日々常々
じりりりり。
朝、目覚まし時計に起こされる。
顔を洗う。
ぱしゃぱしゃ。
朝食を食べる。
もぐもぐ。
歯を磨く。
しゃっこしゃっこしゃっこ。
くちゅくちゅ。
ぺっ。
着替える。
「行ってきます」と言う。
がちゃり。
駅まで少し歩く。
とことこ。
電車に乗る。
がたん、ごとん。
今日もまた、日常が始まる。
わたしは有栖 芽依。名前がどう見てもメアリー・スーの捩りだけど(正直両親のセンスを疑った)、これと言った特徴の無い女子高生。典型的女子高生ランキングがあったら少なくとも外見部門では1位になる自信がある。
わたしには1つ、悩みがある。日常が一切変わり映えしないのだ。勿論、少しずつ変わってはいるが、変化が微妙すぎて、馬鹿なわたしには分からない。
毎日、流行りの話題。何れ廃れるその話題に何故あれほど熱中できるのか、わたしには理解できない。
授業は割と初期からついて行けていなかった。入試は(その高校では珍しく)定員割れを起こしていたので楽に入れたが、その先は地獄だった。なにせ基礎を家庭学習に丸投g任せて学校の授業では応用発展しかやらないのだから。今では9割方理解を諦めている。どうせゲキムズ大学に行くわけでもないし。音大志望で数学なんて使うこと無いし。
あと、部活も若干そこそこかなりサボり気味。みんなの熱量が高すぎてさぁ…いや、わたしの熱量が低すぎるのかもしれないけど。
カッカッカッカッ。
「はい、この問題解いてみて」
今日もまた、数学教師が黒板に暗号を書き連ねる。微積分なぞ基礎の基礎までしか分からん。インテグラルの右側上下についてるちっちゃい数字、あれ何?定積分で使う、って事くらいしか分がんね。
ただ、勿論そんな日常にも、楽しみと言うか。そういうのはある。
わたしには好きなボカロPが居る。その人の音楽を聴いていると落ち着くし、夜に聴くとほんのちょっとだけ泣きたくなる。アルバム欲しいよぉ…
わたしには好きなゲームがある。とは言っても、それはスマホゲームなどではない。trpgってやつで、リアルで数人集まって話し合いながら進めるゲームだ。いつか学校のみんなとやりたいなとは思っているが、未だに誘えてない。(ま、それでもいいかな)
わたしにはちょっと変わった趣味がある。とあるアプリのアバターの、寝顔観察だ。これがまたかわいいんだぁ…にへへ…
「有栖ちゃん、その…お昼、一緒に食べない?」
…おっ、日常が少し変わる気配。
「別にいいけど…何で?」
「何となく…」
「…そ。ま、隣いらっしゃい」
「あ、ありがと!」
「どういたしまして。…で、何か話の話題とか持ってきてんの?」
「あ、その…有栖ちゃん、全然関わり無いから、なんか共通の話題とか持てたらなぁ、とか…」
「ふぅん…そだ、trpgって知ってる?」
「あ、知ってる知ってる!」
………
……
…
…まさかtrpgの話題で盛り上がるとは思わなかったな。同好会設立の話になるまでいくとも思わなかった。
今日の戦利品は、退部届のテンプレート。
がたん、ごとん。
電車に揺られて、家の最寄り駅に向かう。
…疲れたな。
…いま、どこ?
…
ヤバっ、寝過ごした…まだ一駅だから取り返しつく。
…あれ?アナウンスも無しに停車?しかも何この駅…ってか周り誰も居ないし。
【きさらぎ】
…へぇ、上等。
「ねえ、他に誰か居る?」
「…えっ!?有栖ちゃん?」
まじか、今日一緒に昼ごはん食べた人じゃん。
「突発卓といきますかぁ」
「GMは?」
「運命とか因果律とか、そういうの」
「オッケー。それじゃ、これからセッションを始めます。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
降車した瞬間、電車は出発した。もう後戻りはできない。
…久々の非日常。全力で楽しんでやる。