最終話「ドリフターズと汚れた手」7(3/6)
「え、……ルスフォードさんがどうしてここに?」
マイラは目を見開いた。
「お前を殺すためだよ。マイラ」
「どうしてわたし?」
「この本を守るためだ。スモール博士も、ガープも、そのために殺されたんだ」
俺はマイラに向かって本を投げつけた。
「おっと」
マイラは飛んできた本をなんとかキャッチする。
マイラがタイトルに目をやったのを確認し、俺は話をつづけた。
「すべては一冊の本から始まったのさ。俺は馬鹿で、おまけに子どももいないからこんな本があることも知らなかったが、上流階級ではほとんど古典になりつつあるようだぜ」
マイラにも見覚えがあるだろう。
アレボリスが新居に引っ越した日。マイラが、アレボリスの家から盗んできた本。
『ミシェルの五人の子どもたち』だ。
「どうしてこの本がここに?」
「ガープが隠し持っていたのを見つけてきたのさ。ルスフォードは、昨日の夜か今朝か、ガープの家によって彼を殺している」
「え……みんな仲良しだったよねぇ……全然、分からないんだけど……」
「まあ、順に話していこう。マイラ、その本の三章、三人目の子どもの子育て法を読んでみてくれないか」
俺は彼女が目を通す間に、その本について語り始めた。
ルスフォードには、このあたりが諦めどきだと、分からせてやらなくちゃいけない。
「その『ミシェルの五人の子どもたち』を書いた作者こそが、今俺たちの目の前にいるルスフォードだったんだ」
ガープの家で本を手に取ったとき、そこには小さくだが、はっきりと「L・ルスフォード」の文字があった。
「彼が書いたその本は、上流階級の中でたちまち話題になった。誰だって子育てには自信がないものだろう。そんな不安に応えるような、完璧な子育て法があれば、誰もが頼りたくなるはずだ」
しかし、その内容はとても危なっかしい内容だった。
子どもを謙虚で控えめな子に育てるために顔にアザを作り、醜い、不細工な子どもだと罵りながら育てる。これは次女の育て方だったか。
この異常な育て方を実践されたのがコラリーのお母さんで、彼女はそのままの自分を愛し、認めてもらうことを恐れ、乞食や娘を失った母親として、同情を集めることに躍起になった。
マイラはページをめくり、三章の書き出しにたどり着くと、震える声でその内容を読み始めた。
「ミシェルは三女ニーナを、我慢強く、家事や育児に耐える女性に育てたいと思った。それには体力、気力、そして知性が必要だ。ミシェルは大量の食事と運動で、ニーナを丈夫な子どもに育てようと考えた。そのために朝、昼、晩と街の司祭と同じ献立の料理を食べさせることにした。司祭はまるまると太っていて健康そうだったからだ」
本を朗読するマイラの表情はより悲壮なものになった。
「ミシェルはニーナに大量の食事を与え、朝は読書、昼からははだしで山の中を遊びまわらせ、そして夜は彼女に忍耐を覚えさせた。冬の冷たい水で洗濯をし、夏の暑い部屋でパンを焼けるような強い女性に育てるために……」
「レイ――これ、お母さんがわたしにしたことだよ!?」
マイラは青い顔をして、救いを求めるように俺を見た。




