勇者、聖女そして負け犬
世界には主人公がいる。
それは聖剣に選ばれた勇者、そして聖杖に選ばれた聖者。
俺はなれなかった
毎日剣を振り、毎日魔力を使い魔法の訓練を行った。
欠かした日はなかった
毎日、毎日だ。
でも意味はなかった 。
超えていくんだ
俺が何年も訓練し会得したした剣技も
何年も魔力の操作を鍛え、勉学に励み学んだ魔術も
勇者や聖者ではない、村の全員が俺を容易く超えていく。
耐えられなかった
俺には憧れた勇者や聖者になる資格はないんだと世界から突き付けられている気がした。
だから王都に行った。聖剣と聖杖、そのどちらかに選ばれることができればその資格が与えられるから。
世界では少なくとも2千年も前から人間と魔族は戦っている。でも人間はいつも劣勢だ。勇者は聖者は何度も死んで代替わりをしている。
だが、魔王はただも一度も代替わりをしていない。
つまり、勇者の聖剣も聖者の魔法も魔王の命には届いていないということだ。
だから今溢れている英雄譚は勇者や聖女がどれだけ人類の生存権を広げ、それを守ってきたかという話であふれている。
俺はなりたかった。
誰からも認められる存在に
自分自身を認められる人間に
だけど俺にはなれなかった。
聖剣は、聖杖は俺のそんな浅はかさを見抜いていたんだ。
だから俺には引き抜けなかった。
星の聖剣を
だから俺には触れられなかった。
命の聖杖を
俺は目にしてしまった。
聖剣を引き抜く男の姿を
聖杖を握る女の姿を
俺は夢に、自分に、現実に与えられた才能に負けたんだ。
世界はその日希望に満ち溢れた。
これまでの歴史で初めて勇者と聖者がそろった。
人類は雄叫びをあげた
魔族はせせら笑った
俺はただの負け犬だ。