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彼女はそっちへ進化する

作者: 笹門 優

魔王を倒す勇者の話……ではありません。



「ぬぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 激痛に悲痛な声を上げたのは、彼の長年の相棒、パーティーの盾役(タンク)である筋骨隆々の男 ――アルベルド=セコマ。


 何時もの様にパーティーの盾として、彼の代わりに最強の四天王・虚ろなるエコウから攻撃を受けたのだ。

 役割分担(ロールプレイ)とは言え、自身の代わりに攻撃を受けて貰うというのは、慣れない。 それが友なら尚更だ。


 しかし一方で攻撃役(アタッカー)を受けた彼 ――ブランドー=セブンが攻撃をするのがその役割だ。 内心の葛藤とは裏腹に、すぐさまエコウへ斬りかかり手傷を負わせる。

 盾の影から現われ素早く攻撃を繰り出す彼は、細身ながらも引き締まった肉体で、力強い一撃を食らわせる。


「ブラン! ここは俺様に任せて先へ急げ!」


「何を言うんだ、アル!? タンクのキミだけを置いていってどうするというんだ!?」


 ブランドーは親友の提案を即却下する。


 ロールプレイとは形だけのものではない。 各人の素養と神の加護からなるそれは役割ごとに大きな補正を与えられる。

 アタッカーであれば攻撃力や素早さ、正確さが、タンクであれば体力や防御力、耐性が大きく上昇する。

 反対にアタッカーは防御面が、タンクは攻撃面が低下するのだ。

 盾役であるアルベルドがここに残ったとしても、ただ耐えるだけになりかねない。


「そう思うならさっさと魔王を自称する馬鹿たれを倒してこい! 第一! 早く行かないと姫様が生け贄にされちまうだろうが!」


 そのセリフにブランドーは言葉を詰まらせる。



 そう、彼らはその為に彼等は仲間を置き去りにしてきたのだ。


 回復役(ヒーラー) ――ケージ=ロソンは不死の怪物(アンデッド)と化した、かつての国軍を浄化する為に単独での殿を努めた。


 魔術師(キャスター) ――ディック=ファミットは魔王城を覆う多重複合結界を単独で破壊するも、長期的なマナ欠乏症となり戦線を離脱。


 斥候(スカウト) ――エロイム=ミニスは今でも一階で暗殺者達の足止めをしているはずだ。



「お姫様を助けるような、そんな英雄になるんだろう?」


 エコウの攻撃を受け止めながら、アルベルドは男臭い笑みを浮かべた。 彫りの深いその顔に、苦痛は見えない。 いや、見せない。

 十年以上も前に語った夢を口にされ、ブランドーは一瞬呆気に取られる。


「今が、その時だぜ。

 英雄(ヒーロー)に! なってこいやあぁぁぁぁぁっ!!」


 叫びと共に、ひしゃげ始めた盾を持つ腕が膨れ上がった。 何の技もない、ただの力でで殴りかかられただけであるのに、思わずエコウは後退する。

 その状況に、ブランドーが躊躇ったのは、刹那。


「――おう!!」


 ブランドーが駆ける。

 追いすがろうとするエコウを止めるのは当然アルベルド。


「こっから先は通行止めだぜ!」


 雄々しく盾を構えつつも、彼はちらりと走りゆく親友を見た。


(勝てよ、親友(ブラン)





   ―― TO BE CONTINUED ――



(-_-)(T_T)(-_-)



「あああああああっ! こんな、何でこんな所で『続く』なんですの!?」


 子爵令嬢ローズ=タイフーンは一冊の冊子を手にベッドの上でひたすらに悶えていた。


 手にしているのは、魔王を倒し、お姫様を救うという冒険活劇『英雄達の挽歌』を書籍化したものだ。

 冒険活劇は主に幼い令息達に人気のあるジャンルだが、この『英雄達の挽歌』は令嬢達の間でもブームになっている代物なのだった。


「しかもこれでは次回アル様の出番がありませんわ~」


 その秘密は冊子に描かれたイラストだ。


 それは繊細にして緻密。

 優美にして豪快。


 天才絵師バーラリアによって描かれた英雄達は、令嬢達の心をガッチリとキャッチしてしまったのである。


 言うまでもなくローズの推しは盾役アルベルド=セコマ。 マッチョなナイスガイだ。

 マッチョ過ぎて令嬢達の間ではそこまでの人気はないが、ローズは彼にドハマリしていた。


「いえ、下手をすると最終回まで出番がないのでは……?」


 最早最終局面である。


 これから先に別れた英雄達の出番があるか? そう訊かれて即「Yes!」とは言い難い。

 勿論、ブランドーの危機に颯爽と現われるアルベルドの姿を想像するのは容易だが、ちゃんとした理由がなければただのご都合主義なのだ。 それはいけない!


「……そうよ! わたくしが描けばいいのだわ!

 アル様を! わたくしが!

 ……ぐへへへへっ」 


 ローズはそう思った。 何故か思い至ってしまった。



 そして……。



「なにこのゴミは!? こんなのアル様じゃないわっ!」


「コレじゃ駄目だわ! わたくしの愛を込めるのよ!」


「何か見本は……手本は……!? お父様! 腹筋を見せてくださいまし!

 ――贅肉ではありませんかっ!?

 お兄様……は確認するまでもありませんわね」


「――先生っ! わたくしに絵を教えてくださいませ!」


「男同士の……愛!? 友情とは違うものですのね!」



 そんなローズはやがて『黒薔薇の女王』との異名を得るまでに成長するのだが、それは別のお話だ。



登場人物の名前はとても適当です。

アルファベットのAから順番に名前。姓はコンビニをもじっただけです。

A・セイコーマート

B・セブンイレブン

C・ローソン

D・ファミリーマート

E・ミニストップ

エコウはネーミング辞典を適当に開いて決めました。

バーラリアとローズは言うまでもないでしょう。

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― 新着の感想 ―
 アタッカーの主人公が魔王を(押し)倒し世界は(薔薇色の)愛に包まれた平和を享受する。  彼女の作品はそんな二次創作作品になりそうですね。(笑)  ……いや、そうなるとそれまで受け役だったタンクの彼は…
そっちとは……そっちだったのですね。 のちの様子からすると、「よくぞ目覚めてくださいました!」と喜んでくれそうな人がたくさんいそうですね。
パーティーの盾役であるアルベルドが攻撃役のブランドーを先に進ませるために四天王のエコウを単独で引き受ける場面は胸が熱くなりました笑 仲間たちがそれぞれの役割を果たし戦線を離脱しながらも最後の望みをブラ…
2025/10/06 03:34 退会済み
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