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プロローグ

街の朝は、薄く冷気を纏っていた。


湿気が耐えきれず雫となり壁を伝う。


澄んだ空気に乗って、機械の唸りが静かに聞こえてくる。




決して、絶える事なく。



「…ん」


唸りの高まりを感じ、僕は目を覚ました。

毛布の裏側の、熱と湿気を帯びた空気が少し心地よい。



少し、喉がイガイガする。

部屋の隅を見ると、循環機の回転が止まっていた。




「カイ、起きたの?」


パチ、という音と共に静かな声が聞こえた。



天井の照明結晶が数回の明滅の後、淡い琥珀色の光を部屋に落とし始める。



「わ、機械止まってる。故障かしら…」


僕は起き上がりながら、声の主の方を向いた。

扉を半分ほど開け、細身の女性が顔を覗かせている。


いつもより、かなり体調が良さそうな顔だ。



「おはよう、母さん」


母は、僕の顔を見て微笑んだ。


「うん、おはよう」





母は部屋に入り、すぐ隣にある窓を開けた。

外の空気が部屋に混ざり、淀みが消えてゆく。


「体調、大丈夫?」


「大丈夫だよ。多分、昨日付け忘れたんだ」


寝る前は特に気にならないから、たまに循環機を付けるのを忘れてしまう。


多少喉の調子は気になるが、外の空気を吸っているうちに良くなってくるだろう。




母は循環機の故障を確認していたが、僕の言葉にそっかそっか、と返し、


「ご飯、出来てるから準備したら一緒に食べましょ」

と言って部屋を出て行った。





「今日は…巡回の日か」

寝起きの頭を動かしながら立ち上がり、出かける準備を始めた。


一通り支度が終わり、最後に窓横に設置してある棚からペンダントを取る。




その時、ふと窓枠に手をかけ外を見た。







変わらない街の光景。


天に輝く光はなく、立ち並ぶ街灯が行く人を照らしている。


空に浮かぶ光の存在しない、薄明の街。



「いい匂いがするな…」


僕は窓枠から手を外し、匂いのありかに向けて部屋を出た。







この街には、朝はない。


それでも、人々は『朝』を迎える。




プロローグ 『朝』



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