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第二十九話 往路(3)

「グリーデ? グリーデ!」


 ケルヒャーはグリーデを探した。尾根道を戻ってみる。曲がりくねった道を戻るとグリーデが立っていた。


「グリーデ! こんなところにいたのか……」


 グリーデが振り返るとその瞳が赤く輝いた。そして赤い触手がケルヒャーに襲いかかった。

 咄嗟に飛び退いて避けるケルヒャーだが、グリーデは心ここにあらずといった感じだ。


「どうしたんだ、おまえ……」


 グリーデは黙ったままだ。ケルヒャーは剣を抜いて、彼の元に駆けていく。剣を振るうとグリーデの赤い触手がケルヒャーの剣と交差した。


「くぅ……!」


 ぎりぎりとケルヒャーの剣が赤い触手を押していく。グリーデの瞳をじっと見つめる。するとグリーデが正気に戻った。


「ケルヒャーさま……!」

「これはどうなってるんだ?」


 赤い触手がケルヒャーを押し切る。距離を測って、ケルヒャーが叫んだ。


「グリーデ、おまえは魔物だったのか」


 頭を抱えたグリーデが言った。


「いいえ、これはデイモンプレイスから帰ってきたときの呪いでございます」

「なに?」


 ケルヒャーは剣を下ろした。そしてグリーデを睨んだ。


「お前のその力はどうしたら、引っ込むんだ?」

「しばらく太陽の光に身を晒しておけば、だいじょうぶです」


 場は膠着(こうちゃく)した。

 

「昨晩お伝えした討伐隊のメンバーはこのような(しょく)の状態になって、身近な人間を近くに置けないのです」


 ケルヒャーは眉根を下げて穏やかな表情で言った。


「それは、寂しかろう」

「もう慣れました。私はこれまで通り闇を生きていくのですから」


 ケルヒャーは意を決して叫んだ。


「俺はお前の触手を倒してみせる」

「え?」

「俺はお前からその魔物の力を取り除いてやるって言ってるんだ」

「それは無理です」

「無理でも手がかりくらいは探してやりたい」


 グリーデの瞳が揺れている。ケルヒャーはゆっくり彼に近づいた。剣は下ろしたまま、隙だらけの姿で。グリーデの赤い触手がケルヒャーに襲いかかる。


 ところが、赤い触手はケルヒャーに触れる前に止まった。

 ケルヒャーはグリーデを見つめた。グリーデの目に涙が溢れた。


「あなたという人は、なんてバカだ」


 二人でテントに戻るとレスクリンとアイシアが待っていた。

「どこ行ってたんですか?」


 ケルヒャーは訳を話した。レスクリンは驚いた様子だった。アイシアは黙って聞いている。そして続けた。


「デイモンプレイスの呪いか……、それを解くにはフェニックスの生き血が必要かもしれないな」

「それは不死の秘薬では?」


 レスクリンが尋ねる。


「もともとフェニックスの生き血は魔を滅するとも言われておる」

「ということは、魔物の呪いもそれで解ける可能性があるのか」


 ケルヒャーは俯いて、顎に指を添えた。


「ただフェニックスだ。そう簡単にいるはずもない。ガルブオ山脈のむこう。メルティキ山の頂上まで行くしかなかろう」

「それは長旅になりそうだ」


 一同は顔を見合わせた。

 アポロ平原へ向かい、そしてフェニックスを追ってメルティキ山へ向かおう。


 ケルヒャー達は歩みを進めた。

 尾根道を進んでいく。さわやかな風が頬を撫でた。気持ちがいい。汗は乾いていき、高い空にも手が届きそうだ。

 日差しはそれほど強くなく、一同はリズムよく進む。モンスターも現れない静かな道だった。カカオロッジちかくになって人間の影も増えてきた。


 ログハウス風のカカオロッジの扉を開けると、なかでは数人の登山客が座って待っていた。店主がリュートを手に愉快な音楽を奏でていた。

 ケルヒャー達はほっと一息つく。

 ベンチに座る。神々しいアイシアはかなり目立った。周りの客達が頬を染めて彼女を見ている。視線に気づくと、「なんじゃ?」と言った。幼女なのに偉そうだ。

 カカオロッジで休憩をとり、山道を下る計画だった。これまで道の三分の一といったところだった。


 ◆

 ケルヒャー達はカカオロッジを出て、山道を下っていく。キングバイソンという牛型のモンスターに出くわしたが、黙って見逃した。余計な戦闘を避けることにした。装備は有限だからだ。さいわいキングバイソンはのんびりした性格で大きさのわりに好戦的ではなかった。一同は身を潜めてキングバイソンが通り過ぎるのを待った。


 ――ドシン……

 ――ドシン……


「のろいのぅ……」

 アイシアが呟いた。


「……シッ」


 ケルヒャーはアイシアに静かにするように促した。


「すまんな」


 アイシアが舌を出して謝った。

 レスクリンが辺りを見渡して言う。


「これからアポロ平原までの平坦な道はモンスターがつぎつぎ出てくる可能性がありますね」

「でしょうね。にひひ」


 グリーデが笑って答えた。そうだ! とグリーデが言った。


「ドラゴンをここで呼び出しましょう。アポロ平原までひとっ飛びです」


 アイシアの瞳が輝いた。


「ここぞというところでドラゴンを使うのじゃな」

「アポロ平原までの道を空から行けば、楽勝というわけだな」


 ケルヒャーは腕を組んだ。

 グリーデが荷物からゴソゴソと召喚笛を取り出した。

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