勇者になれない転生者
何一つ日光を遮らない清々しいほどの青空の下、何一つ視界を遮らないだだっ広い田んぼの畦道を、私ーー来宮 志乃ーーは歩いていた。
それにしても...
「ほんっと田舎ってのは不便なものね。やっと着いた。」
目的地はたった今たどり着いた少しばかり年季の入ったバス停。そこから駅に向かい、新幹線に乗って上京する。
「待ってろ都会!私が行くわよー!」
フフン、何を隠そう私は今年から都会の高校生へと入学する花の女子高生である。これから始まる学校生活を想像して上機嫌になるのも仕方ないだろう。
いや別に私が田舎者だからとかそういう理由とかではなく。
...まあ今そんなことはどうでもいいとして。
バス停に設置されている青色のベンチを占領し、バスを待つ。
現在の時刻は午前10。次のバスが来るのは11時。1時間も待たなくてはいけない。
バスの待ち時間が長いことには慣れているのだが(いや別に田舎者だからとかそういうのではなく)
「あ”ーあっつい。流石にこの暑さの中1時間も待つのは大変ね。」
まだ3月だと言うのに記録的猛暑だとかで、ここ最近は真夏のように暑い日が続いている。
遠くからエンジンの音が聞こえてきた。どうやらバスがきたようだ。
都会の女の子は可愛いんだろうなとか、どんな子と友達になれるからとか、これから始まる都会での高校生活を夢想する。
花の女子高生が考えることじゃねえとか言った人は屋上ね。
とまあ、それは置いておいて、バスに乗るためにベンチから立ち上がる。
期待に胸を膨らませながら。
でも、
「...っ!?うっそでしょ...」
こちらに向かって走ってくるバスのスピードは、明らかにバス停に止まろうとしているそれとは異なっていた。
気付いたときには既に遅く、運転手の必死の叫び声も、周りの景色もゆっくりと動いているように感じられる。
(ああ...死の直前に全てがスローモーションに見えるって本当だったのね)
と、呑気なことを考えながら、バスに轢かれた。
そして直ぐに、私の意識は途切れた。
目がさめるとそこは見覚えの無い部屋で、私はその部屋の中心で横たわっていた。
部屋には物と呼べるものが何一つ置かれておらず、それどころか窓やドアすらない。
(私、死んだはずじゃ)
そう、私の記憶が確かなら、つい先ほど駅へ向かうためのバスに轢かれたはずだ。
しかしここは病院ではないし、それどころか轢かれたのにもかかわらず、私の体には一切の外傷が無い。
「もしかしてここ、あの世だったりするのかしら。」
『その通りです。』
!?
突然、何もないはずの部屋で声が聞こえた。
声の主を見つけようとキョロキョロと周囲を見渡すが、やはり誰もいない。
『探しても無駄ですよ。私の本体はその場所にはいませんから。』
「は、はあ。」
何が何なのか私には全く分からない。分からないが、可愛らしい声だなあとは思った。
取り敢えず何か聞こうと思ったとき、タイミングをはかったかのように、謎の声が喋りだした。
『まず、貴女の想像通り、ここは所謂あの世です。貴女は不幸にも制御不能に陥ったバスによって、その命を絶ちました。そして今、死後の世界であるこの場へと送られてきたのです。私は...そうですね。神みたいなものだと思ってください。』
...やっぱり私は死んだのね。
どこか納得している自分もいるけど、まだまだこれからだという時に死んでしまったことが悔やまれる。
なにより家族や友人達に、悲しんでほしくない。
と思っていると。
『貴女が望むのであれば、地球から貴女の存在を無かったことにすることができますが、どうされますか?』
心を読んだのか、神様?はそう尋ねてきた。
「そんなことができるの?」
『はい。これでも神ですから、それくらいのことは可能です。若くして亡くなられた貴女への、私なりの贈り物です。』
「なら、ありがたくそうしてもらうわ。」
『承知しました。...これで地球から貴女の存在は無かったことになりました。』
「はやっ!?そんな簡単にできることなのね。」
でもまあ、それなら良かったわ。
だけど、まだ1つ疑問に思うことがある。
「ねえ。私はこれからどうなるの?やっぱり天国みたいな所にいくのかしら。」
私が質問すると、少し前を置いた後に答えが返ってきた。
『はい。それも可能です。他には、記憶を消してまた地球に転生したり、異世界に転生したりすることが出来ます。』
なるほど、天国にいったり、地球に天性したり、異世界に...ん?異世界!?
