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夢うつらうつら

掲載日:2014/06/01

 人は夢を見ます。

 もしかしたらあなたは、現実と夢の区別がつかなくなっているかもしれません。

 この男性のように……。




 ジリリリリッ! ジリリリリッ!

 目覚まし時計が鳴っている。

 ジリリリリッ! ジリリリリッ!

 朝だ……。

 俺は目覚まし時計を止めた。

「よっこらしょ!」

 掛け声とともに上体を起こす。

 俺は独り暮らしだ。

 1LDKの狭い部屋に住んでいる。

 枕元にあるケータイを手にとって、メールを確認する。

 恵から1件だけきていた。

『明日はデートなんだから遅刻しないでよね!』

 時間を見る。

 まだ7時だ。

 待ち合わせの時間まであと2時間ある。

 俺は朝食を用意して、手軽に済ませる。

 待ち合わせ場所までは少し遠いので、早めに出なきゃならないからだ。

 さっさと着替えて用意を済ませると、俺は家を出た。



 俺が待ち合わせの30分前に着くと、恵も同じタイミングでやって来た。

「あら早いじゃん。いつもギリギリなのに」

「今日は早起きだったからな。じゃあ行くか」

「お店全然空いてないけどね……」

「しまった!」

 俺は頭を抱えた。

 そうだ……。ここら辺は9時から開く店ばかりだった。

「じゃあどうする? コンビニで立ち読みでもする?」

「あんたそれデートの時にやってもいいと思ってる?」

「ですよねー……」

 しかたなく、俺たちはブラブラと歩き出すことにした。



「映画って何時からだっけ?」

 恵が昼食のハンバーガーを食べながら聞いてきた。

「2時くらい」

「くらいってなによ。ちゃんと調べてきなさいよ」

「まあ2時に行けば間に合うよ」

「はぁ……、まったく……」

恵はため息をついた。

「なにニヤニヤみてるのよ」

「いや、幸せだなと思って」

 俺がそう言うと恵は赤くなって、顔を背ける。

「恵」

「な、なによ……」

「あとで大事な話があるんだけど。聞いてくれる?」

「うん……」

 恵は頷くとそのまま赤くなってうつむいた。

 多分恵の想像通りだ。

 俺はこのデートが終わったら、恵に結婚を申し込もうと思ってる。

 右手でポケットにある小さな箱を触った。



「あー、映画面白かったー!」

 恵はそう言いつつ背伸びをした。

 今、デートが終わって恵を家に送り届けてる最中だ。

 俺たちは住宅街を歩いていた。

 もう恵の家の近くだ。

 歩いていると、広い公園があった。

「ちょっと寄らないか?」

 俺が恵を誘うと、恵はこくりと頷いた。

 すると、公園の中から大声がした。

「助けてくれー!」

『え?』

 俺は恵と顔を見合わせると、公園内に走った。

 しかし、誰もいない。

「助けてくれー!」

 声は公園の隅にある公衆トイレから聞こえてきた。

 恵が一足先に走り出す。

 先に恵がトイレの中に入っていった。


「キャーー!」


 恵の叫び声が聞こえた。

「どうした!」

 俺も急いでトイレに入る。


 恵が、帽子を深く被った黒ずくめの男に刺されていた。


「え?」

 俺は何が起こってるのかわからなかった。

 黒ずくめの男は俺に気づくと、裏口から逃げていった。

 恵が床に倒れてる。

「恵!」

 俺が恵に駆け寄って呼び掛けると、恵はうっすらと目を開けた。

「あはは……、私も結婚……したか……った……な……」

 そう言うと恵の意識は途切れた。

「あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああ!」

 俺は泣き叫び続けた。



 ジリリリリッ! ジリリリリッ!

 目覚まし時計が鳴っている。

 ジリリリリッ! ジリリリリッ!

 朝だ……。

 俺は目覚まし時計を止めた。

 枕元にあるケータイを手にとって、メールを確認する。

 恵から1件だけきていた。

『明日はデートなんだから遅刻しないでよね!』

 なんだこれは……。

 夢か……?

 そうか夢だ……。

 悲しすぎて今日の夢を見てるんだ……。

 あのあと恵は病院に運ばれて、すぐに息を引き取った。

 それから俺は警察に呼ばれて事情聴衆を受けて、それでどうやって帰ってきたんだっけ。

 忘れた。

 時計を見る。

 また7時だ。

 夢か……。

 夢なら思いっきり楽しんでやろう。

 そう考えて、俺は家を出た。



『あー、今日は楽しかったー!』

 俺と恵はハモった。

 今、デートが終わって恵を家に送り届ける最中だ。

 すると、また公園が見えてきた。

「待って」

 俺は恵に声をかける。

「なに?」

「違う道を通って帰ろうぜ」

 俺がそう言うと、恵は怪訝そうな顔をした。

「な、なんか違う道を通りたいんだ。ほ、ほら、もう少し長く一緒にいたいっていうか……」

「そ……そっか……」

 恵は顔を赤らめてうつむいた。

 たとえ夢でも、恵が死ぬところはもう二度と見たくない。

 俺たちは違う道で帰ることにした。

 少し歩いていると、俺は現実ではできなかった結婚の約束を、夢でもいいからしたいと思った。

「な、なあ……恵?」

「なに?」

「俺……恵といると幸せなんだ……」

「う、うん」

「だから結婚━━━」


 ドンッ!


