最終話「ドリフターズと汚れた手」5(2/2)
「ご、ごめんなさい!!」
マイラはすぐさま頭を下げると、ポケットの中から羽ペンをとりだした。
俺は唖然とした。
この野郎、あの場で、アレボリスの友人の所持品を盗みやがったのだ。
「ヤッパリ。オマエタチカラ、ニオイガシタ」
ガープは俺とマイラの手を力強く引っ張った。
「チアンブタイにツキダス」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
俺はとっさにガープの手を振り払った。
俺は思考を巡らせ、苦しい言い訳を必死で考えた。
使徒は頑固で、融通がきかない。間違ってポケットの中に入れたとか、訳が分からなくなるほど酔っ払っていたなんて理由じゃ、許してもらえないことは分かっていた。
うまい言い訳が思いつかず、結局俺は、本当のことを打ち明けることにした。
「ガープ、本当に申し訳ないことをした。窃盗をしたのは紛れもない事実だ。それに関しては、罪を償おうと思う。だが、この女は病気なんだ。突然、窃盗衝動に駆られることがあって、それを自分では抑えることができないんだ。いや、いつも必死に我慢してる。我慢してもなおどうしても抑えきれないときがあるんだよ」
「ビョウキ? マサカ」
ガープは冷淡にマイラを見据えた。
「本当なんだ。先日もスモール博士に診てもらって、病的窃盗の治療を始めたところだったんだ」
「ハカセガ、ミトメタ?」
ガープの瞳がわずかに揺らいだ。
「そうだ。博士はマイラは単なる泥棒じゃなくって、心理学的に異常な傾向にあると結論付けてくれたんだ。そして、その原因や治療法を探し出してくれると言ってたところだったんだ。あんな風に死んでしまったから、確かめることはできないけどな。なんならアレボリスに聞いてくれ。博士を紹介してくれたのは、アレボリスなんだから」
「マテ、ハカセハ、コノオンナ、ビョウキをシラベテイタ?」
ガープの態度が変わった。
「そうだ」
「クワシク、キカセロ。ハカセハ、ナニヲキキダシ、ナニニ、カンシンヲモッタ?」
ガープは何かに突き動かされるように身を乗り出した。
俺はスモール博士に診察してもらったときのことを話した。
マイラの症状から身長、体重、出身、生い立ち。
博士は話の途中で急にマイラが異常なほど厳しくしつけられたことを言い当てて見せたこと。
ガープはそれらの話を注意深く聞いていた。
「ソウイウコトカ――」
ガープは頭を抱えた。
「なにか分かったのか? 事件のこと? それともマイラの病気のこと?」
「イマハナニモ」
「でも、何かに気が付いたんだろ?」
ガープは俺の問いを無視して言った。
「オマエタチ、アシタハヒマカ?」
「昼は仕事があるが」
「ヨルニオレノイエニコイ。カクニンシタイコトガアル」
ガープはそう言って、自分の家の場所を紙に書いて渡してきた。
商業地区の東にある古いアパートに住んでいるようで、分からなければ、そのあたりで聞けば教えてくれるだろうということだった。
「タダシ、オンナはツレテクルナ。ドロボウ、イエニアゲタクナイ」
感情の乏しい冷淡な声だった。
「おい、そんな言い方ないだろ」
俺は噛みつかんばかりに言った。まるで目に付くものはみんな盗んでいくような言い草だ。マイラは一週間に一度、発作を起こすことがあるくらいで、俺がよく見てやれば何の問題もない。
「ナンダ、オコッタノカ」
「当たり前だ」
「オレノイエダ」
「お前なあ――」
使徒の言葉足らずで冷淡な物言いがこれほど憎たらしく思えたことはない。
「良いの、レイ。わたしが悪いんだから、ガープさん、本当にごめんなさい」
マイラが俺をなだめようと腕を引いた。
「オトコがイレバ、ハナシハワカルナ?」
ガープはマイラと視線を合わせようともしなかった。
「うん、レイはわたしのこと全部知ってるから」
「ヨシ」
ガープは心ここにあらずと言った様子でどこか遠くを見つめていた。




