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魔王の娘と異世界拉致された俺  作者: きしかわ
連れ去られまして異世界編
8/19

8話 俺のニヤけ顔を返して!返してよ!

「ご利用ありがとうざいました。またお越しくださいませ」

「うむ。世話になったの」「ありがとうございましたー」


翌朝、宿で出された朝食――鶏肉っぽい味のする肉とかパンとか――を終えた後、深々と頭を下げる素敵シルバーに見送られ、俺とシアは宿屋を後にした。

昨晩はお楽しみでしたね、とは言ってくれなかった。当たり前だ。

これから俺達はカナさんの住むササキの森へと向かうことになる。

「おー、結構人いるんだね」

外に出ると意外にも人通りが多い。旅の準備を整えるために食料などの買出しをしつつ町中を歩くと、人の途切れる瞬間というものが全くない。

どころか店を構える商店主の客寄せや、それに応える客の声などが絶えず聞こえてくる。

昨夜到着したときには静まり返っていた町とは思えない活気だ。

町自体があまり大きくないようだったから、これはとても意外だ。

辺りを見回せば商人らしき衣服に身を包んだ者や(というよりは売り物らしき物品を積み込んだ荷馬車を引き連れているのでそれで判断した)、革鎧や金属鎧を着込んだ冒険者ちっくな者(大半が武器を携えているので、そうと分かる)、簡素な布服の町民など(要するに職種の判明しない方々)、様々な人々が居る。

人種も多種多様……間違えました。

種族も多岐に渡っているようで、普通の人間も居れば、明らかに人間ではない者もいる。

具体的には、ネコミミを頭にくっつけた巨漢だとか、鳥みたいな羽を背中から生やした巨漢だとか、やたら扇情的な衣装の筋骨隆々の巨漢だとか。

いやごめんなさい、何かインパクト強いのばかりに目が行っただけです。

だって彼ら滅茶苦茶イイ笑顔浮かべながら歩いてたんだもの。身長も視界を占める面積も大きかったから否応なく脳裏に焼き付いたんですもの!

ともあれ、実際にこうして元の世界では有り得ない種族さん方を目にして、改めてここが異世界なんだと思い知った。

巨漢Aのネコミミは作り物ではない感じでピクピクしていたし、巨漢Bの羽も風に揺られている訳でもないのにピクピク動くし、筋骨隆々の巨漢Cの乳首もピクピク……うげえええ。

気を取り直して。

彼らの人外的特徴は、間違いなくコスプレではない。

シアのツノとかはむしろ可愛い部類だったのだと思い知る。

プチ未知との初遭遇に驚愕するかと思いきや、自分でも意外なことに「スゲー、異世界だー」程度で済んでいる。

たぶん昨晩サラマンドラ氏と会話したことで常識回線が何本か焼き切れたに違いない。

火精霊だけに。トカゲと話す機会なんて普通に生きてたら絶対に訪れないと思うよ……。

ちなみにサラマンドラ氏は大人しく寝れば燃やさない宣言をきちんと守ってくれ、俺は五体満足で朝日を拝むことが出来ました。ありがとうトカゲ。

サラマンドラ氏は、シアが目覚めたのを見届けたら光の粒になって虚空へと消えていきました。それまで隙を全く見せなかったあたりトカゲガードは鉄壁っぽいです。

「このサンボの町は商業国家コトナシとの国境にあるからの。商人を中心にして人の行き来は割かし盛んじゃよ。この町はこれからどんどん栄えるじゃろうな」

「へえ……。人間と魔族の間でいがみ合いとか起こったりしないの?国外から人間が来るわけだし、ドミトリス国民の思惑がどこにあれ……問題が起こりかねないような気がするんだけど」

「確かに多少はあるがの。それでも商人という者はたくましくてのう、商売のためにならないことはせんよ。そもそも魔族の暮らす地であるドミトリスに入国するような者共じゃ、商人ではなくとも魔族から疎まれるような真似はすまいよ」

