夢うつらうつら
人は夢を見ます。
もしかしたらあなたは、現実と夢の区別がつかなくなっているかもしれません。
この男性のように……。
ジリリリリッ! ジリリリリッ!
目覚まし時計が鳴っている。
ジリリリリッ! ジリリリリッ!
朝だ……。
俺は目覚まし時計を止めた。
「よっこらしょ!」
掛け声とともに上体を起こす。
俺は独り暮らしだ。
1LDKの狭い部屋に住んでいる。
枕元にあるケータイを手にとって、メールを確認する。
恵から1件だけきていた。
『明日はデートなんだから遅刻しないでよね!』
時間を見る。
まだ7時だ。
待ち合わせの時間まであと2時間ある。
俺は朝食を用意して、手軽に済ませる。
待ち合わせ場所までは少し遠いので、早めに出なきゃならないからだ。
さっさと着替えて用意を済ませると、俺は家を出た。
俺が待ち合わせの30分前に着くと、恵も同じタイミングでやって来た。
「あら早いじゃん。いつもギリギリなのに」
「今日は早起きだったからな。じゃあ行くか」
「お店全然空いてないけどね……」
「しまった!」
俺は頭を抱えた。
そうだ……。ここら辺は9時から開く店ばかりだった。
「じゃあどうする? コンビニで立ち読みでもする?」
「あんたそれデートの時にやってもいいと思ってる?」
「ですよねー……」
しかたなく、俺たちはブラブラと歩き出すことにした。
「映画って何時からだっけ?」
恵が昼食のハンバーガーを食べながら聞いてきた。
「2時くらい」
「くらいってなによ。ちゃんと調べてきなさいよ」
「まあ2時に行けば間に合うよ」
「はぁ……、まったく……」
恵はため息をついた。
「なにニヤニヤみてるのよ」
「いや、幸せだなと思って」
俺がそう言うと恵は赤くなって、顔を背ける。
「恵」
「な、なによ……」
「あとで大事な話があるんだけど。聞いてくれる?」
「うん……」
恵は頷くとそのまま赤くなってうつむいた。
多分恵の想像通りだ。
俺はこのデートが終わったら、恵に結婚を申し込もうと思ってる。
右手でポケットにある小さな箱を触った。
「あー、映画面白かったー!」
恵はそう言いつつ背伸びをした。
今、デートが終わって恵を家に送り届けてる最中だ。
俺たちは住宅街を歩いていた。
もう恵の家の近くだ。
歩いていると、広い公園があった。
「ちょっと寄らないか?」
俺が恵を誘うと、恵はこくりと頷いた。
すると、公園の中から大声がした。
「助けてくれー!」
『え?』
俺は恵と顔を見合わせると、公園内に走った。
しかし、誰もいない。
「助けてくれー!」
声は公園の隅にある公衆トイレから聞こえてきた。
恵が一足先に走り出す。
先に恵がトイレの中に入っていった。
「キャーー!」
恵の叫び声が聞こえた。
「どうした!」
俺も急いでトイレに入る。
恵が、帽子を深く被った黒ずくめの男に刺されていた。
「え?」
俺は何が起こってるのかわからなかった。
黒ずくめの男は俺に気づくと、裏口から逃げていった。
恵が床に倒れてる。
「恵!」
俺が恵に駆け寄って呼び掛けると、恵はうっすらと目を開けた。
「あはは……、私も結婚……したか……った……な……」
そう言うと恵の意識は途切れた。
「あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああ!」
俺は泣き叫び続けた。
ジリリリリッ! ジリリリリッ!
目覚まし時計が鳴っている。
ジリリリリッ! ジリリリリッ!
朝だ……。
俺は目覚まし時計を止めた。
枕元にあるケータイを手にとって、メールを確認する。
恵から1件だけきていた。
『明日はデートなんだから遅刻しないでよね!』
なんだこれは……。
夢か……?
そうか夢だ……。
悲しすぎて今日の夢を見てるんだ……。
あのあと恵は病院に運ばれて、すぐに息を引き取った。
それから俺は警察に呼ばれて事情聴衆を受けて、それでどうやって帰ってきたんだっけ。
忘れた。
時計を見る。
また7時だ。
夢か……。
夢なら思いっきり楽しんでやろう。
そう考えて、俺は家を出た。
『あー、今日は楽しかったー!』
俺と恵はハモった。
今、デートが終わって恵を家に送り届ける最中だ。
すると、また公園が見えてきた。
「待って」
俺は恵に声をかける。
「なに?」
「違う道を通って帰ろうぜ」
俺がそう言うと、恵は怪訝そうな顔をした。
「な、なんか違う道を通りたいんだ。ほ、ほら、もう少し長く一緒にいたいっていうか……」
「そ……そっか……」
恵は顔を赤らめてうつむいた。
たとえ夢でも、恵が死ぬところはもう二度と見たくない。
俺たちは違う道で帰ることにした。
少し歩いていると、俺は現実ではできなかった結婚の約束を、夢でもいいからしたいと思った。
「な、なあ……恵?」
「なに?」
「俺……恵といると幸せなんだ……」
「う、うん」
「だから結婚━━━」
ドンッ!
