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第三十話 往路(4)

 ブォォォオオオオ!


 グリーデが召喚笛を高らかに鳴らした。しばらくすると空の向こうからドラゴンが一頭飛んできた。

 黒っぽい鱗に覆われた大きなドラゴンだった。

 ドラゴンがこちらに気づくと、いそいそと一同は背中に乗った。

 

「行きましょう」


 グリーデがそう言うとドラゴンの手綱を引いた。ドラゴンが翼を羽ばたかせて、浮上した。気づくと地面が遠くなり、空中を飛んでいた。


「すごい!」


 ケルヒャーは目を丸くした。空高い風はすこしひんやりして山の上や平原とはひと味違った感じだ。

 ドラゴンが鳴いてケルヒャー達はアポロ平原へ向かった。



「よっと……」


 ドラゴンが地面に着地する。気づけば一同はアポロ平原に立っていた。飛び続けていたのでドラゴンは疲れた様子だった。グリーデがドラゴンに餌を与えて帰らせた。


「ここから先は三日は平原を歩くことになりますね」


 レスクリンがそう言った。ケルヒャー達はアポロ平原を歩き出した。平原を先へ先へと一同は進んだ。アポロ平原のさきにはガルブオ山脈が見えた。ときおり小さな林がぽつんと見えた。その林を超えたさきでケルヒャー達は見た。


 ――――ダークギスレーだ。


 今まで見た林と比べものにならないくらいの大きな樹木が立ち並んでいる。そのなかでも一段と大きいものにアイシアの関心が向かっている。


「アイシア……?」

「これじゃ、この樹じゃよ。ダークギスレーのシロップが採れる樹じゃ」


 これがそうなのか。ケルヒャーはまじまじとその樹を見つめた。手を当てて、その樹の樹皮の堅さを確かめる。ごつごつとした質感だ。

 レスクリンの表情が曇った。


「この樹に持ってきた工具で穴が空きますかね?」

「やってみよう……」


 ケルヒャーは荷物の中からドリルを取りだした。樹に突き刺してみようとするが、うまく嵌まらない。


「あれ……?」

「やっぱり。街の工具なんかじゃ、穴が開けられませんよ」

「どうするんだ。これじゃ、ダークギスレーまで来たのに、骨折り損のくたびれ儲けだぞ」


 ケルヒャーは手のひらを閉じたり開けたりした。まったくどうするんだ。

 レスクリンが思案してから言葉を継いだ。


「魔法でやりましょう」


 レスクリンの発案はこうだ。魔法で強化した剣戟でダークギスレーに傷をつける。ただ傷をつけるだけではダメだ。深く、傷つけるために、高度な詠唱魔法を使う。そのためには一度アイシアの顕現を解く必要があった。


「アイシア、それでいいか?」

「仕方なかろう、消えているあいだに仕事を済ませてくれ」


 レスクリンとケルヒャーは視線を交わした。ケルヒャーが剣を構えた。そうしてアイシアの姿が消えた。レスクリンが詠唱を始めた。あたりの空気がすこしだけ冷たくなったような気がした。


高尚なる叡知の神よチョコ・ラ・ティエ・エン硬き岩をも砕け(イエ・エン)霊の力を持って(ロッ・テリアン)我が力を勇者に託せチョコ・パイ・エン・ルーヴ……」


 紫色の波動がケルヒャーの剣に宿った。そうしてケルヒャーの俊足と剣戟がダークギスレーを砕こうとする。剣はものすごい音を立てて、ダークギスレーの表面を砕いた。なかから勢いよくシロップの原液が溢れ出した。

 グリーデがうしろでにひひと笑った。そうしてレスクリンは収納魔法で樽を引き出して中にシロップの原液を注いだ。

 レスクリンが顕現魔法を唱えるとアイシアがぱっと姿を現した。その姿はさらに幼く、レスクリンの魔力消費量が計り知れないと分かった。


「なんでこの姿ばぶ……」

「すみません。私の容量不足です」


 レスクリンが謝るとアイシアは大人しくなった。顕現しているだけ良かったのか。


「ダークギスレーのシロップの原液はしばらくしたら溜まるだろう。ガルブオ山脈にこれから向かうことになるけれど、どうしようか?」


 アイシアとレスクリン、そしてグリーデ。そしてケルヒャーの四人でフェニックスを討伐する。それが可能なのか。旅の支度はすでに帰ることを想定したものだ。ガルブオ山脈へ行って帰ってこられる保証はない。


「……私が友達を連れてきます」


 とレスクリンが提案する。


「友達?」

「はい。と言っても人間ではありません」


 一同は顔を見合わせた。人間じゃない? グリーデさえ困惑した顔になる。


「待ってください。青き精霊よ出でよ(アルフォート・エン)!」


 レスクリンがそう唱えると、破裂音の後に青い光が見えてきた。その青い光がぱあっと明るくなると、陽気な感じの男の声がした。


「はーい、どうも!」

「彼はジン・アルフォート。精霊の一種です」

「初めて見るタイプばぶ……」

「それもそうでしょうね。ジンは古い精霊ではなく、王都成立後に魔法研究の最中に生まれた新造種精霊です」


 ジン・アルフォートが長ったらしい自己紹介をしたが、割愛する。


「それでこいつに何ができるんだ?」


 ケルヒャーはレスクリンに尋ねた。

 

「彼には特徴はありません。ただし――。アルフォート。やってごらんなさい」

「はい。マスター」


 アルフォートが一段と輝いたところで、空中に幾何学図形が現れた。


「これは? 地図か?」

「ご名答。でもただの地図じゃありません」

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