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第十三話 策謀の糸、革命の火種

「レスクリン、もうすこし上流に移動しよう」


 川のせせらぎと小鳥の鳴き声。ケルヒャーとレスクリンは川で釣りに勤しんでいた。レスクリンの表情は複雑で、楽しそうにしているようにも見えたし、時折上の空のようにも見えた。

 流れを見ながら、レスクリンはぽつりぽつりと自分のことを話し出した。


「わたくしはずっと王都にいました。そこで剣の腕を磨いておりました。十四のときにはとある大会で優勝したほどの実力がありました。自分の実力のみで成り上がれると信じていたのです。

 ところが十七のときでした。夜の帳が下りた街道で複数の男達に襲撃を受けたのです。わたくしは応戦しましたが、多勢に無勢、わたくしは殴られ、蹴られ、腕の骨を折られてしまったのです。医者も治せないほどの怪我でした。

 わたくしはなぜ襲われたのでしょうか? それは後から調べれば簡単なことでした。大会に出場していた者のひとりがわたくしを疎ましく思ったのでした。わたくしは剣の道を諦めざるを得えませんでした。

 そんなとき、ビヒャルテ公に出会いました。あの方のもとで魔法の技術を究めて、わたくしはふたたび力を取り戻しました」


 ケルヒャーは眉をひそめてレスクリンに聞いた。


「そのビヒャルテ公がどうして反乱を企てているんだ?」


 レスクリンは俯いた。長い前髪で表情はよく見えない。


「それはまだお話しできません」


 すこしばかりの沈黙。

 ザザーと川の流れが沈黙を破った。ケルヒャーは針に餌を付け直した。竿を振るう。水晶Wi-Fiからは雅な音楽が流れている。王都はいまごろどうなったか。俺には関係ない。ケルヒャーは垂らした釣り糸が引くのを感じた。来た……!


 レスクリンはケルヒャーを見つめる。


「こうしてわたくしたちが平穏に暮らせるのは、王都が平和だからでしょうか? 違うとわたくしは思います。王はこれから魔族と密かな契約をしようと考えているようです」


 いま何て言ったか……? 魔族? 契約……?

 竿を手前に引くと、魚が釣れた。活きのいい魚だ。


「――まぁ、難しいことはいいよ。つぎは焚き火を燃やそう……」

「分かっているのですかっ! これはわたくしたちの国の危機なんですよ!」

「レスクリン、お前。魔法で火を(おこ)すなよ」


 レスクリンは詠唱を止めた。


「魔族が王都にいるってビヒャルテ公が言っているのか?」

 

 火を熾しながらケルヒャーは尋ねた。脂汗が額に滲む。


「まずは疑うべきはビヒャルテ公ではないのか?」

「……くッ! 何を言っても分からないようですね! わたくしたちは王都へ赴き、王の首を獲るんですよ。そして……」

かくめい(・・・・)、か?」


 ケルヒャーは火を紙に移し、薪の重なった場所に置いた。風でかき消されないように注意しながら、火はやがて薪全体に燃え移っていく。


「知っているか。革命っていうのは、隣国から見ればチャンスなんだ。都市の攻守が内部に集中するからな」

「なにを仰っているんですか?」

「わからないか?」

「……分かりません!」


 レスクリンの表情は強張った。


「ビヒャルテ公はわたくしの恩人です……! それに……」

「本当にそう思うのか?」

「――だったら決闘してください!」

「おいおい、待てよ。魚が焼ける。俺たちは何のために釣りをしたんだ?」


 炙られた魚から香ばしい香りが立ちこめる。食欲を刺激してくる。無視なんかできないだろう? 


「レスクリン。ビヒャルテ公を疑えよ。俺たちはビヒャルテ公に騙されているとは思わないか?」


 レスクリンは何か言いたげに俯いて黙ってしまった。

 彼に魚を渡すと、はふはふとレスクリンは焼いた魚に齧りついた。


「美味しい。美味しい……」

「だろ?」


 ケルヒャーも魚に齧り付く。柔らかな身がほどけ、脂がじゅわっと口に広がる。

 水晶Wi-Fiから臨時ニュースが聞こえてきた。


「さきほど、王都にて反乱軍が起こした内乱は鎮圧されました。首謀者であるビヒャルテ公は逃亡した模様――」


「……わたくしは騙されていたのでしょうか?」

「ビヒャルテ公に聞くしかないんじゃないか。王都が魔族と契約していたのも、ビヒャルテ公が隣国と内通していたかも、すべて本人に聞いてみればわかるだろう」


 レスクリンは、はたとケルヒャーに向き直った。レスクリンの表情がぱぁっと明るくなる。


「では、ケルヒャー様も王都に出発なさるのですね!」

「わかった、わかったよ……。(王都まで行くのか、だりぃ)」

「何か仰いましたか?」


 ケルヒャーは明後日の方向を向いた。

 二人は家路についた。時刻は夕方といったところだった。川魚のノルマに気づいたケルヒャーは急ぎ、釣りを始めた。レスクリンも隣で釣りを始めた。背後にはお腹を空かせた獣(イライザ)が爛々とした目つきで立っていた。

 釣りが終わるまで帰れそうにない。


「お二人とも、ずいぶんごゆっくりなお支度ですのね、私もご一緒させてもらいたいなぁ……」

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