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タイトルに偽りなしシリーズ

大量生産に反対した頑固職人は追放される 〜俺の工房がそちらより繁盛したからと言って後悔して今更すり寄ってきてももう遅い!

掲載日:2025/12/28

「おい! どう言う事だ! 機械なんぞを入れて大量生産をするとか聞いたぞ!」

怒鳴り込んで来たアドニス武具工房の最古参職人であるバルカスに、二代目工房主たるアドリアン・アドニスは頭痛を堪えるような表情で溜息を一つついた。

「はあ……。それがどうした。今のご時世、顧客は安い品を求めている。ならば人手を減らして生産効率を上げる機械化は当然だろう?」

「馬鹿を言うな! 武器ってのは戦士の相棒だ! 職人の手で丁寧に作られた物にこそ魂が宿る! 大量生産品に魂はあるか!? 一人一人の手に馴染む品が作れるのか!? 職人の手による作品こそが真の武器だ!」

激昂するバルカスに、アドリアンは小馬鹿にしたような笑みを浮かべ反論する。

「相棒? 魂が宿る? 馬鹿馬鹿しい。武器は道具だ。戦い、敵を倒す為に必要なただのツールに過ぎない。作品? 芸術家にでもなったつもりか? 必要なのは性能であり、それに見合った値段だろう。」

「なっ……!! テメェッ! ふざけ……」

「ふざけているのはお前だバルカス」

更に怒りを表すバルカスに、しかしアドリアンは冷たい視線を向ける。

「父が亡くなり工房を受け継いだ以上、責任者は私だ。工房の方針は私が決める。そしてお前は一介の雇われ職人に過ぎない。営業方針に口を出すのは僭越だぞ」

「んなっ!」

アドリアンの言葉に怯むバルカス。だがバルカスは歯を食いしばりアドリアンを睨みつけてなおも言葉を続ける。

「……ふざけるなよ。誰が工房で武器を作っていると思ってるんだ。たとえ工房主でも職人を無視してただで済むと……」

だがアドリアンはその言葉を鼻で笑い飛ばす。

「馬鹿馬鹿しい。言ったろう? 機械化で人手を減らすと。

……どうやら我が工房の方針に君は従えないようだな。残念だよバルカス。今まで工房に貢献してくれていた君を切り捨てねばならないとはね」

全く残念そうではないアドリアンに、思わず殴りかかりそうになるバルカス。だがここで暴力に頼れば自分が悪役となると思いとどまり、憎々しげに睨みつけて吐き捨てるように言う。

「そうかよ……。はっ! こっちの方から辞めさせてもらうぜ! だがなアドリアン。職人の丁寧な仕事を否定して安易な大量生産に踏み切った事、いずれ後悔する事になるぜ!」

そう言うとバルカスは(きびす)を返して事務所から出ていく。

「いいんですか?」

その様子を見ていた事務員が恐る恐るアドリアンへ尋ねる。

「構わん。……正直な話、機械化は作業手順を大幅に変える。給料の高い熟練職人よりも頭が柔らかく人件費の安い新人を育成を優先させたい。なによりあの旧来の手法へのこだわりとプライドの高さは邪魔だ」

冷徹にバルカスを切り捨てると何事もなかったかのように書類仕事に戻るアドリアン。それを聞いた事務員達は顔を見合わせるが結局何も言わず仕事に戻るのだった。


この一件により町には二つの武具工房が出来た。

一つは老舗ながらも機械化により安価な武具を提供するようになったアドニス工房。

そしてもう一つは独立したバルカスによる高品質で使い手に寄り添った武具を作る工房だ。

最初は品質の違いから棲み分けができてお互いにそれなりに繁盛していた。だが時間とともに二つの工房には明確な差が出てきて、片方は明らかに客が寄り付かなくなってきた。

「何でだ! 何で客がこねぇ!」

そう、それはあのバルカスの工房。普通なろう小説では追放された側が繁盛し、追放した側が没落するのだが、今回は全く逆の状態になっているのである。

頭を掻きむしるバルカス。ふと気になって今まで避けていたアドニス工房の武具店へと足を向ける。

「こ、こいつは……」

そこに売られていたのは安価ながらも品質の高い武具の数々。

「馬鹿な……この値段でこんな質の武器が出来る訳が……」

「それが企業努力と言うものだバルカス」

そんなバルカスの様子を見ていたのか店の奥からアドリアンが顔を見せる。

そう、アドリアンはただ安いだけの武器を作ったのではない。安くて高品質な武器を目指していたのだ。

原材料の大量仕入れに高炉導入によるインゴットの大量生産。更に精錬や運搬、製造、販売を同一資本で一括で行う事によるコストカット。無論機械化による省力化も販売価格の低下に貢献している。

