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第十五話 国王の食卓

 王都には先に出発したレスクリンが待っている。馬車が王都へ着いたときにはすでに夜の帳が下りていた。王の城が街の中央のすこし高い場所にあり、遠くからでも王の城が見られた。灯火がぽつぽつと灯っていて、ぼんやりとした幻のような風景だった。

 大門をくぐると、表通りを馬車は進む。レスクリンと待ち合わせをしている通りへ馬車は急いだ。

 風景が変わったことをケルヒャーたちは気づいていた。イライザは拳を固く握りしめていた。緊張しているようだ。あの豪放磊落(ごうほうらいらく)なイライザにしては珍しい。


「レスクリンと合流後、俺たちはビヒャルテ公が逃亡した南の方角へ向かう」

「……わかってる」

「外は物々しい雰囲気だな」


 表通りは騎士たちがうろうろしていた。あんなことがあった直後だ。警戒しているのだろう。ケルヒャーたちはいちど馬車から降りた。暗く細い路地へと入っていく。

 正面にレスクリンがいた。


「お待ちしていました……」


 膝を折っている彼の様子は変だ。レスクリンに駆け寄ると、腹を押さえている。


「レスクリン? 怪我をしているのか?」

「マークされていたようです……」


 つけられていた? ハッとすると物々しい気配がした。明かりが伸び、ケルヒャーたちの影を作った。後ろから声がした。


「お前達、そこでなにをしている……?」

「酔っ払った友人を介抱していただけです。何でもありませーん」

「見せてみろ」


 ケルヒャーは苦笑いを浮かべると、近づいてくる騎士を止めた。


「何だ? どうして止める?」

「いやいやいやいや……」


 蹲っているレスクリンの顔には脂汗が滲んでいるのだろう。

 騎士がもうひとりやってきた。騎士達がざわざわし始めた。マークされていたレスクリンに気づくと物々しい空気はさらに増した。

 

 ケルヒャーは仕方なく剣を抜いた。騎士達が応じて構えを作る。


「――――待って」


 大声をイライザが上げた。

 ケルヒャーの前に出たイライザがこう言った。


「私はオリヴィエ・アスファルム。第一王女、オリヴィエよ!」


 騎士達のざわめきが最高潮に達した。


「行方不明のオリヴィエ王女だと……!」

「すぐさま近衛兵に伝えよ!」

「緊急事態だ!」


 混ざり合う声の中で、ケルヒャーは気づいた。もう元の関係になんて戻れないのだ。蹲るレスクリンに肩を貸した。救護隊は少ししてからやってきた。イライザの命令だと思う。

 その細い路地はケルヒャー達を大きく変えてしまう分かれ道だったのだ。


 ◆


 王城に馬車で赴くと、ケルヒャー達は客人として迎え入れられた。レスクリンは逆賊A、そしてケルヒャーは逆賊候補B。状況だけ見ればおかしい。そして逆賊達が行方不明のオリヴィエ王女とともに行動していたとなると事態は複雑となる。

 オリヴィエ王女たちを囲んだメイド達が口々に変わりはてた王女の体をよくよく観察していた。

 無理もない。引き締まった筋肉質の体は城で暮らす王族のそれとは似ても似つかない。ドラゴンを討ち果たした稀代の女剣士が王女というのも、それはそれで希有だろう。


 イライザ=オリヴィエ王女は奥の部屋へ通された。レスクリンはオリヴィエ王女によって命令が成されているから大丈夫だとして、俺はどうだ? ケルヒャーは正装とはいえ、王城に立ち入れるような姿格好をしているとは微塵も思えなかった。

 執事数人がケルヒャーのもとにやってきて、服を取り替えた。ジャケットは金ボタンのついた綺麗なものに変わり、パンツスーツもさらさらと心地のよいものに履き替えさせられた。

 ケルヒャーは執事達に続いて大回廊をすたすたと歩いて行く。大きな薔薇の装飾がついた扉のまえで待っていると、向かい側から華やかなドレスを纏った女性がメイド達とともにやってきた。その女が横に立つと、目配せした。ケルヒャーはついつい見蕩れてしまう。もういちど女が目配せした。何の合図だ? それ。ケルヒャーはその女の正体に気づいていない。


「……バカ」


 声はイライザのもの、いやオリヴィエ王女だった。


「……イライザなのか?」


 ケルヒャーは言葉に詰まってしまう。あのドラゴン殺しの女剣士がこんな美少女だったなんて――。


 ふたりが扉の前に揃ったところで執事の一人が扉を開けた。

 輝くような大広間だった。丁寧にしつらえた純白のテーブルクロス、銀の食器やカトラリーが整然と並んでおり、食事の支度が調えられていた。

 長テーブルには国王ルーカスや妃、そして第二王女、第三王女が座っている。ケルヒャーとオリヴィエ王女もテーブルに座った。


 前菜が運ばれてくる。ぎこちない手つきでケルヒャーは前菜を口に運ぶ。テーブルマナーのいる席はこれが久しぶりだった。オリヴィエ王女は伏し目がちに食事を口に運んだ。その所作は無駄がなく、流れるように美しかった。


 国王が言葉を発した。


此度(こたび)の反乱に加担していたのは、君たちなのかな?」

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