つまり、誰かを、殺したい」


 聞くだけ無駄だった。少し後悔した。


「で、これからどうするんですか?」

「そう、そこで君だ」

ようやく僕の出番が来たようだ。一体何の協力をすればいいのだろう?囮?それとも情報提供だろうか?

「君がいれば、部屋間の移動は自由になるはずだ。間違いないな?」

うん?

「少なくともお見合い相手とのデート中ならば相手の部屋にも入れる。それは確かだろう?」

そうだった。確かに僕だけロックが解除され自由に彼女達の部屋に出入り出来る。

「設定すれば君はどんな部屋にも自由に入れるようプログラミングされているはずだ、ここ竜宮御殿ではな。他にマスターキーがあればそれでも構わない。それを貸してくれれば全員の持ち物を検査出来るからな」


 なるほど。それで百目顎の痕跡を探る気なのか。しかしマスターキーは甚助が持っていってしまったままなので渡すことは出来ない。


「今日の今だとなると……多分貫木さんの部屋くらいしか入れないと思うけど……」

「そうだな。特に何が出るわけでもなさそうだが一応調べてみるべきだろう」

「でも、ほかの部屋には入れないんじゃないのかい?だってほらMは壊れてしまったし……」

「それはない」


 えらくきっぱりと言い切った。どこに根拠があるんだろう?


「これだけの施設だ、すぐバックアップの機械が動くはずだ。それにシステムが単一の命令系統だとは思えない。少なくともあのお見合い抽選は時限式だ。予め決められた動作を我々に見せているに過ぎない」

「え!?そうだったの?」

「ああ、あれが動作したのは一分一秒コンマもずれず二日とも同じ時間だった、私の体内時計の感覚ではな。想像だが何か不測の事態が起きた時でも動作するようにしている独立したシステムがここに存在していると考えるのが普通だろう」


 そうだったのか……。というか彼女の体内時計はすごいな、ちょっと欲しい。


「だから時間がくれば他の部屋も開けることが出来る筈だ。まあ残りは私を除けばあとたったの二人だがな。いや、もう一人いたか。確か尼崎甚助といったな」

「あ、うん」

「あいつは今どこで何をしているんだ?お前のボディーガードじゃないのか?」

「そう、なんだけど……姿が見えないんだ。昨晩から会ってないし」

「ふん、なるほどな……」


 彼女は俯き何か思案に暮れているようだったがすぐに顔を上げ僕に促した。


「とりあえず、貫木蝶子の遺体と部屋を調べよう。行こうか」


こうして妙な協力関係が敷かれた中、僕と彼女の合同捜査は始まった。とはいえ僕はほとんど傍観者としてその場にいるか、お茶を入れるくらいしかやることはなさそうだけど。はたして、僕らは無事にここから出ることが出来るのだろうか?


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