そして分業による専門化と大量生産による鍛治スキルの熟練度の蓄積は、新人達をあっという間にその専門分野においては熟練職人レベルへと引き上げ、生産品の品質を上質なものへと引き上げた。

とどめにそうやって上げた利益を注ぎ込んで研究部門を設立。新技術や新合金の開発を行い更なる効率化や質の上昇に成功した。

安く高品質な武器は新人冒険者はもちろん、質が揃っていて安いと言う事で領主からも注目され、領軍の制式装備として採用された。

そして一度アドニス工房の武器を使った者はその圧倒的なコストパフォーマンスにそれを愛用し続ける事になる。

一方でバルカスの工房は確かに品質は良い。だが手間をかけている分、当然値段が高い。更に注文やメンテナンスを頼むと出来上がりまで時間がかかる。これは冒険者にとってその間武器が使えない事を意味し、当然その間の収入がないことになる。

対してアドニス工房にはいつも同質で同じ使い勝手の武器が置いてあり、メンテナンスも回転砥石などであっという間に済ませてくれるのだ。利便性と言う意味でもその差は圧倒的だ。なにより、

「新人冒険者が安価で高品質な武具を手に入れられると言う事は死亡率を大幅に下げられると言う事だ。

今まで質の悪い武具しか手に入れられず、無駄にその命を散らして行った彼らを救う事が出来るのだ!」

拳を握りしめてその内心を明らかにするアドリアン。そう、彼のこの情熱こそがこの工房が顧客に支持される最大の理由なのだ。

かつて冒険者を目指した友人、それが金が無くて安い中古の武器を使っていて、戦いの最中(さなか)折れて死に至った事が彼を突き動かしていた。工房主の息子である彼が武器を渡そうとしても「友人から高価な物を施されたくない」と拒否した友人の笑顔が彼は忘れられなかった。もっと安く、もっと高品質な武器を。あの友人のような者を二度と出さない。それが若き日のアドリアンの誓いだった。

冷徹な経営者だと思っていたアドリアンの思わぬ熱い想いに圧倒されるバルカス。

「……アンタがそんな想いを持っていたとはな……。なあ、俺をもう一度アドニス工房で働かせて……」

「断る」

殊勝な態度を取るバルカスの言葉を、だがアドリアンは一言で切り捨てる。

「お前の工房が借金まみれなのは知っている。そして自分の納得できない仕事は決して受けない事も。

……かつてお前は自分の作った武器を作品と言っていたな。私が必要としているのは自己満足の芸術作品ではなく、戦士が己の命を守り、敵を屠る為のただの道具だ。

自分の仕事がうまく行かず、こちらが成功した事で心が折れたのだろうが今更そんな事を言ってももう遅い。お前の居場所はアドニス工房にはもう無い」

そう言ってアドリアンはバルカスを睨みつけ、更に言葉を重ねる。

「……忘れんぞ、貴様が「新人なんぞに俺の武器は勿体無い」と言って注文を拒否したのを。新人が良い武器を求める事の何が悪い! ましてや充分な対価を用意しているのに何様のつもりだ! 貴様のような勘違いした職人を私は決して許さない!」

その言葉に膝から崩れ落ちるバルカス。周りの客が彼を見る目は冷たい。アドリアンはその様子を見ると興味をなくしたように再び店のバックヤードへと戻っていった。


しばらく後、この町の武具工房は一軒だけになった事は言うまでもない。

いったい何時から後悔するのが追放する側だと錯覚していた……?


いや冷静に考えると大量生産する企業と手作業職人とじゃ比べ物にならんよね? 何でなろうだと手作業側が勝つんだろうなってのが今回のコンセプト。

いやホント企業努力ってヤツには頭が下がります。何でこの値段でこの質の品が作れるの?って思いますよね? レトルトカレーとか自分で同等品作ったら倍以上かかるんですけど?


……ところでジャンルをコメディーにしたけど思ったよりアドリアンが熱い奴になっちゃってコメディー臭が薄れちゃったんだけどジャンル変えるべきかなぁ?

気が付いたらプロットに存在しない友人が生えてきて死んでた件。ノリで書いてると設定が増えるのは稀に良くありますw

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