ドミトリスに工作を仕掛けようとする者なら別じゃろうがな、とシアはクククと笑った。

笑ってていいんですかそれ。色々対策打つべきじゃないんでしょうか。

俺のそんな疑問を読み取ったようで、シアが説明をしてくれた。

「クルニア大陸の3強国の1つにドミトリスが数えられておると昨日言ったじゃろ?」

「あー、そんなこと言ってたね」

確かに言ってた気がしますが。あの時はシアを電波ちゃんだと思ってたので、まともに取り合ってませんでした。とは口が裂けても言えない。

「ドミトリスが強国足り得る理由の1つとして、魔族自体の戦闘能力の他に大きな要素があるのじゃよ」

「へ?てっきり魔族さんが武力無双するもんだから強国になったものとばかり」

それと魔族さん方の結束力が云々ってのもあるんだろうなとは考えていたが。

「それはの……」

そこでシアは声をやや潜めた。

「我が妹、オリカレッテの風精霊によってドミトリスの治安は保たれておるのじゃよ。オリカは私と違って複数種類の属性の精霊を使役出来ぬが、風精霊の使役に関しては史上最高と言っても差支えのない精霊術師じゃ。この国の都市で何かを企めば、途端にオリカの風精霊がそれを感知してたちまちの内に陰謀は明るみに出るのじゃ」

「なにそれ怖い」

風精霊とか、その運用方法とかはよく分からないが、スケールがやたら大きいことは伝わってくる。

ドミトリスの領土がどれだけ広いかも知らないが、強国と言われるのならば小さいということはあるまい。

それを単身の力で可能とするオリカレッテさんも凄いが、精霊術というファンタジー技能の常識外の威力には脱帽するしかない。

「とはいえ、ある一定の単語だけを拾い出して反応する仕組みなんじゃがな。具体的な単語は国家機密じゃから言わぬがの。完璧ではないが、十全にほぼ近いレベルで国を守ることが出来る。国を落とすならまずは都市から落とす必要があるからの、そこに精霊を配置するだけで事足りはするのじゃ。……この仕組みのせいでササキの森に押し入るような企みは分からぬのじゃが」

「……精霊術、半端ないなあ」

強大な力を持つ精霊術という能力をぼんやりと考え、サラマンドラ氏が浮かんできたので考えるのをやめた。

爬虫類に守られている国って何か嫌でした。



◇◇◇



それから何件かの店を周り(ちょっとしたデート気分でした。俺だけが)、旅支度を終えると、俺とシアはサンボの町を出た。

ここからササキの森までは徒歩で行くこととなる。

ついでに、俺達の他に旅路に一匹が加わっている。

町から出る前に、シアが馬のような生き物を調達していた。

馬と簡単に言い切れないのは、見た目は馬なのだが、この生き物の皮膚は真っ黒く目が煌々と赤く輝いているからだ。

ブルヒヒーンと馬じみた鳴き声をあげるものの、吐息が明らかに毒霧っぽい色をしている。

なんでしょうねこのヤバ気な生き物。

トーヤは馬に乗れるか?とコイツを前にして訊かれたものの、俺は首がもげる勢いで横に振った。

俺に乗馬経験なんて無いですし、コイツ真っ当な馬ですら無いですもん。

シアが言うにはコイツはシャドウホースと呼ばれる種族のモンスターらしい。


あ、魔族とモンスターは決定的に違うらしいです。

知性があり文明を築くことが出来るのが魔族で、獣の強化版みたいなのがモンスターとのことでした。

シアさん談。


シャドウホースはモンスターの中でも人(魔族も含まれますが、いちいち使い分けると面倒なので人と表現することにしました!)に懐き易く普通の馬より体力もあるため、ドミトリスでは重宝されているとか。

そんなシャドウホースはいま、背中に買いだした荷物を載せられ、俺に手綱を引かれて後ろを付いてくる。

後頭部に毒霧が噴きかけられぬように注意しつつ、風向きにも気を払って俺は歩く。

俺が風下になったら最後、あの毒霧が俺の後頭部に襲いかかる事件が発生することは想像に難くない。

「トーヤが馬に乗れればもっと早く着けたのにのう。馬車が調達出来なかったのも運が悪かったの」

「ちなみにコイツの吐く息って毒あるの?ちょっと風向き変わってきた気がするんだけど。俺が風下方向に」

「シャドウホースは速いぞ。私の見立てたコイツは特にも速そうじゃ。サンボの町で一番の名馬を選んだと自負しておる」

「ねえ息に毒あんの?首の後がピリピリしてきた気がするんだけど」

「馬に乗って街道を駆け抜けるのは気持ちがいいのじゃぞ」

「な、なあ毒……」

「そういえばサラマンドラから聞いたぞ。おぬし、精霊術の素養があるそうじゃな」

「トカゲじゃなくて俺の話を聞けよ!!」

俺の発言はトカゲ以下の優先度ですか!ぐぎぎサラマンドラ氏……!