 変な物音に顔を恵のほうに向けると、恵の背中にナイフが刺さっていた。

「な……?」

 刺したらしい帽子を深く被った黒ずくめの男は、そのまま走って逃げていく。

「恵!」

 俺は恵に駆け寄った。

 すると恵はうっすらと目を開けて、にこりと笑った。

「私もね……、幸せだったよ……」

 そう言うと恵は意識を失った。

「あ、あ、あ、ああああああああああ! どうして! どうして夢の中でさえ言わせてくれないんだ! どうして! どうして!」

 俺は泣き叫び続けた。



 ………………。………………。

 目覚ましは鳴らなかった。

 俺は目を覚ます。

 まるで魂がどこかに抜け落ちたみたいだった。

 物を触っているはずなのに、感触がない。

 全てが色を失って見えた。

 ケータイが鳴っている。

 見ると恵の母親からだった。

「はい……」

 俺は電話に出た。

「ああ、やっと出た……。その……ごめんなさい……。何て言ったらいいかわからないわ……。何度考えても……、ひっく……、言葉が浮かばないの……。あの子が死んでから……、ひっく……、なにも考えられなくて……」

「いいですよ……別に……」

「ごめんなさい……、ひっく……、一応……、ひっく……、式の日程だけ言うわ……」

 そう言って恵の母親は日程だけ伝えると、電話を切った。

 今日は仕事の日だ。

 俺は朝食を食べずに家を出た。



 夕方には家に帰ってきた。

 仕事に身が入らなくて、早退を命じられたからだ。

 俺はそのままなにも食べずに、布団に倒れて寝た。



 ジリリリリッ! ジリリリリッ!

 目覚まし時計が鳴っている。

 ジリリリリッ! ジリリリリッ!

 朝だ……。

 俺は目覚まし時計を止めた。

 枕元にあるケータイを手にとって、メールを確認する。

 恵から1件だけきていた。

『明日はデートなんだから遅刻しないでよね!』

 ああ……、またこの夢か……。

 もう……、俺にはこの夢以外で恵に会うことはできないんだな……。

 そう思うと、自然と怒りと、同時にやる気が込み上げてきた。

 夢の中ならいいじゃないか。

 あの男に復讐してやる。

 そして今度こそ恵にプロポーズするんだ。

 俺はしっかり朝食をとって、服を着替える。

 右ポケットには指輪の箱、左ポケットにはナイフを入れておいた。

 時間を見る。

 7時半だ。

 俺は家を出た。



 俺が待ち合わせの30分前に着くと、恵も同じタイミングでやって来た。

「あら早いじゃん。いつもギリギリなのに」

「今日は早起きだったからな」

「ふーん、まあお店空いてないけど行こっか」

 そう言うと、恵は歩き出そうとした。

「ちょっと待って!」

 俺は呼び止める。

「なに?」

 恵が振り替えった。

「結婚してくれ!」

「え……?」

「俺は恵といると幸せだ! 絶対に別れたくない! だから! このまま一生一緒にいてくれ!」

 やった……。とうとう言えた……。言えたんだ……! よかった……!

 恵は恥ずかしそうにうつむくと、モジモジしながら言った。

「こちらこそ……、よろしくお願いします……」

 恵の返事を聞いたら、俺は右ポケットに入っている指輪を渡した。

「これ……」

 恵は驚いたようだ。

「あはは、プレゼントだよ」

「…………ありがと」

 恵はまた赤くなって顔を伏せた。

 これで俺の夢が一つ叶った。



『はー、楽しかったー!』

 俺と恵はハモった。

 今、デートが終わって恵を家に送り届ける最中だ。

 すると、また公園が見えてきた。

 だけどもう迷わない。

 この公園に必ずあいつがいる。

 俺は恵と話ながら、公園の中を見た。

 いた。

 帽子を深く被った黒ずくめのあの男だ。

 俺は止まった。

「どうしたの?」

 恵が俺の顔を除き混んでくる。

 俺はニコッと笑いながら言った。

「俺は恵さえ生きていてくれれば、それだけで幸せだ。本当はもっと一緒にいたかった。もっと一緒に笑いたかった。もっと一緒に泣きたかった。もっと一緒に喧嘩したかった。だけどお別れだ」

「え……?」

 俺は公園の中に走った。

 男に狙いを定めると、左ポケットからナイフを取り出して突進する。

 俺は男を刺した。

 これで俺の二つ目の夢が叶った。



『今日午後5時頃、〇〇県◇◇市の公園で、刃物を持った男が被害者の男性を刺しました。現場近くには男の他に、男の彼女とみられる女性がいて、警察は事情聴衆をしているところです』




 このように、あなたも現実と夢の区別がつかなくなっているかもしれません。

 ほら、これを見ているあなたは実は夢の中かもしれませんよ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 同じ場面を何度も繰り返しているのが良いと思います。読んでいる内に次はどうなるのか、と思うと面白いですね。 [気になる点] 文句無しです。ていうか言う資格がありません。 [一言] もし執筆を…
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