最終話「ドリフターズと汚れた手」6(1/2)
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詩人というだけあって、ガープのアパートは見るからにボロかった。
部屋番号を聞いてきたものの、あまりの古さに本当にあっているのか不安になり、俺は近くを通りかかった住人に確認を取らなければいけなかった。
通りがかった住人の話によると、彼はそのアパートの一室を借り、五年近く暮らしているらしい。
夜は寝るのが遅いらしく、部屋の窓からはいつも明かりが漏れているという。
朝、出社するために全力疾走でアパートを駆けだす姿が近所で有名だとか。
夜に詩を書き、朝寝ぼけまなこで駆けだす使徒の姿を想像しながら階段を上り、ガープの部屋の扉をノックした。
返事はないが、中に誰かいるようだ。
ガープと思しき、地鳴りのような声が扉越しに漏れ聞こえてくる。
何を言っているのかはさっぱり分からないが、よほど親しい人物なのだろう。
使徒がここまで饒舌に語る様子を俺は見たことがなかった。
「おい、ガープ。レイモンドだ。開けてくれ」
俺は扉をガンガンと叩いた。
確認したいことがあるからといって呼び出したのはガープの方だ。
先客が来ているのは結構。片手間に対応されたって構いやしないが、外で待たされるのは勘弁だった。
「おい、ガープ!! 昨日、約束しただろ!!」
俺はガンガンとドアを打ち鳴らした。
話し声はもう聞こえなくなっていた。
中の様子を確かめるように扉に耳をあてた。
そのときだった。
中で、ドンッと音がした。まるで重たい扉を乱暴に閉めたような激しい衝撃音だった。
「うるさいな」
俺は慌ててドアから耳を離した。
中からは何の音も聞こえてこない。
人の気配が急に感じ取れなくなった。
「なんだ今の音は……」
俺はスモール博士の部屋を訪れたことを思い出していた。
女中が聞いたという話し声、だが、中からは何の反応もなく、扉を開ければ、そこにはスモール博士の死体が転がっていた。
今の状況はあのときと似ているように思われた。
「入るぞ、ガープ!!」
俺はとっさにドアノブに手をかけた。
ドアノブはするりと回転し、扉はあっけなく開いた。
「そんな――どうなってるんだよ……」
目の前に広がる光景に俺は驚愕した。
部屋の中はぐちゃぐちゃだった。
まるで泥棒が入ったあとのようにひっかきまわされ、床には棚の中の物がぶちまけられていた。
その中で、ガープは書類の山に埋もれるようにして倒れていた。
俺は近づいて行って、ガープの身体に触れた。
彼はすでに息をしておらず、心臓の鼓動も感じられなかった。
「おい、ガープ!! ガープ!!」
俺は彼の身体を揺すった。
衝撃で息を吹き返さないか、目を開けないかとわずかに期待していた。だが、俺をあざ笑うかのように、死体は力なく転がった。
俺は天を仰ぎ、言葉にならない声を漏らした。
事態を受け入れるのに、しばらくの時間が必要だった。
しばらくして我に返ると、俺はガープの死体を調べ始めた。
「また打撲のあとか……だが、今度は前からだ」
俺はガープの額にぱっくりと割れた打撲跡を見つけた。血は赤く濡れ輝いており、傷口はわずかに凹んでいるものの、うっ血はまだ始まっていない。
「さっきまで話し声が聞こえていたはずなのに……」
何がなんだかサッパリ分からなかった。
死体の状況はスモール博士の場合とぴったり一致する。
直前に聞こえた話し声、死因と思われる打撃痕。しかし、ガープが先ほど殺されたのだとしたら、犯人はどこへ消えたのだろうか。
この短時間で、犯人は窓から外に出たというのだろうか。
部屋の窓を確認してみたが、どれも鍵がかけられ、中から外に出た痕跡はなかった。
そして、この部屋。
荒らされまくっている。先ほどガープが殺されたのなら、ガープは犯人が部屋を荒らすのを見ながら、穏やかな口調で犯人に語り掛けていたのだろうか。
「自分の部屋を荒らす犯人と能天気に談笑するバカがいるか?」
俺は部屋の中をぐるぐると歩き回って、手掛かりになるようなものがないか探した。
「クソッ……ガープはマイラの病気について何か知っていたみたいだったのに……」
自分の間の悪さに呆れるしかなかった。
もし、ガープがマイラの窃盗癖について治療法を知っていたのなら、またしても俺は千載一遇のチャンスをつかみ損ねたことになる。
治療法さえ聞ければ、未来はまったく違っていただろう。
「殺された人間を責めるわけにもいかねえな」
俺は書斎の椅子にどっかりと腰を下ろし、何から考えるべきか整理しようと部屋を眺めた。
「なんだこれ?」
そこで俺は書斎の机に一枚のメモが置かれていることに気が付いた。