変な物音に顔を恵のほうに向けると、恵の背中にナイフが刺さっていた。
「な……?」
刺したらしい帽子を深く被った黒ずくめの男は、そのまま走って逃げていく。
「恵!」
俺は恵に駆け寄った。
すると恵はうっすらと目を開けて、にこりと笑った。
「私もね……、幸せだったよ……」
そう言うと恵は意識を失った。
「あ、あ、あ、ああああああああああ! どうして! どうして夢の中でさえ言わせてくれないんだ! どうして! どうして!」
俺は泣き叫び続けた。
………………。………………。
目覚ましは鳴らなかった。
俺は目を覚ます。
まるで魂がどこかに抜け落ちたみたいだった。
物を触っているはずなのに、感触がない。
全てが色を失って見えた。
ケータイが鳴っている。
見ると恵の母親からだった。
「はい……」
俺は電話に出た。
「ああ、やっと出た……。その……ごめんなさい……。何て言ったらいいかわからないわ……。何度考えても……、ひっく……、言葉が浮かばないの……。あの子が死んでから……、ひっく……、なにも考えられなくて……」
「いいですよ……別に……」
「ごめんなさい……、ひっく……、一応……、ひっく……、式の日程だけ言うわ……」
そう言って恵の母親は日程だけ伝えると、電話を切った。
今日は仕事の日だ。
俺は朝食を食べずに家を出た。
夕方には家に帰ってきた。
仕事に身が入らなくて、早退を命じられたからだ。
俺はそのままなにも食べずに、布団に倒れて寝た。
ジリリリリッ! ジリリリリッ!
目覚まし時計が鳴っている。
ジリリリリッ! ジリリリリッ!
朝だ……。
俺は目覚まし時計を止めた。
枕元にあるケータイを手にとって、メールを確認する。
恵から1件だけきていた。
『明日はデートなんだから遅刻しないでよね!』
ああ……、またこの夢か……。
もう……、俺にはこの夢以外で恵に会うことはできないんだな……。
そう思うと、自然と怒りと、同時にやる気が込み上げてきた。
夢の中ならいいじゃないか。
あの男に復讐してやる。
そして今度こそ恵にプロポーズするんだ。
俺はしっかり朝食をとって、服を着替える。
右ポケットには指輪の箱、左ポケットにはナイフを入れておいた。
時間を見る。
7時半だ。
俺は家を出た。
俺が待ち合わせの30分前に着くと、恵も同じタイミングでやって来た。
「あら早いじゃん。いつもギリギリなのに」
「今日は早起きだったからな」
「ふーん、まあお店空いてないけど行こっか」
そう言うと、恵は歩き出そうとした。
「ちょっと待って!」
俺は呼び止める。
「なに?」
恵が振り替えった。
「結婚してくれ!」
「え……?」
「俺は恵といると幸せだ! 絶対に別れたくない! だから! このまま一生一緒にいてくれ!」
やった……。とうとう言えた……。言えたんだ……! よかった……!
恵は恥ずかしそうにうつむくと、モジモジしながら言った。
「こちらこそ……、よろしくお願いします……」
恵の返事を聞いたら、俺は右ポケットに入っている指輪を渡した。
「これ……」
恵は驚いたようだ。
「あはは、プレゼントだよ」
「…………ありがと」
恵はまた赤くなって顔を伏せた。
これで俺の夢が一つ叶った。
『はー、楽しかったー!』
俺と恵はハモった。
今、デートが終わって恵を家に送り届ける最中だ。
すると、また公園が見えてきた。
だけどもう迷わない。
この公園に必ずあいつがいる。
俺は恵と話ながら、公園の中を見た。
いた。
帽子を深く被った黒ずくめのあの男だ。
俺は止まった。
「どうしたの?」
恵が俺の顔を除き混んでくる。
俺はニコッと笑いながら言った。
「俺は恵さえ生きていてくれれば、それだけで幸せだ。本当はもっと一緒にいたかった。もっと一緒に笑いたかった。もっと一緒に泣きたかった。もっと一緒に喧嘩したかった。だけどお別れだ」
「え……?」
俺は公園の中に走った。
男に狙いを定めると、左ポケットからナイフを取り出して突進する。
俺は男を刺した。
これで俺の二つ目の夢が叶った。
『今日午後5時頃、〇〇県◇◇市の公園で、刃物を持った男が被害者の男性を刺しました。現場近くには男の他に、男の彼女とみられる女性がいて、警察は事情聴衆をしているところです』
このように、あなたも現実と夢の区別がつかなくなっているかもしれません。
ほら、これを見ているあなたは実は夢の中かもしれませんよ?