「えっ!?転生?異世界に行けるの!?」
『え、ええ、その場合地球とは違い、危険な場所となりますので、ある程度ならば望んだ物を授けての転生となります。』
何故か少し引き気味に答えた神様は置いておくとして
まさかそんなことができるなんて。これは異世界に転生するしかないでしょ!
『分かりました。では異世界の説明ですが、日本に存在するファンタジーな世界だと思ってくれて構いません。次に特典ですが、どのような能力をお望みでしょうか。』
ファンタジーの世界で望むものなんて私には1つしかない。
「ものすごい力を持った勇者になりたいわ!」
すると何故かしばらく沈黙し、不審に思っている私に神様はこう言った。
『申し訳ありませんが。それは出来ません。』
え?
「えええええええええぇぇぇ!?な、なんで!?なんでなの!?」
折角勇者になって冒険とかして、魔王を倒したりなんかして英雄になって、可愛い女の子達からキャーキャー言われたいという私の願いが叶うかもしれなかったのに!ハーレム作れると思ったのに!
『お、落ち着いてください。あのですね。ここ数年異世界に転生したいと言う方が急増しておりまして、勇者やその他様々な能力を望まれるのです。』
「それがどうして私が勇者になれないことと繋がるのですか!?」
いけないいけない。あまりのショックでつい語気が強くなってしまった。少し落ち着かないとね。
『実は、私はまだ新人の神でして、まだそこまで力を持っていないのです。なので恥ずかしながら、あまり大きな力を与え続けることは出来ないのです。貴女の前に転生していった方に勇者としての力を授けたのですが、勇者となれるほどの能力はその方に与えたもので最後でして。』
.......
「何?つまり行列のできる店の人気商品を買いに来たけど、私の前に並んでいた人が買ったものが最後の品で、残念ながら売り切れですみたいな、そういうことだっていうの!?」
『は、はい。簡単に言うとそういうことになります。すみません。』
まあなんということでしょう。一度も会ったことはないけれどこの神様を少し殴りたくなってきましたわ。オホホホホ
落ち着け私。争いは何も生まない。
うん。落ち着いた。まあたとえ勇者になれなかったとしても。強力な力を授かることはできるのよ。例えば古代の魔法をガンガン使える魔法使いだったり。何でも斬り裂く剣士だったり。どんな攻撃も効かないファイターだったり。
『あ、あのー』
「ん?何?」
『大変申し訳にくいのですが...貴女が考えている職業も、他の方々に与えてしまっていて、貴女に授けることは出来ないのです』
なんか...もういいや。
「じゃあ残りものでいいから...どんな能力ならあるの?」
『はい、人間の職業としてあるのは盗賊ですね。魔族や吸血鬼、その他亜人等に転生するのならばいくらでも差し上げるのですが、あまり転生者の方々に人気がないので...』
予想以上に選択肢がなくて私びっくりです。
でもやっぱり人間として転生したいし、盗賊かな。
『参考までに、例えば魔族なら魔法に長けているなど、種族によって得意な能力などもあります。また、盗賊スキルに優れている亜人なんかにも生まれ変わることができますよ。因みに容姿、性別、年齢などは貴女の好みで設定出来ます。』
今、さらっと聞き捨てならない言葉が聞こえてきたような。
「え、じゃあ例えば見た目人間にしか見えない美少女の魔族なんかになったりできるの?」
『はい。可能です。』
なんだ、それなら魔族がいいかもしれない。魔法とか使ってみたいし。
ん?というか
「亜人が人気ないって言ってたけど、それって神様が容姿を変更できることを伝えていなかったからなんじゃ?」
『あっ......いえ、そんなことはありませんよ』
おい、今あって、あって。
この神様本当に大丈夫なのかしら。まあいいけど。
『コホン...では決まったみたいなのでほしい能力を言って下さい。』
「アッウン。えっと、残りものではあるけど、盗賊スキルは便利そうだからありがたく頂くわ。年齢、性別は今と同じ、種族は魔族で、容姿は...そうね。完全に人間と同じで、とびっきりの美少女にしてくれる?」
『承りました。では転生すぐに転生の準備に入ります。宜しいですか?」
「ええ、いいわ」
なんだか急展開すぎるような気もするけど、折角もらえる第二の命なんだから存分に楽しまないとね!
そう意気込んだ直後、私の体は光に包まれた。
この小説を手に取っていただきありがとうございます。
最初なので色々と詰め込みましたが、ほのぼのとしたファンタジー物にしていくつもりです。
そのうち百合も入れていく予定です。
更新は不定期ですが、頑張って面白いものを作っていきたいと思っています。