人間としての尊厳が問われている!

うるさいのう、とシアはジト目で俺を睨んでくる。

だが負けません!ここで折れたらトカゲに負けた俺とかいう不名誉な立場に陥る気がする!

「……安心せい。シャドウホースの息は無害じゃ。毒霧吐くようなモンスターが馬替わりに使われるわけないじゃろうに」

「あー……それもそうですか……」

ほっと一安心だ。

「して、トーヤ。おぬしは知らぬじゃろうが、精霊術の素養があるというのはこの世界でも珍しいことなのじゃぞ?」

「ほ、ほう……。そうなんですか……?」

思わぬ『あんたは特別』的な情報に、意図せず口元がにやける。

そうですよ!異世界召喚された主人公が特別な力に目覚めるってのはテンプレートですよね!

お約束がしっかり守られててお兄さん嬉しいです!

「前にも説明した気はするが、魔術と違って精霊術というのは生まれつきの才能によるものじゃからの。使えんやつは絶対に使えぬし、後天的に精霊術に目覚めるということもない。そうじゃの、何万人かに一人だけが精霊術を使えるといった割合じゃろうか」

そう言って、シアは腕組をして首を傾げた。

「しかし、精霊術は精霊が好むような魂の清らかさを持った者だけが使えるというのが定説なのじゃがなあ。おかしいのう。召喚されたときにパスでも繋がったか……?」

あっれ、これって言外に俺がそんなに綺麗な魂を持ってる訳ねーだろとか言われてますか。言われてるんでしょうね。

失礼千万である。酷い言い草にも程がある。

「俺ほど純真で紳士精神溢れた若者を捕まえておいて何を言いますか!シアが可愛いからってお兄さん許しませんからね!」

「え、なに?トーヤほど露骨で情欲まみれの馬鹿者じゃと?」

「この世界は悪意に満ちている!!」

「だとしたら、おぬしの居た世界はよほど混沌としておるのじゃろうな」

ブルヒヒン。

シャドウホースが絶妙なタイミングで黒々とした吐息を吐き出す。

おいこらシャドウホース、お前も相槌うってんじゃねーよ!

「ともあれトーヤ。知識もないままに精霊術を使わんことじゃ。精霊術は強大だが、その分、使役する精霊の機嫌を損ねた時には手痛いしっぺ返しを食らうことになるからの」

「なん……だと……」

「これが魔術であれば魔術構成をしくじらなければいいだけの話なんじゃがな。精霊術は精霊から『力を借りる』方法じゃからの。術者が気に入らなければ精霊は言うことを聞かぬし、悪ければ精霊が術者自身を殺そうとする」

「わ、分かったよ。迂闊にサラマンドラ氏とか喚んだりしないようにするよ……」

俺の異世界召喚補正、終了のお知らせです。

いくら凄い力を振るえるとしても、それに多大なリスクが付きまとうとなれば話は別だ。

俺の目的は元の世界に帰ることで、その前に死ぬようなリスキーな行動は慎むのが賢いだろう。

異世界に来て、特別な力を手に入れた!と思ったらこれである。

俺のニヤけ顔を返して!返してよ!

俺は得も言われぬ脱力感に激しく肩を落とした。

落ち込む俺を見て、クスリと声を漏らしたシアが、さも仕方なさそうに言った。

「ま、カナのところまでの道中に危険なところはないしの。道中の退屈凌ぎに簡単な魔術でも教えてやろうかの。せっかく異世界に来たんじゃ、トーヤも魔術など覚えたいじゃろうし」

「シア……!君って奴は……!」

感動した!シアの俺を気遣ってくれるその優しさに俺は感動を禁じ得ない!

なんか含み笑いしてるけど美少女だから許す!

「いいのじゃいいのじゃ。トーヤは異世界からのお客人じゃしの。それに精霊術を使えるほどの才能もあるのじゃし、魔術師としても凄まじい適正を持っておるじゃろうて」

「そ、そうかな?照れるなあ……」





これが落としておいて拾い上げる詐欺まがいの話術だったと気づくのはしばらく後である。

ついでに異世界に拉致された事実がお客様扱いに摩り替えられていた。

精霊術師のご機嫌取りスキル、侮るなかれである。



読んでいただきありがとうございます。


感想やご指摘をいただきまして本当に感謝感激でございます。

お気に入りや評価も多数の方からいただき、作者はビクンビクンしております。

これを励みに頑張りたいと思います。今後もどうぞお付き合いくださいませ。

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